104話 南部作戦!
――(フィアン)夜明け前 南部水蛇族長暗殺作戦
トゥーカからシャドウウォークを展開しながら閃光脚を使い、族長がいる採掘所を目指した。4箇所ある中で一番南部側にある採掘所だ。
もうじき一番手前の採掘所が見える頃だ。
都度デバシーでも道を確認しながら進んでいたが、それもこの辺で終わりだ。何故なら微量ながら光が発生する為、シャドウウォークの効果が薄れてしまう。採掘所の敵にバレないように、念のために使用を控える。
木の隙間から採掘所が見えたあたりで俺は垂直に左へ移動、大きく回り込み、最南端の採掘所を目指した。
他の所は上手くやれているだろうか……。一番心配なのはネビアとレッドのチームだ。ネビアだけならまだしも、レッドは正直何を考えているのか分からない。
・・・
淡々と走り続け、最南端の採掘所まで到着した。監視塔は3本あり、厳重な作りとなっている。監視塔自体はそこまで警戒する事はない。外側しか見張っていない為、入ってしまえばどうという事はない。
俺はそのままシャドウウォークをしながら塔の縁を駆け上がり、壁の内側を見た。見る限りは誰も居ない。基本的に皆眠りについているのだろう。問題は……今この監視塔の奴らを処理してしまうかどうかだ。
後のことを考えると処理をしてしまった方がいいが、セーフティリンクをされていたら非常に面倒だ……。
このまま行こう。
一切俺の侵入に気付いていない監視塔の3名は放置し、シャドウウォークをしながら壁を降りて中へと進入する事にした。なるべく隅を通り、採掘所入り口を目指した。
族長の場所を再確認しよう。奴はここに建っている、二つの小屋にはおらず、採掘所の中の方に自分用の部屋を作らせているようだ。俺はこの採掘所毎爆発させて生き埋めにしたらよくね? って思ったが、中に奴隷にされた人が居るかもしれないので、考えをすぐに改めた。
さて、入り口に2名警備している奴がいる。顔には鉄のマスクを装備し、腰には剣を携えている。くそ……こいつらにもセーフティリンクがされてたら厄介だぞ……。
「フィアンさん……あいつらはリンクされてないですね……」
「ルーネ見えるのか? てか光ってるから俺の中に入って!」
「すいませんっ! 光属性系の魔法であれば、私の目で大体看破出来ます。といっても、見えない魔法が見えるようになる程度ですが……」
「それはすごいよ。セーフティリンクだけでもあるかどうか分かればかなり違う」
「ふふん。私だって役に立ちますから!」
「ありがとう。とりあえず基本は俺の服の中にいてくれ」
欲を言えば、監視塔の奴らも見て欲しかったが仕方がない……。ルーネはちっさいモードになり、俺の服に隠れた。ルーネはいつもの姿とちっさい姿に変わる事が出来る。精霊はみんな出来るみたいだが……。
「リンクが張られてるやつがいれば教えて欲しい。頼んだぜ」
「はい!」
「よし……」
とにかく静かに、迅速に採掘所入り口に居る二人を仕留めなければならない。どのように倒すか……。
見る限りは魔装魂もたいした事が無い。シャドウノヴァで首を突けば即死させることが出来るだろう……。
「……」
ふと我に帰った。いや、我に帰ってという表現があっているのかも分からない。淡々と相手を殺す手順を考えている自分に少し違和感と恐怖を覚えた。
前の世界なら悪い奴といっても問答無用で殺す事は絶対に無かった。それが前の世界の常識……。ただこの世界にそんな常識は無い。
殺すべき相手は殺さなければならないし、ましてやこれは戦争だ。必ず成し遂げなければならない。
殺すと言う行為自体にはもうあまり恐怖や迷いは無い……。ただ、それに慣れていく自分が怖いだけなのかもしれない。
こんな事を思っても仕方が無い! ここはそういう世界なんだよ……頑張ろう!
切り替えが割りと早い俺は気持ちを持ち直して、門番の二人を見た。
――スッ
――ザシュッ!
「……!?」
俺は二人の首を一太刀で断ち切った。それと同時に、一人を掴みさっき居た壁際の影に投げ、それと同時にもう一人を蹴り飛ばし木の影へ放り込んだ。
この世界では死ぬと光り輝き魂片に還る。その光を少しでも監視塔の目に入らぬよう移動させたのだ。
「暗殺って言う意味では、前の世界より難易度が高いな……」
魂片に還り、鉄のマスクと服と武器が残った。これに変装……と思ったけど身長が全然足りねーよ! 中の移動どうすっかな……。
とりあえず、鉄のマスクだけ装着し、顔はすぐに見られないようにした。そして、武器と装備をデバシーに入れていた木の人型スタンドを2体取り出し、それに着用させ元に戻した。これで遠めなら誰か居ると認識するだろう……。まさかいつ入れたかも忘れたこのスタンドが役に立つ時が来るとは……また補充しておかないとな。
そして俺はそのまま採掘所入り口からシャドウウォークで進入していく事にした。
――1日目 夜明け (北部奪還作戦部隊)
「ふむ、やはりここに親玉はおらんかったか」
「そうみたいだ。あらかた族も片付けたし、他の者を呼び、奴隷にされた人々を救助するぞ! アルネよ。その後全軍に率いて、東部の方へ行くぞ」
「了解じゃ」
・・・
「よし! 中は制圧完了だ! 奴隷にされた人々がまだ残っている! 直ちに救助せよ!」
「イエッサー!」
「また、斥候兵! 任務遂行は約8時間……予定より早いがネビアに伝達を!」
「承知!」
「他の者はしばし休憩だ! 東部奪還の時に備えよ!」
そうして、北部奪還作戦は無事に完了した。作戦開始から約8時間……順調な滑り出しと言えよう。
・・・
――少し遡り、夜明け前 ネビアとレッド
「内側まで来る事が出来たが……どうするつもりだ? 私達は隠密には向かぬぞ」
「そうですよね……あまりド派手にやっても他に伝達されるとまずいですからね……」
「レッドさん。監視塔の奴を倒してもらって、その後少し様子を見た後中に来れませんか? 僕はその間に先に突入します。出入り口はここだけなので、もしここから出ようとする奴が居れば、抑えていただければ助かりますが……」
「ふむ……それは実につまらない! 断る!」
「そんなこと言わずにお願いしますよ。僕では監視塔をささっと登れません。レッドさんなら幻影ノ炎で移動できるでしょう?」
「私も一緒に中へ行こう。それ以外は認めん」
くそ……僕は監視塔を上る術を持たない……一筋縄ではいかないな。まったくめんどくさい性格です……!