128話 救助係の採用試験
「ここだ」
エリリアさんに先導され到着したのは高さ20メートルはある、土壁で覆われた道……中は迷路のようになっていて、複雑な場所だ。
「このセーフティリンクが見えるか?」
「うん、見えるよ」
ぱっとみで10本ほどのセーフティリンクが迷路に向かって伸びている。その10本は全て一つの柱の様なところに括られ、繋がっている。
「このセーフティリンクのどれかが赤く光る。そうなった際にそのグループはピンチと言う事だ。すぐさまそのセーフティリンクの先を目指せ!」
「了解!」
「では始めるぞ! 構え!」
「よし、絶対にクリアしてやる!」
「始めっ!!」
「よしゃあああ! あ、でも光るまでここで待機か……」
「そうだ! 光ったらすぐに向かえ!」
俺は光った瞬間にすぐダッシュ出来るよう、じーっと線を見ていた。
――3時間後
「あ、あの……いつ赤くなるんだ……?」
「何を言っている。まだ3時間ほどしか経ってないぞ。この演習は最長1週間掛けて行われる。その間ずっとお前が見ないといけないんだぞ……?」
「なんですと!? 不眠不休で1週間はきっついぞ!」
「ならやめるか?」
「いや、やる!!」
――10時間後
「スヤァ……」
「やれやれ……」
「こら! 起きろ!」
「ふぉ! はっ……俺……寝てた!?」
「そうだ。ぼうやが寝ている間に3回は赤く光ったぞ」
「3回も……」
「残念だが試験は不合格だ」
「ちょ、まって! もう一回! もう一回頼むよ!」
「はぁ……まぁいいだろう。試験に回数制限は無いからな……」
「よし……本気出すぞ!」
頑張れ俺! 前の世界では徹夜続きとか結構してただろ! その時のイメージを思い出すんだ……!
――35時間後
「スヤァ……ぅうん……さむい……」
「ふむ、35時間か……。普通にここまで起きていたのは大したものだな」
「ほら、起きるんだフィアン」
「ううん……ん!!」
俺ははっと目が覚めた。また……また眠ってしまったんだ……くそ!
「残念だが今回も失敗だな。諦めろ」
「くそ……。てか、エルフ族はあんまり寝なくても大丈夫なのか?」
「いや? 普通に毎日しっかり寝るぞ」
「そ、そうなのか。ならやっぱり気合が足りねーのか……。エリリアさん! 頼む最後のチャンスをくれ」
「何度やっても無駄だ。私はそろそろ帰りたいんだが」
「頼む! 次こそは必ず……でもちょっと待ってくれ……」
「……?」
俺はそのまま瞑想を始めた。いつも何かを集中して行う時は必ずこれからスタートだ。眠気が飛ぶかは分からないが……少しでもやれる事はやっとかないとな……。
「ほう……瞑想か……」
エリリアはフィアンの瞑想を興味深く観察した。そして、その完成度と集中力は並大抵の物ではないと感じていた。
「その歳でその域まで行くか……フィアン!」
「ん……?」
「今ここで私と一戦交えないか?」
「結界も何も無いここで?」
「そうだ。ダンジョン内はもちろん結界などない。本当の死と隣りあわせだ。根性を試させてもらう」
そういって俺に鉄の剣を投げてきた。エリリアも鉄の剣を構えている。
「うーん……いや、ここでは出来ない。すまないけど……」
「何故だ? こんな所で怖気づいていてはダンジョンなど入れないぞ? 20階など夢のまた夢……」
「違う! これはまだ俺の経験不足のせいだけど……手加減が出来ないんだ。貴方を間違って殺してしまいでもしたら……」
「私をか?」
「そうだ」
「ふふ……大した坊やだね! そんな事を言って来るとは思わなかったよ!」
エリリアは笑顔になった後、また真剣な顔に戻った。
「すまなかった。最初はダンジョン演習が無くなって、暇つぶしに相手をしてやろうと思っていただけだった」
「ええ!? ひどすぎるよそれ!」
「ああ……本当にすまない。だが、今の自信と瞑想を見て考えが変わった。坊やならもしかしたら救助係にふさわしい男になれるかもしれないね!」
「おお! 本当か!」
「よしこのまま簡単に授業と行こうか」
そういって、エリリアは俺の前に座り、話始めた。