11話 精霊たち
おばあさんは簡単にここへ来た理由を教えてくれた。理由というか原因と言うべきだな。
おばあさんは元は俺たちの住んでいる村を拠点に冒険者をしていたようで、当時は村近辺のシャドウを駆除したり村の護衛も行っていた。そんな中、突如瘴気に飲まれ、気づけばここに飛ばされていたようだ。
飛ばされたここは、岩壁に囲まれている上、どれだけ剣術や攻撃をしても大樹や岩に傷一つつけることが出来ない。上も岩天井に大樹が突き抜けてはいるが隙間は無い……唯一見つけた穴は小さな子どもが通れる程度で大人のサイズではとても通れない。最初の数年は出ることばかりを考えていたが、次第に出る事を諦め、ここでどうやって生活するかを考えた。幸いな事に、大樹には大きな実がたくさんなっていて、綺麗な湧き水も流れている。
パンの材料になる麦の様なものも生えていたから、小さな畑を作ったり、小屋を建てたりと生活基盤を整えていた。そんな中、突然小屋の目の前にまぶしく光る二つの白と黒の球が木の隙間から降りてきたようだ。
それが丁度15年前でその5年後、球から二人が生まれてきたという……。
「という事は僕たちより少し歳上なんですね!」
その割には同い年くらいにしか見えないが……。
「そういう事だねえ。所で、ここへは何しにきたんだい?」
「えっと、ちょっと奥に用があって……」
「奥にかい? 危ないよ! 向こうの壁に寄った時に、恐ろしい魔力を感じたことがあるんだよ。やめておきなさい……。とにかく今日はゆっくりと――」
「おばあさんありがとう! でもダメなんだ、正直に言っちゃうけど、奥にいるであろうシャドウナイトを五歳になるまでにどうしても倒さなければ――」
そう言った瞬間、おばあさんの目が見開いた。
「坊や達……! 天啓……いや! 試練を遂行しているんだね?」
試練と聞いて、俺達はかなり驚いた。
「あの女神の事を知っているんですか……?」
「生まれた時に聞く試練を覚えていて、遂行しようとしている子がおろうとは……。なんとも、恐ろしい子達じゃ。しかも、五歳までの試練でシャドウナイトとは、何という難易度……」
おばあさんは驚きを隠せないまま話を続けてくれた。
「二人共、私は一つ嘘をついておった……。ここにいる理由は、訳が分からず来たんではないんじゃ。私はその試練で、ここに飛ばされたんじゃ」
「試練に気付いたのは4歳の時じゃった。森に迷ってシャドウと遭遇してしまったが、何とか撃退したと思ったら突然辺りが真っ白になって、目を開けると女神のような人がおった。そして、天啓の試練達成おめでとうと言われたんじゃ。最初は何の事やらとな……」
「て事は、シャドウ討伐が最初の試練だったって事なのか?」
「その通りじゃ。そして、女神は達成報酬という事で、私は闘気の潜在能力引き上げと、現在値を上昇させて貰ったんじゃ。そこから私はめっぽう強くなってのう! そうあれは……」
「おばあちゃん! その話は長くなるでしょ! 二人共急いでるんだから!」
「おお、そうじゃな……。私の武勇伝はまた今度にしようかの。ほれ、作物の様子を見てきておくれ」
おばあさんがそう言うと、二人は外に出て行った。
「ふう……試練はさっきも言った通り、シャドウを倒す程度だったが、シャドウナイトとは驚きじゃ。本当は尚更行かせたく無い、全盛期の私の5人パーティでも倒せるかどうか……本当に危険な相手なんじゃ」
「しかし、全て達成出来れば人生の幅が大きく変わる。試練はその一つじゃ無いんじゃ。達成する毎に次の試練がやってくる。私は今受けているのが最終試験だったんじゃ」
「ちなみに内容は……?」
「飛ばされた先で生き残り、いずれ現れる二人の精霊を覚醒させる」
「生き残るはわかるけど、精霊……?」
俺達の頭にはクエスチョンマークが出ていた。おばあさんは声を小さくして、続けた。
「精霊はあの子達の事じゃ。この世界にはそれぞれの元素に精霊が存在する。その力を包み込み、扱える者に触れると覚醒するんじゃ。だが、そもそもここから出られない以上、そんな人を探すのも無理な話じゃ……」
おばあさんは悲しそうな目でそう言った。俺は思わず、
「おばあさん、任せろよ! 俺達が必ず出られる方法を探すからさ! とりあえず今は待っていてくれ。まずはシャドウナイトを倒せば、報酬で強くなれて、壁とか壊せるかも!」
無責任な事を言い放ってしまったと一瞬思ったが、有言実行! 本当にそうすればいいんだ。これが最初の、自分で決めた目標だ! おばあさんは微笑みながら、待ってるよと言ってくれた。絶対に完遂するぞ!
その後少し休憩した後、俺たちは反対側の道、シャドウナイトが居るであろう方面に向かうことにした。パンと果実を持って行けと言われたので、お言葉に甘えて頂く事にした。
「もう行っちゃうんですか?」
「もっと休めばいいのに……」
二人の少女が少し寂しそうに言ってくれてたのでキュンとした。ぎゅーってしたい。
「次戻ってくる時、この壁をぶち抜いて、皆で外に出るよ! 待っててね!」
そう言い残して、俺達はこの場を後にした。