表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
22/24

19話  真意を聞きたい。

ちょっとお話変わります。ほんのちょっと。

変に冗長に感じるかもしれませんが我慢してください。

ラブコメ未満なラブコメ展開ありになるんで閲覧注意でお願いします。


更新期間大幅に空いてすみませんでした。

 コンコンコン

部屋のドアを三回叩く音が聞こえる。

「どーぞ」

僕は妹を自室に招く。

妹はベッドに腰をおろして学習机の上の課題に向かう僕に話しかける。

「私、虚噛(そらがみ)アキはウガミが好き」

話し手を見ることなく聞き手は答える。

「それ、僕に言ってどうするの?」

「お兄ちゃん嫌じゃないの? 私にウガミ取られちゃうよ?」

僕は思わず吹き出した。

アキの中で僕は恋敵なのだろうか?

思春期ならではの発想か。

まぁ、僕も思春期と言える年齢だけど。

ペンを走らせる手を止めてヨーはアキに椅子ごと体を向けて答える。

「別にウガミ君は取られちゃうとかじゃないでしょ?」

「告白に成功したら束縛する、絶対にする!」

ああ、そういうことか。これは僕が恥ずかしい。

「それでも高校は辞めさせないでしょ?」

自分でも変なことを言ってるとは思う。

ただ、こんな風に妹と話すことなんて少し前じゃ考えられなかったからちょっと不思議な感じ。

「それは、まぁ」

「じゃあ、大丈夫だよ。ウガミ君とは友達のまんま。まぁ、ウガミ君が遠くへ行こうが僕はずっと友達でいるけどね」

「ていうかアキに告白なんてできるの? 成功させられるの?」

こんな真剣で強い口調のアキを見るのは初めてだった。

同時にこんなにいじらしいアキを見るのも初めてだった。

もじもじと両手を遊ばせながらアキは言う。

「ほら、私モテるから」

「……」

「お願いします。お兄ちゃん、私の告白の作戦を立ててください」

「あんまり、期待しないでよ」

アキに目をやると、両拳を握って小さくガッツポーズをしていた。

正直なところ、あまり気が進まない。けど兄を頼る妹を見捨てることはできない。

友達を恋に落とす作戦を身内と考えるなんて、人生わからないものなんだな。

思わず視線が下に落ちる。

僕の両手は指を器用に絡ませあっていた。無意識に両手は遊んでいる。

アキにウガミ君には好きな人がいるかもしれないとは伝えなかった。

他人のことを考えるほど僕は器用じゃない。

努めて澄ました顔をするが、実は自分のことで精一杯だったりする。

他人から見られる自分はさも上等に写るように、その場しのぎな行動をしてしまう。

ヨーは自分をいい格好しいな人間と評する。

自分が不利益を被るような情報は出し惜しむ。人間誰しも当たり前にやることだがヨーには心が痛んでしまうことだった。

「まぁ、本音を言うしかないよ。ウガミ君は鋭いから」

「う~ん」

アキはそう言って額に指をついた。

「まぁ、まずは謝ることが第一だよ」

「う~ん」

どうやらこっちが素のアキのようだ。

兄でありながら、妹のことはやっぱり全然知らなかったらしい。

「もうちょっと、考えてみる。お兄ちゃんありがと。大好き」

そう言ってアキはおもむろに立ち上がり部屋をあとにした。

碌なアドバイスしてないけど、まあいいか。

アキから「好き」と言われたのはいつ以来だろうか。

ヨーは部屋で一人、笑ってみた。

姿見に映った顔は自分でも綺麗なものだと思うが、上手に笑えている気はしなかった。




☆☆☆


 7月になってから、ウガミは普段より30分早く家を出るようになった。

スマホの時間表示が7:30を示す。

片腕の自由では腕時計はつけられないため、ここ数日で自然とスマホを眺める時間が増えていた。

スマホの中は代わり映えしない。今この瞬間も世界中で新しいアプリは生み出されていても、ウガミはそもそもそれ自体に興味がなかった。

