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12話  変化の出発点

大変遅くなりました。

よろしくお願いします。



僕は汗を流した後、ジムを出てウガミ君と合流する。

夕暮れ時のこの時間はまだ平気。活動時間内。

ウガミ君はというと、いつも通り外からジムの中を見ていたようだった。

「ウガミ君もボクシングやる?」

ウガミ君は僕の誘いに答えない。何か考え事をしているようだった。

「今日初めてKOしたんだあ」

「努力が実って良かったな」

「……うん、てかウガミ君、反応薄くない? KOだよ?」

「まぁ、お前強そうな体してるし、ずっと鍛えてただろ? そういう奴はどこかで急激に伸びるんだよ、だから驚くことじゃない」

「……へぇ」

僕がウガミ君を見ているようにウガミ君も僕を見ていたらしい。

「お前、相手のパンチを全避けできるのか?」

ウガミの視線はジムの中、リング上に向けられたまま、横に立つヨーに尋ねる。ウガミの目はスパーリングをしているボクサーに釘付けだった。

「アウトボクシングならなんとかね。インファイトなら少し貰っちゃうかな」

ウガミはヨーの言葉に違和感を覚えた。ヨーは以前と異なりボクシングをしている口振りになっていた。相変わらずのヨーの笑顔はウガミを複雑にする。ボクシングでパンチを貰わないなんて、末は化け物か。ウガミは疲労やダメージを微塵も感じさせないヨーの体と表情を見て思った。

「皆すごいすごいって言うんだけどさ、僕自身強くなってるかわからないんだよね。だからウガミ君に見てもらいたいんだけど、……いいかな?」

「……マスまでなら付き合う」


二人は並んで話しながら帰る。

ウガミのアパートまでの道、ヨーはウガミに違和感を感じた。

ウガミ君が嬉しそう。というか落ち着きがないような気がする。ヨーはウガミにからかうように聞いてみた。

「学校で良いことでもあった?」

ヨーの質問にウガミは狼狽した。

なんでわかる、と聞きたそうなウガミの鋭い目をヨーは真っ直ぐに見つめ返していた。ウガミのギラつく目と威嚇さえも可愛いとヨーは思った。

「すげえモテそうなお前には言わない」

ウガミ君なりに皮肉を効かせているのかはわからない。

「すごく気になるんだけどなぁ」

「話さないから、諦めろ」

モテそうな僕には言いたくない、か。仮にウガミ君は異性からモテないとする。モテないからこそモテそうな僕に言いたくないこと。ウガミ君が秘密にしようとしていること。確信はないが、どんな話かはおおよそ見当がついた。

異性関係で良いことがあったんだ。それは多分、普段から女子と交流のないウガミ君にとって嬉しいものであり、きっと僕からしたら些細なことだったんだろう。

そして、その些細な幸せを守るために心に閉じ込めて秘密にするという選択をした。こんなところだろうか。僕は頬が弛むのを感じた。

「ウガミ君、そんな楽しそうなのか~。いいなぁ、学校~」

ウガミは軽く咳払いをしてから言う。

「俺はお前のやることを止めないが勉強もちゃんとやれよ。俺が口出すのも変かもしれないが、お前は強い。どんなに通り魔が強いとしてもお前が負けるところは想像できないんだよ」

僕はもう十分強いから、学校の勉強をしとけってことなのかな? それにしては無理矢理で強引な話題変更な気がする。

学校出てすぐ期末試験なんだから、俺が悪の道に引きずり込んだなんて言われたらたまらない。とウガミは付け足した。

「……もしかしてウガミ君、勉強やる気出たの?」

「……少しだけだ」

ヨーの復讐への意気込みを損ねることを考え言わないつもりでいたが、ウガミは言ってしまった。

「勉強好きなの?」

「好きかもな」

そう言って、ウガミ君は空を見上げていた。少し照れくさそうに笑っているのか、ウガミ君の目尻が少し下がったように見えた。空は暗くなる前の赤色。僕はこんな表情で暗く沈む空を見上げられるのだろうか。体がビリビリする。ヨーはこれ以上は考えないことにした。最近学んだ一番楽で一番簡単な現実逃避を実行した。

