番外編1 反対の男
番外編の小話です。
適度に片付き、適度に物が置かれている綺麗な部屋の中で
男はテレビを点ける。
男はテレビから流れるニュースの報道を嘆かわしく見る。
通り魔殺人犯が捕まったとのこと。
正義の味方が現れたとも報道されていた。
その殺人犯は重傷の状態で歩道橋の下で発見された。
殺人犯に正義の裁きが下ったと、いかにも無知でありそうな芸能人が弁を垂れる。
発見場所は【歩道橋の通り魔】の警戒地域から遠くないところで、
犯罪者同士で潰しあったのではないか、という考察もあるらしい。
嫌な世の中だな。
いつから、こんなに殺伐とした国になったんだろう。
きっと見えてなかっただけ。
世界の視野が広がっただけ。
男はチャンネルを変えようとリモコンを握る。
チャンネルを変えると同時に、男は視界の端にある自分の指先を見て思い出す。
そうか、そうか
もう頃合いか。
男の爪は伸びていた。
男は自分の顔に爪を立てる。
爪で皮膚をむしるのは無音。
テレビからはバラエティ番組の下卑た笑い。
男の爪と指先の隙間に血と皮がみっちりつまっていく。
部屋に充満する鉄臭さが男の気分を昂らせる。
この真っ赤で窮屈な爪を切るのが最高に気持ちがいい。
パキン
パキン
パキン
パキン
パキン
パキン
神経が剥き出しになった感覚。
顔がスースーする。
友達が欲しいな。
友達ができないな。
生きて欲しい。
殺してくれ。
医学の発展は偉大だなあ。
もし生まれ変わって
頭が良かったら医者になりたい。
そしたらたくさん人を治してあげるんだ!
男は友達が欲しかった。
男は頭が良くなりたかった。
男の瞳は綺麗な綺麗なジャパニーズブラックだった。
ありがとうございました。