 季節通りに日射しが強い。

アスファルトからの強い照り返しに目を細めながらウガミは思う。

まあ、去年と対して変わらない。生まれてからたった16回目だ。

あと残り3回。

最近は将来を連想することが浮かぶと3という数字に思考が支配されるようになっていた。

……どうでもいい。

そうウガミは頭の中の干渉を取り払う。

時間にゆとりを持って、ゆっくり歩いていたが体が少し汗ばんできた。

首元のワイシャツが三角巾の助けてもあってか、汗でくっつく。

右腕のギプスの中が蒸れるのがわかる。

掻きたいとは考えないようにする。

少しでも頭に浮かぶと掻きたくなって仕方なくなる。

ため息が出る。

少し大袈裟に息を吸い込んでみても、大袈裟に息を吐いても暑さは変わらない。

日射しも気温も暑いままである。

これから本格的に夏になっていく。

空には雲が欠片もない快晴があった。

久しぶりの登校を祝福されているようだ、なんて気分にはならなかった。

空模様と違ってスマホの画面に流れるニュース速報は陰惨な事件が全国各地で起きていることを伝えてくる。

入院生活で体力が落ちたのか、暑さか、ストレスか。とにかく登校は億劫だと感じた。


 ウガミはいつもよりも15分ほど早く教室に着く。

教室は疎らで人も集まっていない。

ウガミ達が通うこの高校では8割を越える生徒が部活動に所属している。

そのせいか、普段から教室の中の話題は尽きないらしい。

聞き耳を立てずとも部活内の噂や評判といった話はウガミの耳にも自然と入っていた。

だからどこの部活も大体は、朝に一年生が部活の準備をやるということをウガミは当然に知っていた。

朝早くの教室の空き具合に心地良さを感じつつ、

ウガミはホームルームが始まるまで自席に着いて目を瞑ることにした。

ヒンヤリとした冷たい空気が火照った体を冷ます。

教室には冷房がついていた。耳に入る機械音、吐き出される冷気の音が小気味良い。

空調設備にありがたみを覚えながら、船を漕ぎそうになっているところに声をかけられた。

ウガミは赤斑濁りの方の目を開いて声の主を確認すると、兎狩(とがり)ユーコが横に立っていた。

「これ、クラスTシャツです」

ウガミが返事をするでも、感謝する間もなくユーコはそれを渡してその場をあとにした。

ウガミの眠気はすっかり覚めてしまった。

話かけられたからではなく、自分への周りの視線の多さに驚かされたからだった。

教室内、黒板上の壁にある時計から、あと3分でホームルームが始まるとわかった。

つまり生徒が教室に集まりつつあった。

右腕にギプスをつけた傷だらけの少年を眺める生徒は多い。

実際に目立つ傷は首から上のもの。入院の件とは関係ないものだ。

良い注目のされ方でないことは的である当人には容易にわかる。

意識を視線からそらすために、ウガミは受け取ったTシャツを鞄にしまい、代わりに文鎮を取り出して机に置いた。

黒くて丸いメダル型の文鎮には、ウガミには読めない漢字が行書体で彫られている。

それは担当医が退院祝いにくれたものだった。

貰った時の心境としては複雑だったが、左腕しか使えないウガミにとって教科書や資料を押さえておくのに欠かせないものになるということに後から気づいた。

 ホームルームの開始時間通りに担任が教室に入り、号令を促す。

ウガミにとってこの担任はいまいち掴めない性格の男だった。

生徒の前では人形みたいな人。あまり感情を表にしない20代後半の男性教師。

それがここ3ヶ月でウガミが抱いた人物像だった。

しかし先生同士では楽しそうに話しているということを、国語担当職員室で初めて知った。

ウガミがこの担任に呼び出される時はいつもその国語担当職員室だった。

担任の霜村(しもむら)は淡々と連絡事項を伝えてホームルームをすぐに終える。

