18話 イン ザ ホスピタル
自分で書いていて最高に
ハートフルボッコされました。
この回は読むと気分が下がります。
周りから責められる系
間違いを犯そうとしている系
精神状態異常系が
ダメな人は読まない方がいいです。
内容
病院での見舞いや面談を通して、ウガミのことを振り返る話です。
次話から
ウガミは退院して学校に戻るので今回はとばしても大丈夫です。
下にスクロールする人は閲覧注意
よろしくお願いします。
期末試験4日目。
すなわち試験最終日。
学校中からため息と安堵の息で溢れる放課後。
連絡を受けた僕達は扉の前にいる。
僕達はウガミ君のお見舞いに来た。
この扉の向こうにウガミ君がいる。
会うことに緊張感はない。
ただウガミ君の僕を見る目が変わってしまうのではないかという不安があった。
僕は生来自分勝手なんだと実感する。
部屋に入ると痛々しい姿のウガミ君がいた。
ベッドに上半身を起こして座っていた。
右腕にギプスが巻いてある。
入院患者用の服を纏った姿はどことなく貫禄がある。
「よお」
「ヨーだよ、ウガミ君」
「期末試験はどうだった?」
「まあ順位一桁には いると思う」
「……さすがだな」
「……どーも」
ヨーとウガミは互いに目を合わせられないでいる。
「これ、僕達から見舞いの品だよ」
「悪いな」
ヨーは手に持っていた高級洋菓子の詰め合わせをベッドの脇にある棚の上に置いた。
「ここはいいね」
ヨーは窓際に行き、窓を開け、部屋に新鮮な空気を入れる。
「まあな」
「この病院で一番良い部屋らしいぞ」
「……ここで死にたいって人もたくさんいるんだろうな」
夏の始まりを告げる風がウガミの髪を優しく撫でる。
「そんなこと考えるんだ、ウガミ君は」
「僕はこの部屋の匂いが病院臭くなくて羨ましいんだよ」
モデルルームのような綺麗な個室の部屋に四人はいた。
ヨーは現在、自律神経失調症の疑いがあるため通院中。
ウガミが入院している病院とは別。
二人の病院トークは一緒に見舞いに来ていたアキとユーコを置き去りにする。
「体の調子はどう?」
「ああ。ほとんど治った。担当との相談次第でいつでも退院できるらしい」
「あと言っておくが、このギプスはお前のせいだからな」
ウガミ君が目を細めて言う。
思いもしない言葉に、素っ頓狂な声が出た。
「へっ、僕なんかしたっけ?」
「あの日、ヨーに叩かれてから軽い捻挫だったらしい。もう治りかけだけどな」
ウガミ君が笑った。
「あの日」とは僕らにとって二つを指す言葉だ。
一つは僕らが知らない2日間のこと。
もう一つは通り魔に復讐した日のこと。
立ち話を止めて、僕達は椅子を3つ並べてウガミ君のベッドのすぐ横に座る。
まずは確認しないといけない。
「ウガミ君は刺された日のこと、どこまでわかっていたの?」
「……推測だが、アキがそこの女子を扇動したってくらいはなんとなく」
「兎狩ユーコちゃんだよ」
ウガミとヨーから呼ばれて
ユーコは背筋を伸ばす。
「ウガミ君、ごめんなさい」
ユーコは頭を下げて謝罪した。
「大丈夫、俺は生きてるし」
「心当たりがないわけじゃない。因果応報ってやつだ」
ウガミ君が笑う。
誰が見てもわかる不自然な作り笑い。どうやら誤魔化す技術がないらしい。
アキは部屋に入って以来、一言も発していない。
努めて静かにしているというより、ただつまらなそうにしていた。
「……あのさ、気づいてるのは俺だけなのか?」
「何で皆、頬を腫らしてるんだ?」
それは僕も思っていた。
皆がそれぞれ顔を見合わせる。
ウガミ君は左頬
アキは両頬
僕は右頬
ユーコちゃんは右頬
皆が顔を腫らしていた。
これを仲良し、似た者同士と表現するには背景が重すぎる。
アキが腕を組んでふてくされながらも堂々と言う。
「私はお兄ちゃんとユーコに叩かれたわ」
アキの左頬は、ヨーが叩いたと誰が見てもわかるほど立派に腫れていた。
ヨーが言う。
「僕はアキを叩いた時にカウンターされた」
ユーコが続く。
「……誰も叩かないから、弟にやってもらったの」
上目遣いでユーコは言う。
「ウガミ君が叩いてくれると助かる」
「私の頬は限界だからウガミの分は無理よ」
アキが間髪入れずに言った。