「じゃあ期末試験お互いにいい点数取れるように勉強しよーか」

「ああ」



帰り道「明日からは夏服だな」なんて、わかりきったことをウガミ君は言っていた。




「今日は気分いいから俺が作る」

アパートに着いたウガミ君がそう言って料理を振る舞う。スマホでレシピを見ながら夕食を作っていた。その光景が何だかおかしく思えてヨーは吹き出す。静かに、聞こえないように両手で口をおさえながら。ウガミの言動について、いつもと違うな、とだけヨーは思った。


☆☆☆


ヨーの通り魔への復讐、夜の克服のために

夕食後もトレーニングは続く。

ランニングの後、公園でヨーとウガミはマスボクシングをやる。街灯の下、照らされたそこが二人のリングだった。静かな夜。暑くなった体を冷ます心地好い風。

これは僕にとって前哨戦のつもり。もう少しで掴めそうな通り魔の仮想モデルだ。

「マス(寸止め)だからな」

ウガミ君は最後に確認を入れた。

「もちろん」

僕が答えて試合が始まった。



……







マスボクシングの後、

乱れた呼吸を整えながらヨーが言った。


「ウガミ君、ラビットパンチって知ってる?」



街灯に照らされた時計は午後9時前を指していた。

夜はまだまだ深くなる。




☆☆☆


再びアパート


風呂あがりのウガミは、教科書を少し読んだ後、布団の上に横になる。

手にはスマホ。普段はまったくと言っていいほどスマホを弄ることのないウガミだが今夜は違った。


大人とは。


ウガミは考えてみることにした。ヨーに聞けば一緒に考えてくれるだろうし、多分ヨーなりの答えもくれると思う。しかしウガミはそれを嫌った。隣の部屋で作業中のヨーの邪魔になると考えたからではない。ただ自分自身で答えを探したかったのだ。


ウガミは

スマホの備え付けのブラウザで


<大人 特徴> と検索してみた。


検索結果には、恋愛サイトであったり、成人疾患の特徴をまとめたサイトがずらりと並べられていた。

満足する答えを得られず、スマホをタップしてホーム画面に戻る。

そもそもなんで「大人」について知りたいと思ったのかウガミ自身よくわかっていなかった。


なんとなしにウガミはスマホの中の電話帳を開く。

最近加わった名前は


ヨー


アキ


そして今日連絡先を交換した

メグミ






「電話番号を交換しようか、ウガミくん。電話していいのは自分が死ぬだろうなって時。その一回だけにしましょう」


メグミは相変わらず、変な人だった。


「約束する」とウガミが言って、二人のスマートフォンとマイクロフォンそれぞれに相手の番号が登録される。


今日の放課後、カイトが去った後の

図書室でのこと。


こういうことは前にもあった。

その時ウガミは好意を寄せる人を前にして、まったく別の人のことを考えていた。

あれは去年の夏。ウガミの心の支えになった出来事。あの人はどういう気持ちで渡したのか。思考の海にのまれそうになるウガミをメグミの言葉が現実に引き戻す。

「どうしたの? 嬉しくない? 私は嬉しいよ。大丈夫、番号もちゃんと私のだからね」


その後もいくらかやり取りがあったが覚えていない。別れの言葉は大体いつもと同じ。


「じゃあね。ウガミくん」

「先輩、さようなら」

だった。



時間が経って、スマホの画面が暗転した。ウガミは画面に写る自分と目があった。


自分の中の何が彼女の興味を引いたのか考えようとしたが、両目以外に思い浮かぶものがウガミにはなかった。それを悲しいとは思わなかったし、この目がなかったら、なんてことも思わない。納得のいく理由であることなんて、世の中にはあんまりないんだろうとウガミは思った。



スマホを適当な離れた場所に置いて、ウガミは寝ることにした。



ありがとうございました。


視点が変わりすぎて自分でもあやふやですが

書きたいことは書けたのでOKです。


ラビットパンチは反則打のことです。


あと3話で1つのまとまりが終わります。

次話のタイトルは多分【歩道橋の通り魔】です。

週末に更新するよう書きます!!!

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