113話 終戦に向けて
「まず、大量に魂片を集めているのは間違いなく事実じゃ。盗賊の様な仕事をさせているのは初めて聞いて、ちとショックじゃがの……」
「ただ、その大量の魂片……正直何に使っているのか全く分からないんじゃ。天上要塞で仕事をしている人らが皆、高給取りなのかと思ったらそうでもないんじゃ。むしろ場所によっては貧困な人達もおる……」
「貧困……? そういう人達は地上に降りて冒険者にでもなればいいんじゃないのか?」
「それがどうやら天上要塞から出られない人達も居るんじゃよ」
「地上から来て出られなくなるって事ですか……?」
「いや……これは知らなかったんじゃが、天族には大きく二つに分かれていてのう。私みたいに地上から来て天族に覚醒する覚醒天族と、天上要塞で生まれた純天族といるんじゃ」
「え! 天族同士で子供ができるんですか……?」
「いや……なんとも信じられんのだが、稀に覚醒に使われる神聖な間に子供が突然現れるそうなんじゃ」
「ええ……!」
どういう事だよ……! コウノトリが運んでくるって事なのか!? 天族になれば性欲が激減するし、子供も産まれないって言ってたもんな……。そういえば思い出したけど性欲が激減か……この歳で嫌だなそれは……。まぁこれは置いておこう。
「そうやって産まれた子は地上に耐性が無く出られない場合が多いらしいんじゃ。降りる事さえできればかなりの強さを持つ者ばかりなのに、もったいない話じゃよ」
「純粋な天族って奴ですか……。なんとなく強そうですもんね!」
「まぁでも絶対強いわけじゃないんじゃよ……。元々天族で力の無い者は下層に皆移住させられてしまうからの……。待遇で言うと地上からの覚醒天族の方が遥かに良い」
「下層……?」
「ああ、すまんのう。そこの説明をしておらんかった。天上要塞は大きく分けて、下層、中層、上層に分かれておってな。力のない天族や犯罪者は全て下層、覚醒天族や力がある天族は中層、そして上層は高位天族と呼ばれるものしか入る事ができぬ」
「高位天族……!」
「そうじゃ。単純に通常の天族より更に強い者達……と思えばよい」
「なるほど……。天族の更に上があるのか……」
「先は遠いですね……」
まだ天族にすらなってないのにその上があるとか……。先が本当に見えないな。でもそこまで行ったらヴィスターンとかにも勝てそうだよな……! まぁ出来るのであればもう会いたくは無いけど。
「とにかく、大量に持ち込まれる魂片の行方は分からない……一度だけ大量の魂片を運んでいるところを見たことがあるが、全て上層に持っていかれておるな」
「なら、上層の奴らだけで豪遊している可能性もあるんじゃ……!」
「信じたくは無いが……可能性が無いとは言えんのう」
「真実を知るのは高位天族だけじゃな! 今は深く考えてもしょうがないわい」
「そうですね……」
俺もネビアも思いは同じだろう。遠すぎると……。天族が何をしているか……真実を掴める時が来るのだろうか。掴んだとして、その先には一体……。
「フィアン、ネビア」
アルネは真っ直ぐ俺達を見て話し始めた。
「お主ら……色々と焦りすぎなんじゃよ。ゆっくりすればええとは言わんが、まだ9歳じゃろ? 何もかも決めるのは早いぞ」
「……」
「私が現役冒険者の時は色々な国を回り、世界を見てきたつもりじゃ。色んな人と出会い、情勢を知り、肌で体験してきた。教科書では決して得る事ができない現実の知識を沢山得る事が出来たよ」
アルネさんは少し間を空けて更に続けた。
「まぁ……何が言いたいのか私にもよく分からなくなってきてしもたが、とにかく! もっと世界を……人を……教科書には無いリアルを見て、その後に答えを出せばいい。そうじゃろう?」
アルネさんの言葉は今の俺達に凄く突き刺さった。と同時に今やりたい事……やるべき事が少しわかった気がする。
「アルネさん、ありがとう! 何となく分かったよ!」
「お……? それはよかったわい!」
「俺達はまだまだ世界を知らない……。周りで得た知識でしか物事を考えられていない気がするんだ。とにかく! まずは天族になって、もう一度世界をまわってみようと思う」
「それがええ! 世界は広いぞ?」
「アルネさんが世界を旅してたとき、何か面白い事とかあった?」
「おお! 良くぞ聞いてくれたなネビアよ! そうじゃな……一番は決めるのは難しいが、まずワンドでな……」
アルネさんの旅の思い出話は夜明けまで続いた。凄く楽しい話だし、ずっと聞きたかったからいいんだけど……聞くタイミングを間違ったなこれは……。眠たい! そして明日の作戦に支障が出そう!
そんな事を思いながらも話をずっと聞いていた。
・・・
・・
・
「おはよう……」
「おはよう二人とも……どうしたのだ? 疲れがあまり取れてないようだが……」
「ああレッド……。いや……まぁ色々とね……」
「おはよう。良い天気じゃな。斥候兵よ様子はどうじゃった?」
「はい。特に異常は御座いませんでした」
「そうか。ご苦労じゃったゆっくい休むが良いぞ」
「アルネさん。何でそんなに元気そう何ですか……?」
「お主らがひ弱すぎるぞ! まぁでも……天族だからじゃろうか……」
「それだったらずるいよ!」
「ふぉっふぉ。まぁ今日で全てを終わらせるんじゃ。しっかりと頑張ろうぞ!」
「おーー!」
そうして、俺達は南部での休憩を終え、残りの西部へと向かう事にした。