プロローグ
『WINNER!早坂篝!』
デカイ電子音、つんざくようなその音による刺激は、今感じた高揚感の前ではあまり意味を為さなかった。
目の前の憧れの人が優勝したという事実が心いっぱいに充足感を与え、且つ、それが本人でもないのに誇りという風に捉え、思うことが出来てしまう。
その憧れの人が沢山の賞賛の拍手を浴びながらこちらへと近づいてくる。俺は精一杯の想いを込めて賛辞を送る。
「兄ちゃん! 全国大会優勝おめでとう! 本当凄いよ!」
それを受けた俺の兄はとても優しい表情を見せてくれた。
そしてわしゃわしゃと俺の頭を撫でながら口を開く。
「今度はライの番だな」
急にそんな事を言われて俺は声をどもらせる。
「お、俺!? む、無理だよ! 俺兄ちゃんみたいに頭良くないし」
我ながら情けなくて変な笑みを零すが、それを意に介さず兄は優しくも、そして強さを込めた声を聞かせてくれる。
「バーカ、頭の良さなんてこのゲームに関係はねぇよ。どれだけ楽しめるか。それが全部だろうが」
そこまで言って俺の頭から手を離し、兄は沢山の人達が待つ光差す場所へと向かう。いつか、いつか俺もなれるのだろうか。
あんなにかっこよくカードを操り、皆から賞賛される人間に。
撫でられた頭を数度ガシガシと掻きながら栄光を掴んだその後ろ姿を心に深く刻みつけるのであった。