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役人DAYS  作者: としろう
3/11

野村はエスパー?!

「真田君〜、これ、保険年金課持ってて〜」

「あっ、後、これ、コピー、30部づつね。」

「こっちは環境保善課ね。いい?課長さんのハンコ貰って来てね〜」

「ハイ‼︎」

「あっ!!絶対に怒らせない様に、腰を低〜くして頼んできてね!」


いや〜、OJTって素敵♡

神谷はルンルン気分で、仕事をしていた。

なんせ、雑用はぜ〜んぶ、あの新人君にやらせればいいのだ。

それにしても、あいつ、体力あるなぁ。

これでもかと言う雑用を押し付けても、全く疲れた様子を見せない真田に、神谷は本気で感心していた。

若いって素晴らしい。


「…神谷さん、鬼っすね。マジでちょっと引きますわ〜」


野村が、本気で引いた様な顔で神谷に言った。

「うっ…うるさい!!…ゴホンッ、いいかね、野村君、我が企画経営課に最も必要な能力はなんだと思うのだね?」

「.…企画力でしょうか?」

野村が、心底胡散臭いモノを見る様な目で答える。

「Non!答えは調整能力!!」

「…はぁ」

「我が部署はあらゆる部署を巻き込んで仕事をしなければならないネ!そう、"自分達がする"というよりは、"他部署に仕事をお願い"しなければならないのデス!よって、少しでも多くの部署の方と知り合って、時には理不尽な事を言われながらも、了承を頂いて来ないといけないのデス。OK〜?今、身に付けて貰っているのは、そう言うスキルなのネ!」


どうだ、参ったか、野村!この完璧な答弁を!伊達に市議会の答弁を作り続けてきた訳じゃないぜょ!!


野村はこの、国籍不明のエセ外国人に、どうツッコンでいいものやら、考えあぐねたが、無視するという結論に至った。


「…まあ、一応理にかなってますけど。」


そうだろ、そうだろう!?


「…ようは、自分が行って小言を言われたり、駄々こねられたりするのが、嫌なだけですよね」


う…ご名答。


そう、俺の所属する企画経営課は文字通り、事業の企画や経営計画を練ったりする課だ。当然ながら、他部署に新しい仕事をお願いする事も多い。


しかしながら、多くの部署が、新たな仕事を嫌がる。自分がいる間は、何事も無く過ぎてほしい。マイナス評価になるかも知れないリスクがあるならば、プラスαの評価なんていらない。

これが市役所特有なのか、民間でもそうなのか、俺にはわからないが。


やれ、忙しいだの、やれ、産休で人が減っただの、あらゆる理由をつけて、他部署、若しくはもはや企画経営課にやらさせようとしたりする。

下手すると、その新事業自体を無くそうとするやからもいる。

そのくせ、前年踏襲で、ズルズルと無駄とわかってても、続けている事業や制度はいくつもあるくせに…。あっ、これはまた別の話だけど。

そんな駄々っ子の、自分よりも一回り以上年上の部長や課長達をなんとかなだめて仕事を受け持ってもらう。

これも、経営企画課の仕事だ。

正直、面倒くさい。

会議資料一つ持っていっても、「あの件だけどさ〜」と既に決まった案件でも絡んでくる。嫌味なんて日常茶飯事だ。野村なんてカワイイもんだ。

正直、うざい。

その点、新人に行かせれば、流石にあっちも新人にはそこまで言ってこれないだろう。


しかし、野村の奴、鬼とか引くとか先輩に向かって言うとは!!先輩をなんだと思ってやがる!!

くそっ!こいつの新人教育はどうなってたんだ!OJTの顔が見てみたいぜ!

「…因みに僕のOJT担当は総務部の松井田さんですから。」


うわっ…。

現総務部人事課長で、将来の部長候補と噂されてる松井田さんじゃあないですか。。。


っか、なんで?!さっきから、俺の考えてる事がこいつわかるんだ?!…はっ?!若しかしてこいつ…エスパ……


「…神谷さん、自分が思っている以上に顔に出やすいですから、気をつけた方がいいですよ。」


「…あっ…はーい」


「うーん、にしても…まっいいか、関係無いし。」

「なんだよ野村、そこまで言ったなら最後まで言えよ…」


悔しカナ。俺にはこいつの考えている事が全くわからない…。

神谷は思いっきり目を細めて、眉間にシワを寄せて見る。

見えない何かが見えるかも知れない…。


「いや、そんなキモい顔しなくても、ちゃんと話しますから…。いえね、ウチの部署って市長からのトップタウンの案件もあれば、世間的には未発表の案件もありますよね??当然、社内的にも秘密裏に進めて行かなければならないモノも少なからずあるわけで…。」

「…まあ、そうだわな。」

「いくら、任せる仕事が違うとはいえ、同じ部署にいれば、うっかりそういう資料なりなんなりを見聞きしてしまう事だって十分ありますよね??…普通、新人教育にウチの部署当てがいますかね??」

「…」


確かに、野村の言う事は正しい。

現に、俺が知っている限りではこの部署に新人が配属された事はない。

まだ社会の常識もわかっていない様な、それでいて、いつ辞めるかもわからない様な奴だ。

重要な機密があの新人から漏れるというリスクを人事は考えなかったのか??

神谷が考えを巡らしていると、野村がボソッと呟いた。

「"腰を低く"ですか…。」

野村は、神谷を見て、少し言い淀むと、やがて

「神谷さんらしいですね。まっ、俺には無理ですけど!」

そう言って、自分の仕事に戻って行った。



「…なんで、わかっちゃうかなぁ」


野村の考えている事なんて、これっぽっちもわからない。

なのに、今、野村が飲み込んだ言葉はなんとなくわかってしまった自分に嫌気がさした。



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