ヨーの顔がひきつる。
ウガミは呆れたような目でチラッとヨーを見る。
「……」
「……」
ユーコの頬をウガミは左手で覆うように軽く叩いた。
ぺちんっ
「俺もあんたの両手に傷を負わせたんだよな」
「これでお互い様にしよう」
ウガミ君は微笑んだ。
今度は作り笑いじゃなかった。
「それ (その程度の威力) なら、(お兄ちゃんの手前) 私も甘んじて受けるわ」
ウガミは常識の範囲内で力を込めてアキの頬を叩く。
ッバァーン
「^}¥\な"%^_\_!きゃ['~'[';-」
「クソがァ、この目玉のバケモンがあ」
「これで許してやるからしっかり改心しろよ」
「何で上からなんだよ!」
「……俺はいつお前の下になったんだよ」
……
少し前から僕の中のアキの人物像が揺れ続けている。
そのアキはというと涙目になって叩かれた頬を押さえていた。
自分の妹ながら顔は良いと思う。
ただそんな妹の心情や内面を兄である僕は全然知らなかったことが今回わかった。
そう言えば、とウガミ君は言う。
「ユーコ……さんはよく俺の目を見て話ができますね」
「ユーコでいいよ。それはウガミ君のことをヨー君から聞いたから」
僕はすかさず親指を立ててウガミ君にウインクを送る。
へんなの。
笑いが込み上げてくる。
ウガミは笑った。
何も考えないで。
深く考えないで。
笑い続ければ世界がまるごと面白おかしく変わると信じて。
ヨーがウガミに聞く。
「ウガミ君の頬はどうしたの?」
「これは母親に叩かれた」
「まだ赤いね。いつ叩かれたの?」
「午前中に担任が来て、帰ったあとすぐかな」
「何でここにいるんだって言われた」
「俺だってここにいる理由がわからない。なんで最高待遇なのかもよくわからない」
「親の金を浪費する甲斐性なしが」
アキは頬を撫でながら呟く。
「……それが全額前払いされてるらしいんだ。親は知らないって」
部屋が沈黙する。
もともと静かだったが、嫌な静けさと言えるような静寂が四人を包む。
謝罪とは別に、
言わなければならないこと、
とても言いにくいこと、
言葉にしたくないことが
ヨーにはあった。
言うならこのタイミング。
ヨーは心を落ち着かせるように深呼吸する。
「刺された日、ウガミ君はどうやって運ばれたか知ってる?」
ユーコは気絶していて知らない。
アキとヨーだけが知っていること。
「ウガミ君、一人じゃなかったよね?」
「あんまり覚えてないが、男の人に助けてもらったんだ」
「それ、僕も見ていたんだよ。結構近くで」
「ウガミ君、その男の人は知り合いなの?」
「知らない。通りすがりの人」
呼吸が乱れる。思い出してしまう。体が緊張する。痒くなる。
「その人の顔 見た?」
「意識が朦朧としていたから覚えてないな」
「ああ、目元はすごくイケメンだったかも」
「……その人 スーツが不自然にところどころ赤かった」
「その人 顔が無かった」
「あと、その人ずっと笑ってた…」
「はぁ? 見間違えじゃないのか?」
「何言ってるか全然わから…」
「見ていた。その人は僕のことも。観察されてた。僕はウガミ君の近くにいたけど怖くて逃げたんだ」
あんな視線は二度と見たくない。体が震える。寒気がする。
「気にしすぎだ。医者に応急処置が良かったって言われたんだから、その人は命の恩人だよ」
男が持つ独特で禍々しい雰囲気を思い出すだけで、ヨーの全身は蕁麻疹に覆われた。
伝えたかったことがうまく伝わらない。
頭が回らない。
「善人か悪人かなんて僕は判断できないよ。けど悪人はたくさんいる。この状況はとにかく意味不明なんだよ。警戒して早くここから出た方がいいよ」
ヨーは頭に浮かんだ言葉を滅茶苦茶なままに声を荒げて言った。
「お兄ちゃん、これ飲んで」
アキが渡して、ヨーは薬を飲む。
ヨーが体調を崩したこともあり
見舞いはお開きになった。
それぞれがウガミに謝罪と感謝の言葉を伝えて退室した。
窓を通して差し込む光が部屋に生気を戻す。
ウガミは考えることを放棄して、ベッドの上で少し微睡んだ。
痛かった。怖かった。死を覚悟した。
ウガミはどれ一つとして言葉にできなかった。
☆☆☆
ウガミは三人が去った後、
一人回想する。
お前は何でこのバッグを使わなかった?
