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2話  2人が知らない2日間 ②

忙しいです。

2人は校内の小さな自習室に移動した。


ウガミは前を歩くヨーにただついていった。


ウガミとヨーの他には誰もいない。


2人だけの場所でヨーが切り出す。


口調は興奮気味だった。


「いやあ、自分の他にも残された人がいるなんて良かったよ!」

「それにウガミ君だなんて。嬉しいなあ」


ウガミはヨーの言葉に引っ掛かりを覚える。


ウガミは今日がヨーとの初対面である。


それにしても嫌な笑顔を人に向けるものだ。


ヨーはウガミの目をじっと見て言う。


「訊きたいことがあるんだけど、それってカラコン?タトゥー?」


ウガミはヨーに視線を合わせ、すぐに答えた。


「裸眼だ。何もつけてない」


「それなのに赤黒い目をしてるんだね。何だかすごくかっこいいよ」


ヨーから向かってウガミの右目は赤黒い。

左目は白い部分に赤色の斑模様ができている。


ウガミ自身は目について特に気にしていなかった。

なるべくしてなったものだし、気にしたところで治りもしないのだから。


「気にしてたらごめん、それって生まれつきなもの?」


ウガミはヨーの問いに答えようとした。

その時、どう話そうか迷った。別に自分の秘密をペラペラしゃべるわけじゃない。

隠していたわけではない。

しかし誰にも目について話したことがなかった。誰にも訊かれなかったのだ。


ウガミは書類の特記事項には、両目に怪我の後遺症が残っている、といつも書いていた。

それに外見が外見なだけに誰も詮索してこなかったのだ。

ウガミ自身驚いた。自分で気付いていなかったのだから。


「中学の時、ちょっとな。怪我の痕だ」


「痛くないの?」


「痛くないし、視力もいいほうだ」


ウガミは普通に受け答えができていることに違和感を覚える。


自分は案外おしゃべりなのかもしれないと思った。


いや、単に久しぶりに言葉を発しただけの錯覚だ、と頭の中で前言を撤回した。


「俺からもいいか?」


「どうぞ」

ヨーは笑顔で答えた。


今度はウガミが疑問を投げかける。


「お前のその表情は何だ?」


言葉足らずだったかな?なんて考えていると


ヨーはウガミの問いに補って答えた。


「それって、この気味悪い笑顔のことだよね」

「嫌になるよね。鏡の前でちょっと顔に力入れるだけでもうダメ。自分の顔にゾッとするよ」

「ダメなんだよ。もうこの表情から治らないのかもしれない」


ヨーの真剣な表情にウガミは聞き入った。


「まあ、たったそれだけだよウガミ君!」

「少し逸れちゃったけど、僕たちの知らない2日間について教えるよ」


ウガミは教室にあった変な雰囲気の正体が知りたくてここに来た。

聞く準備はとうにできていた。


「ウガミ君が寝ていた2日間。その時、僕は通り魔に襲われて意識がないまま病院で過ごしていたんだ」


ヨーはウガミを教室の窓へと促す。


2人は自習室の窓から陸上トラックと部活動に励む生徒を見ていた。


「ウガミ君、あの中に犯罪者は何人いる?」


「ゼロ」


「いないわけがないし、決めつけはダメだよ」


「ここは割と頭いい高校で落ち着きある人間ばかりだろ?」


「本当にそう思う?何か思うところがあってここまで僕についてきたんじゃないの?」

「推論をするんだ。材料の洗い出しができていないよ」


ウガミはヨーがA組、いわゆる特進クラスの人間だと思い出す。

それにしても回りくどいとは思うが。


ヨーは続ける。

「次の問題だよ。あの中に前科がある人は何人いる?」


「……」

「あの中には私立高校の生徒が☓☓人」

この高校からは多くの生徒が大学進学をする。グラウンドにいるのは部活に励む生徒だ。

前科者?15~18の男女。何が影響するんだ?日本の犯罪率か。所得か。家族形態か。


ウガミは考えて考えて答えを出す。


「4人くらいか?」


「それだよ。ウガミ君は飲み込み早いね」

「君はあの中に前科がある、つまり犯罪を犯した人が4人いるって導いた」

「でも他の皆は集団の中に犯罪者が紛れていると思って生きているかな?」


ヨーの反語的表現。


「平和な日本のことを考えたら、それもあることといえばあることだろ」


「そうじゃないよ。そんな安全神話は崩壊したんだよ」

「だから皆、目をそらして生きている。だから皆あんな目をして僕たちを見る」


あんな目、とはウガミの教室で向けられた視線のことを言っているのだろう。


俺の知らない(寝て過ごした)2日間に何があったんだろうか?

この会話に意味があるのだろうか?


ウガミの顔を見てヨーは続ける。


「大量の情報が漏れたんだよ」

「でもそんなものは元々この世界にあったんだ」

「それが表層に来て多くの人の目に触れた」

「それに当てられて気がおかしくなった人が出た。ただそれだけ」

「世界はこの件について蓋をした」


「人が狂うってどんな情報が漏れたんだよ?」


「さっきの話だよ」


意味のある会話だったのか。

遠回りなアプローチだとウガミは思った。


「犯罪とも認識されていなかった超凶悪犯罪者が浮き彫りになったんだ」

「彼らにしたら屈辱的だろうね。密かに隠していた宝物や趣味を暴露されたんだから」

「彼らは生きづらい世の中から隠れて生きていたんだ、そこにずっと存在していたのに、誰からも見えないように」

「そんな彼らの手口がバレたんだ。世界中の未解決事件の半分はそんな人たちの活動の中にあったとかなんとか」

「この情報はすぐ隠蔽され、浮き彫りになった超凶悪犯罪者の多くは捕まえられたらしい」


そんな奴らは捕まえられちまえばいい、とウガミは思った。

人が狂うほどの凶悪犯罪か。自分はそれについて興味あるのか考えてみた。

ウガミにはよくわからなかった。




ウガミの横、窓からグラウンドを見続けながらヨーは言った。


「あとは3年後___



 ____人類が滅亡するってことくらいかな」



ウガミは心臓の鼓動が止まったと錯覚した。


ヨーがこの会話の流れで嘘をつくような人じゃないとウガミはわかっていた。


わからない。


じゃあ、俺が寝過ごしたあの日に、世界中の人間がいきなり死刑宣告されて

それでも昨日、今日と生きていたのか。


もういくら調べても3年後人類滅亡なんてワードは出てこないだろう。

それでも3年後皆死ぬ。


確かめる方法は3年が経過するのを待つのみ。


狂ってもしかたないとウガミは思った。


世界はこの情報をこれからも隠し通すのだろう。

人類滅亡の3年が来るまで。


「僕たち置いてけぼりだよね」

「今日伝えたかったのはこれだけだよ」

「ウガミ君じゃあね」


ヨーは自習室を出た。


おそらく帰宅するのだろう。







ウガミはしばらくグラウンドを眺めていた。


ありがとうございました。

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