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役人DAYS  作者: としろう
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毒。


思考停止した奴ら。

退職まで平穏に過ぎることをひたすら待つ。

新しい事を望まない。

それが当然と信じて疑わない。


毒。


でも一番の毒は


自分。


気付いているのに何もしない。




「市民の意見を聞こうの会??ですか??」

「そう、知らない??庁内では市民討論会って言っているんだけど。一応、一般公募してここ数年は毎年やってるんだけどねぇ」

「…すみません、勉強不足です。」

まっ、知らないだろうね。積極的に告知してないし。

「まあ、要は文字通り、市民の意見をきたんなく、ざっくばらんに、聞こうじゃないかって会だよ。市民の意見を直接聞いて、それを市政に活かそうってね。まあ、そうは言っても、結局来る人も限られるし、要は市は市民の皆さんの意見を大事にしていますって言うパフォーマ…」

「素晴らしいですね!!」

「えっ?…あっそう?」

真田の瞳はキラキラとしていた。

「そうですよね!こんな閉鎖した建物のなかでちまちまやってたって、なんの新しい発想なんて生まれませんものね!!」


「市民にとって本当に必要なものは市民に聞かないとわからないですものね!まさしくあれですね、昔の映画であった…えっと…事件は会議室じゃなくて現場で起きているってやつですね‼︎」

「えっ?…あっうん、思いっきり市民会館の会議室でやる予定なんだけどね??」

神谷は、真田がなんだかこの会をえらく勘違いしていると思ったが、凄くやる気になっているので、ほっとく事にした。

「とりあえず、司会はウチの課長がやるから。あとは、いくつかの部署にも出演協力してもらうから、案内つくって…」

真田は真剣な表情で神谷の話をメモっていた。


なんだかなぁ…。

痛々しい…とでも言うべきか。

そんなに、やる気になったって、お前が思うような仕事は市役所ここじゃできないよ?

ここじゃぁ…。

「…会議室の手配っと。…あとは、何か他にすることはありますか??」

「え?…あぁ、そうだねぇ。あと…」

「神谷さん?」

「あと…市民にとって必要な事は必ずしも市民に聞けばわかるとは限らないからね。」

「え??…それってどう言う…」

「さっ、じゃあ早速、手配等やってもらおうかな。よろしくね~。わからないことあったらまた聞いて?」

そう言うと、神谷は自分の仕事に戻っていった。

残された真田は、神谷の言った言葉を考えていた。

どういう意味だろう…。

市民の意見を聞いて、市民の望むことをする…それが市政にとって大事なことじゃないだろうか?

真田には神谷の言葉の意味がわからなかった。


「余計なこと言っちまったなぁ」

神谷は自分の発言を後悔していた。

ただ、あいつがあまりにも真っ直ぐに仕事に取り組むものだから…。

つい…。



「OJTはどうだね、神谷君」

神谷が休憩室でコーヒーを飲んでいると、課長が話しかけてきた。

「えぇ、まぁ、今のところ、なんでも素直に働いてくれています。」

「それは素晴らしいねぇ。新人は新人らしく、大人しく言われた事をやってれば良いんだよ。若いうちに企画なんて来ると勘違いしちゃうからね〜。社会の仕組みをしっかり教えないと、組織で仕事は出来ないからね。昔の君のように。」

刹那、鋭い視線を神谷に送る。

神谷は直ぐに返答することが出来なかった。


「なぁ〜んて!冗談だよ!!」

課長は直ぐに、笑って神谷の背中を叩いて見せた。


…狸ジジイが。


「しかし、なんでまた、ど新人を企画になんて回したのかねぇ。あの部長、長年総務畑だから、企画の事なんてわかってないんじゃないか?いくら人を見る眼があるって言われていても、やっぱり現場の事はわからないのかねぇ。なぁ?」


「…ははっ。どうでしょうねぇ」


神谷は力なく笑って、言葉を濁した。



やっぱり、一番の毒は俺自身だ。

全身に毒が回りきって、もう、身動きがとれない。


誰か、助けてくれ。

誰か…。


席に戻ると、真田が待ち構えていた。

「あっ、神谷さん!あの、市民討論会の案内、言われた通り作ってみました!時間が空いた時で良いので確認して貰えますか?」


真っ直ぐな瞳。


「空いた時で良いなんて言うと、どんどん後回しにされちゃうよ??」

神谷はなんとなく、ちょっと意地悪を言ってみたくなった。

「え!?あっ、それもそうですね…。えっと、なるべく早く見て欲しいのは確かなんですが、でも、神谷さんの仕事に支障をきたさない範囲で…。」

真田は焦りながらも、懸命に言葉を探しながら、答える。

「ははっ、冗談だよ。うん、今、途中の終わらせたら、見ておくよ」

そう言うと、神谷は、真田から書類を受け取った。


「はい!よろしくお願いします!」

真田は屈託のない笑顔を見せた。

少し、見えるエクボが少年のようにあどけない。


まるで毒気のない…。


どうか、俺の毒も抜き去ってくれないか?

…なんて。


真田は嬉しそうに仕事をしている。


「…なんか、あつい犬みたいだな。」


神谷には真田のお尻に尻尾が生えて見えた。


その後ろ姿を見ていると、本当に少し、毒気が抜けたような気がしてきた。


「真田が犬ですか?確かにあいつって素直だし、猫って感じじやないですよね」

野村め…こいつ、変な時ばっかり、ちゃんと聞いてるよな…。

こいつは…絶対に猫。

「あれ、確か神谷さん、前に犬飼いたいって言ってましたよね?ちょっとやめてくださいよ?いくら、真田君がいまどきイケメンだからって、OJTの職権濫用ですよ!!」

おい…野村…何を言ってやがる。

先輩に対して、失礼すぎやしねぇか?


相変わらずの毒っぷりに、神谷は半ば呆れた。

だか、野村の毒は、いつだって、神谷の毒を中和させてくれる。


「野村…お前…実は俺のこと好きだろう?」


「はぁ?!神谷さん、とうとう、頭のネジ飛んじゃいました?大丈夫ですか??マジでキモいんですけど!?」


うっ…。


神谷はこの日ほど、自分の発言を後悔したことはなかった

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