バッグくらい使え
そんなこともわからないくらいバカなのか?
武器にも防具にもなるだろ
使われる物が綺麗な状態で使用者がボロボロ
何かのギャグか?
まったく笑えない
自分の命を自ら危うくしたってことだけは絶対に忘れるなよ
これが父親から言われた言葉。
担任の先生は褒めていたね
授業態度良くなったんだってね
その矢先に不幸があったって悲しんでいたのよ
ウガミも変わるのよ!
変われるのよ!
自分も周りも共倒れにする生き方はやめなさい
ウガミが傷付くと悲しむ人がいるのよ
わかりなさい!
これが母親の言葉だった。
☆☆☆
少し経って
担当者とウガミの面談時間が来る。
ウガミはベッドに横になっていた。
「あの……僕を助けてくれた人はどんな人なんですか?」
「ごめんね、答えられないよ」
「君の質問には何でも答えるのが彼との約束なんだけどね」
「そうだね……どことなく君に似ているかも」
「彼は言ってたよ。君は本当に友達思いだって。友達はとても幸せ者だって。何かを守ろうとする君の姿はかっこよかった、とも言っていたね」
ウガミは予想もしない優しくかけられた言葉に涙が出そうになる。
「最近、…情緒が不安定なんですけど、どうすればいい……んですかね?」
「ははは、その質問はヘンだね。君は情緒不安定じゃないと思うよ」
「泣きたいなら泣けばいいし、笑いたかったら笑えばいいんだよ」
「君を知ってもう5日になるけど、ウガミ君は少し利己的なくらいがいいと思うよ」
「……はい。頑張ります」
「あと、明日の模試くらいは受けたいんですけど、退院できますか?」
「……君は勉強熱心なんだね。彼が聞いたらきっと喜ぶよ」
「あの人と先生は友達なんですか?」
「んー、グレーゾーンだけどいいや。彼は僕のいいお客さんなんだ。少し気が合うってくらいかな。友達とも言うのかもしれない」
「話を戻すけど、あと2日は退院させられないよ。残念だけど模試は諦めて」
「わかりました」
「ウガミ君はこの後は何するの?」
「特に考えてないです」
音楽プレイヤーはとっくに充電が切れていた。
テレビもただのBGM。
「ここは君が望めば何でも揃うのに君はおもしろいね」
ウガミは頭をくしゃくしゃに撫でられた。
頭を撫でる手からはどことなくヨーが言っていた病院特有の薬品の臭いがした。
ウガミは照れ臭くて目を瞑っていた。
あの人のこともどうも嫌いになれそうにない。
ウガミは友達の嫌うものを、どうしようもなく好きになってしまいそうだった。
ありがとうございました。
兎狩ユーコが三人目の主人公です。
レトリックも何もありませんが
読んでいただき嬉しいです。




