115話 トゥーカで一休み
あれから1週間が過ぎた。まだどちらが隊長になるかは決まっていない。
トゥーカ城も1週間前に比べ、人が増え活気が戻ってきている。奴隷もほぼ救出完了できたそうだ。
中には村自体が無くなっている人もおり、城で仮の家を用意したり食事を用意したり……大忙しのようだ。
捕まえた族にも色々聴取をしているようだが、実際族もほとんど貧困で、運ばされた多くの鉱石はどこで売られ、どこに行ったのか知っているものが居ない状況だ。つまり、族の採掘した鉱石の売上等……金の流れが非常に不透明で作業を行う族の中でも一部不満は出ていたようだった。
避難民の対応、金の流れの調査、採掘所の再稼働……やる事は沢山で女王は大忙しだ。
「ネビア君」
「あ……レッドさん」
「例の話なんだが、ちゃんとフィアン君に説明しているのかね?」
「あ!!」
「え? ネビア例の話って?」
ネビアはすっかり言うのを忘れていたようだが、この戦いが終わったらレッドのアジトへ一度行く約束をしていたそうだ。ナイスすぎるだろう! でも俺がほいほいついていったら怪しむだろうか……。
「そんな約束してたのか! いやだよ! 何するかもよく分からないのにさ!」
「やっぱりダメですか……。でも実際レッドが居なければここまで作戦が順調に行くことはなかったです。僕は約束をしたから行きますけど……一人じゃ心細いのでどうかついてきてくれませんか?」
ネビアは俺の一芝居には気づいているようだ。そしてこう言われたら断れないって事も分かっている……流石だ!
「そうだな……一人で行かせる方が心配だな……。わかったレッド! アジトまでは行くよ。場合によってはすぐ帰るからな!」
「ああ構わないよ! フィアン君も来てくれるなんて凄く嬉しいよ……!」
「では! 早速向かうとしようじゃないか!」
「え! どこにあるんだよ! 遠すぎるなら2週間後にしてほしいんだけど……」
「いや! 実はトゥーカに私のプライベートアジトはあるんだよ。まぁ数あるうちの一つ……だがね。二人が迷い込んだあの場所の近くだよ」
アジトが何個もあるだと……。これは厄介な話になってきたな。とりあえず一カ所づつ場所を知っていくしかないよな。
「まぁここから歩いてざっくり3時間って所だろう」
「結構近いんですね……。分かりました。では準備をするので30分くらい待ってもらえませんか!」
「そうだな。では準備が終わるまでここで待っているよ」
そうして一旦レッドと別れ、荷物をまとめた。
「フィアン……。ここがチャンスです。腹をくくりましょう」
「そうだな……。アジトが複数あるのは分かったがとりあえず倒せば問題ないだろう」
「ですね……」
準備自体は5分ほどで終わったが、残りの時間は全て瞑想で費やした。ここで改めて最初のレッドを倒す気持ちを奮い立たせる為に……。
「……さていくか」
「ですね」
・・・
「おお待っていたぞ。丁度30分だな!」
「レッドさんお待たせしました。早速行きましょう」
「そうだな! 私にしっかりと着いてきてくれたまえ」
俺達は城を出てレッドと共にアジトの場所へと向かった。もう迷わない。アジトを確認したらレッドを必ず……!
・・・
・・
・
「歩いていても分かるな……。人通りが多くなっているし、活気が少し戻ってるね」
「そうですね。本当に良かったです。トゥーカは良い方向に向かってますよきっと……」
そんな人通りの多い場所を過ぎ、気がつけば人気の無い荒野をずっと歩いている……。
~~ファイヤスピアー!
「うお! あぶねえ!」
「完全に不意を突かれましたね……」
「おい……どういうことだよ……レッド!」
辛うじて飛んできたファイヤスピアーを回避、
俺はファイヤスピアーを放った張本人レッドを見た。レッドは背中を向けたままだ。
「ふふ……はははは! もう……もう我慢できないのだよ……!」
レッドは満面笑みを浮かべながら額に手を強く押し付けてこちらを見た。正直言って異常な人にしか見えない……。
「な……なにがだよ……」
「二人とも……そんな真っ直ぐな殺気を私にずっと向けないでくれ……ゾクゾクするじゃないか……っ!」
「え……!?」
やばい……殺気とかそういう感覚は全然意識してなかったけど……殺そう殺そうと思いすぎて、殺気って奴がだだ漏れだったか……?
「何度も……何度も我慢できずに手が出そうになったよ……ムラはあれどずーーっと私に殺気を放っていたのだからね……! ああ、ダメだよ……? 人に向かってそんな殺気を放っては……!」
レッドは変な動きをしながら話している……。レッドの下半身にふと目が行ってしまったが……完全にズボンの上からもみえますね……いきり立っているのが……。
「さて、アジトにはまだついていないが……その研ぎ澄まされた殺気に答えて先に……」
「殺り合おう……!」
「くっ……!」
レッドがそういった瞬間、恐ろしい気がこちらに向いてきたのを肌で感じた。これが殺気と言うものなのだろう。レッドは完全に目が据わっている……。思い出すと、何度かこの殺気というものを感じたことはあったが、その時の比じゃない……。一瞬膝が崩れ落ちそうになったし、変な汗が異常に出る……。逃げたいとも思ってしまった。
だが……ここで倒さないと絶対に殺される……本気でやらないと……!
「ネビア! 仕方がねえ! ここで奴を倒すぞ!」
「分かってますよ!」
予定通りではなかったがここでレッドを倒す……! まともにやって勝てるのだろうか。