いつも通りの霜村のホームルームだった。

担任もウガミの復帰について触れることはなかったが、ホームルーム中に何回か目があった。

それは嫌な視線なんかではない。

ウガミは担任が自分のことを気に留めてくれているという意思表示としておくことにした。


 授業はというと、またすっかりわからなくなっていた。

たった数日、授業から離れただけで驚くほどつきはなされた感覚だった。

授業ごとに期末試験の代わりとなる課題が上乗せされて渡される。

左手で書き殴った文字は酷く拙いもの。読み返すことはほとんど不可能。

必死で書いても、遅筆なうえに汚い。自分でも笑ってしまいたいほどだった。

 昼休みはあらかじめ買っておいたパンをすぐに口に詰め込んで咀嚼する。

ウガミは午後の授業が始まるまで眠ることに決めていた。

目を瞑ることでストレスの解消を試みようとするところにスマホにメールが届く。

差出人はヨーからだった。

<昼休み 暇なら図書室に来てよ>

まぁいいだろう。

楽しみで胸が踊るとは言わないが、ウガミにとってこの行動は不思議と億劫ではなかった。


「ウガミ君、元気にしてた?」

「まあ」

「学校来るなら言ってよ。朝迎えに行ったのに」

「それは勘弁してくれ」

ヨーとウガミは笑う。

今度は最初から目と目を合わせて会話ができた。

二人は図書室には入らずに、すぐ横の廊下の窓枠に腰を預けていた。

図書室は空調整備されて間違いなく涼しい。

それでも二人は誰もいない日当たり良く熱のこもる廊下を選んだ。

「ヨーの方は体調はどうなんだよ?」

「まぁ大丈夫。過度なストレスを避けて、あとは体温調節さえできていれば蕁麻疹は出ないよ」

「その蕁麻疹は治るものなのか?」

「わからない、が今のところの答えだね。自分の体だし一生付き合うつもりだよ」

蕁麻疹が出ることを除いてヨーのあの日の怪我は完治していた。

それをウガミに伝えた後、ヨーは手に持っていたペットボトルの飲料水を飲んだ。

ほんの一瞬、廊下にこもる不快感を覚えるような暑さを忘れてウガミはヨーの姿に見とれてしまった。

「どーしてここにウガミ君を呼んだかわかる?」

さぁ、知らない。と言いそうになるのを堪えてウガミは少し考えた。

「他人に聞かれたくない話でもあるのか?」

「答えは、ここで話がしたかったからなんだ」

ウガミは雑に相槌を打ってヨーに話を促す。

「ウガミ君から見てアキってどんな風に見える?」

話が見えなかったが、知らぬ存ぜぬでウガミは返答できない。

それほどにヨーからナーバスで独特な雰囲気をウガミは感じた。

「普通だろ。お前ぴったりの妹って感じがするし、中学生って感じだ」

返答に満足のいかないようなヨーはウガミの目を見て言う。

「じゃあ、僕のことはどう思う?」

「知るか」

「何が?」

「何を聞きたいんだよ、お前は?」

「……」

「ヨーは、お前はわがままだ。何の話がしたいんだ、ちゃんと言えよ」

「わがままでごめんね」

ヨーはクシャッと頬を綻ばせて、残り僅かな飲み物を一気に口に流し込む。

「ウガミ君って好きな人いる?」

「いない」

「じゃあ、気になる人は?」

「いない」

ヨーの目はウガミの泳いだ目の挙動を逃さない。

「そのギプスはいつとれる?」

ヨーの話題の急な転換はウガミに考えることを諦めさせた。

「……今週末だな」

「てことはスポ祭は出ないの?」

ヨーに言われて思い出す。明後日は高校のスポーツ祭だった。

思えば校舎の外の方から笑い声やボールを弾くような音が聞こえる。

スポーツ祭に向けた練習をしている生徒もいるのだろう。

今さら明後日の行事を思い出したところで何もならない。

「ああ。課題が進んで楽になるな」

「僕はスポ祭でウガミ君に勝つ気だったのに、これは悲しいな」

