12話 シャドウナイト
俺達は、来た小さな穴を戻り、そのまま最初の分岐点まで戻ってきた。
「さて、この後どれ位あるか分かりません。少し急いだ方がいいかもしれませんね」
「そうだな……。しかし人がいるのはビックリしたな。なんとか外に出してやりたいもんだ」
「同感です。僕たちのクリア報酬が強くなる系だったらいいんですが……」
「まぁシャドウナイト倒したら二人で考えようぜ!」
そんな会話を行いながら、俺たちは反対側の道へと足を踏み入れた。
「にしてもこの果実、美味しいな。りんごの様な食感だけど味は桃みたいな……」
「フィアン、2個までにしてくださいね。この先食糧が足りないとかになったら困りますよ」
「わかってるよ!」
あそこに生えてる果実、売ったら結構儲かりそうじゃないかな。なんて事を思っていると、少し前に見た、自然にできたとは思えない長方形型の入り口が目の前に現れた。
次は更に濃い瘴気で覆われており魔装魂をしっかり纏わないと、ころっと死んでしまいそうだ。
「この入り口、まさにボス部屋って感じじゃないか……?」
「そうですね……。恐ろしいほど禍々しい魔力を感じます」
「今度こそシャドウナイトがいるのかな。にしても思いのほか近かったな……」
気がつけば俺の手は、武者震いかびびっているのか分からないが、震えが止まらなくなっていた。この先に奴がいる……なぜかそういう確信があった。
「ふうー……」
俺達は深呼吸し、少し落ち着いたところで中に入ることにした。
「絶対に、油断しないで下さいね」
「分かってる! ネビアもな!」
濃い瘴気を割って、ばっと中に突入した。少し進んだところで、入ってきた入り口の瘴気が恐ろしく濃くなり、退路を断たれてしまった。
「ライトウイスプ」
ネビアは辺りを照らした。すると部屋の奥にはまるで王座の様な椅子が置いており、その辺りは今までに見たことが無いような、禍々しく濃い瘴気が漂っていた。そして、王座の脇には深く黒い……漆黒の剣が刺さっていた。
少し様子を見ていると、王座の周辺を広く漂っていた瘴気が、王座の中心に集まり凝縮、その後爆発するように四散した。
その際に一瞬目をつぶってしまったが、すぐに王座を見直すと、今までのウォーカーやシャドウとは桁違いの存在感で、剣と同じく、漆黒の鎧を纏った姿のシャドウが立っていた。
「フィアン、まじで危険です。底が見えないです……!」
ネビアの声は少し震えていた。
「落ち着け! やってきた通りに倒そう!」
ネビアの背中をぽんと叩いた。内心俺もかなりびびってはいるが……!
(ネビア)――ウインドスピア!
ネビアはいつも通り、先制攻撃で4本のスピアを放った。
その瞬間、シャドウナイトは地面に刺さっていた漆黒の剣を引き抜き軽く一振りした。
すると、[ウインドスピア]はシャドウナイトまで届くことなく、かき消されてしまった。
「そんな……!」
「アイススパイクを頼む!」
「は、はい!」
攻撃の連鎖を断ち切ったらまずいと思ったので、立て続けに魔法を放ってもらうことにした。
ネビアは2つのアイススパイクをシャドウナイトの地面に放ったが、一つは避けられ、もう一つは魔方陣の真ん中に剣を突き立てて、発動とともにバリバリと破壊されてしまった。
その瞬間、漆黒色の半月状の剣気を3本高速で放ってきた。
「ネビア! 俺の後ろに!」
本能的にやばいと悟った俺は魔装魂の硬さを限界まで上げて、篭手で3発とも受けた。避ける間もない速さだったが、当たってみると、俺だったらなんとか耐えられる威力のようだ。
魔装魂の硬さは闘気の依存が高いようで、俺の方がネビアよりはかなり硬いのだ。
間髪なく放ってきたが、全て受けきった。その間にも、ネビアの[アイススパイク]と[ウインドスピア]で反撃をしたが、全て避けられたり壊されたりでダメージは与えられていない。
このままだとじり貧だ……! そんな事を考えているとシャドウナイトが動きを変えた。
打ち続けていた漆黒色の剣気をやめ、剣を頭上に掲げた。すると剣先から瘴気が大量に発生し、シャドウナイトの周辺を包み始めた……。
「おいおい、まじかよ……」
絶望的だ……瘴気の中から大量のウォーカーが出現してきたのだ。どれもこれも紫の色をしている。
「来るぞ!」
そいつらは一斉に押し寄せてきた。もう何かを出し惜しんでる場合ではない。
最初から全力でブレードブラストを放った。ネビアもアイススパイクとウィンドスピアを惜しみなく放ち応戦した。シャドウナイトは後ろでそれを見ていた。
幸いなことにウォーカーに対してはネビアの[アイススパイク]、俺の[ブレードブラスト]を当てれさえすれば、一撃で葬れた。
「とにかくこのウォーカー全員やるぞ!」
「そうですね!」
その会話をした瞬間、今まで傍観を続けていたシャドウナイトが、序盤のように漆黒色の剣気を大量に飛ばし始めた。
「まずい……ッ!」
すぐさまネビアを守るように防御に入ったが……。
「ぐ……ッ!」
ネビアは声にもならない叫びを上げた。
「ネビア!!」
はっと振り返ると、ネビアの右足、ふとももから下が完全に吹き飛んでおり、そのまま倒れこんでしまった。
「おい、ネビア! 嘘だろ!!」
その瞬間ぞっとする気配がした。はっと前を向きなおすと、目の前にシャドウナイトが詰め寄って来ていたのだ。
それは、ほんの一瞬の出来事だった。その状況を理解する間もなく、シャドウナイトの持つ漆黒の剣が俺の胸目掛けて飛んできた。
「がは……ッ!」
咄嗟に少し避けたが、ほぼ胸辺りを剣が貫通した。同時に足の力が抜けて俺も膝をついた。
シャドウナイトはそれをみて一瞬で王座まで後退し、剣を頭上にかざすと剣先に瘴気が集まり始めた。
他のウォーカーたちはそれを見るや後退し、俺たちを見ている。
俺は膝をつきながら今にも死にそうなネビアを抱き、顔を見た。
「ネビア、すまん……ごっ……こんな事になるなんて……」
「フィアン、何言ってるんですか。前世の時より充実したじゃ……ないですか。たった5年だけど、自分が二人って状況……楽しかったですよね……」
俺もネビアも目には涙が浮かんでいた。意識が遠のきそうな気分が続き、辺りが少しキラキラとして見える。幻なのだろうか……。
「次は、もうないでしょう、ね……今まであり……がとう。フィ……アン」
「ネビア……こちらこそだ……俺ももう……一緒に逝けるならそれはそれで……いいか……ありがとう。またな……俺……」
俺はネビアを力いっぱい抱きしめ、そのまま意識が遠のいた……。