1話 2人が知らない2日間 ①
こーいう話が好きです。
ウガミは5時限の授業が終わって、席でボウっとしていた。
頭にある言葉を口にするならば、全然わからない、である。
1年C組のおよそ真ん中の位置にウガミの席がある。
ウガミは5月の末にして授業についていけない。
勉強や悩みごとを相談するような友人がいないのだ。
ウガミ自身、東京に来てから、ほとんど会話をしていないと感じていた。
人の性質はその人の見てくれ通りだと言うが、それについてウガミは納得していた。
勿論、例外もあるであろうが、自分は例外ではないし、例外になろうとも思わない。
ウガミは外見通り、人を寄せ付けないし、面倒事に巻き込まれることが多い。
もし他人の人生を生きられるとしたら、自分には近づかない自信があった。
現在、仲のいいと言える関係を築いているのは片手に収まるほど。
それを守るために、高校受験を期に、東京へ出た。
両手にはちゃんと指が5本ずつある。
ゴールデンウイークは楽しかったな。
また会いたい。会って話をしたい。自分は全然強くなんかない。
そんなことをボウっと考えていた。
教室の席は今日もまばらに空いている。
ウガミにとってはどうでもいいことであった。
HRが終わり、帰宅しようと鞄を持ち、立ち上がった時
「こんにちは、ウガミ君でいいよね?」
ウガミに話しかける男子生徒がいた。
驚きが隠せないまま、ウガミが返事をして会話が続いていく。
「ああ」
「僕は1年A組のヨー」
「急で悪いんだけど、ウガミ君はゴールデンウイーク明けの2日間何していたの?確か学校を欠席していたよね」
ヨーの身長はウガミと比べて一回りほど低いが、成人男子の平均身長ほどはあるし、
おでこを出した短髪に、男前な顔、
いかにもできる男を外見にしたものがヨーであるとウガミは感じた。
しかし会話中に向けられるヨーの笑顔がとてもぎこちないものであることがとても気持ちが悪かった。
細くなる目も、口の端の上がり方も、しわも全てがかみ合ってない。
「遊び疲れて、寝過ごしてた」
ヨーの意図はわからなかったが、ウガミはありのまま答えた。
ヨーに対して警戒していなかったわけではないが、ウガミ自身が避けられる人種だからか、拒むことはしなかった。酒を飲んで意識が混濁していたことまでは言わなかったが。
「じゃあ、ウガミ君はその2日間であった出来事を知らないんだね」
ウガミは会話の中、教室が静まることを感じていた。
ヨーの言葉に反応して教室中から視線を感じる。
その視線は何か耳を塞ぐような、目を逸らすような、ある種の恐れがあるように思えた。
ウガミは普段から自分に向けられるものとは別のものであるとわかった。
「いっそう君に興味が湧いたよ」
「僕たち似てるね。僕も詳しくは知らないけど」
世界が変革した2日間について教えたいとヨーは言い、
2人は1年C組の教室を出て、空き教室に移動した。
ウガミはただ教室で浴びせられた気味の悪い視線から逃げたかった。
同時に、その理由について知りたかった。
今まで気にも留めていなかったが、心当たりがいくつかあった。
ありがとうございました。