ウガミがヨーの発言の意味を図ろうとしたところで午後の始業5分前のチャイムが鳴った。

教室に戻ろうと寄りかかった姿勢を直すヨーにウガミは言う。

「俺が入院したやつ、アキのやり口にヨーは関わってないんだよな?」

「そうだけど?」

「アキに聞きたいことがある。二人で会っていいか?」

「それ僕に許可いるの? まぁ、明日の放課後はアキは暇って言ってたような……」

「ありがとな。俺もちょっと知り合いことがあったんだ」

それを最後に二人はそれぞれの教室に向かった。


 教室に来たものの、生徒は誰一人いないもぬけの殻だった。

午後の授業は体育らしい。黒板には授業変更と集合場所について書いてあった。

静かな教室に残る微かな冷気の中、何をするかしばらく考えたあとウガミは保健室へ行くことにした。

授業時間中の教室の横を通って歩くのは自分が疚しいことをしているようでウガミはどこか居心地を悪く感じた。

 目的地に着き、ノックをして扉を開ける。

「一年c組の輝色(きしき)です」

ほどよく抑えられた冷房は、たった今出てきた一年c組の教室をウガミに彷彿とさせる。

がらんどうというより不必要な物がない小綺麗で清潔が行き届いた保健室だった。

訪ねる傷だらけの男を体躯の小さな養護教諭が出迎えた。

周りを見ても保健室には他に生徒はいないようだった。

養護教諭である小柄な女性は腰をかけることを促し、ウガミはそれに従って椅子に座る。

失礼だと思うが頭を垂らし両瞼を閉じながらウガミは要件を伝える。

時間が経っても反応も返答もないことを不審に思い目を開けると、女性はウガミの顔を黙ってジッと見ていた。

目があったところで女性が口にする。

「体育の授業に出られないから保健室待機ね。わかりました。横になるならベッド空いてますけど使いますか?」

「具合は悪くないのでここで大丈夫です」

そう言ってウガミは目を瞑る。

「輝色君、このプリントに体調とか記入してもらっていいかな?」

目を開けてウガミは答える。

「わかりました」

渡されたペンを使い、眼前のテーブルに向かって左手でゆっくりと情報を紙に綴る。

他人への読みやすさを考慮して書いた文字は自分でも驚くほどに整っていた。

「器用に書きますね。左利きじゃないでしょう?」

「体が慣れたんだと思います」

誰が見ても右利きであることがわかるくらいにウガミの文字を書く姿勢は歪んでいた。

書き終えたプリントに目を通しながら女性は尋ねる。

「すごい怪我だったんだね。そんな状態で勉強なんて疲れないの?」

「体よりは頭が疲れます」

自分は頭が良くないから、とは自嘲でもウガミは口にはしなかった。

再びウガミが目を瞑ろうとするところに女性は言う。

「見た目で誤解しかけたけど輝色君は落ち着いていて真面目だね」

「はあ」

目を瞑る機会を失ったウガミは恭しく頭を下げる。

「やっぱり寝たいんでベッド借ります」

そう嘘を言って、ウガミは逃げるようにベッドに入って、仕切りを閉めた。

眠気はもうすっかりなかった。目を瞑る気もなかった。

ただベッドの上で体を横に倒し、スマホを弄っていた。

この姿は誰が見ようが真面目なんかではないということを、ウガミは頭の中で繰り返した。



☆☆☆


 長かった1日も家に着いたらもう終わったようなもの。

学校帰りに買った惣菜を箸で摘まみながらウガミは考える。

アキから聞きたいこともある。

メールを送るとアキからすぐに返信が届く。

明日の放課後に会う約束ができたことに安心感を覚え、ウガミは食後すぐに課題に取りかかった。







ありがとうございました。


更新はペース異常に遅くなるので

ご了承ください。


次話は多分【20話  真意を言いたい】ってタイトルかもです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