神谷と同期
神谷の回想です。
まだ、最初のころは一人称”僕”でした。
仕事を頑張れば頑張るほど、孤独になっていく過程を書きました。
「おまえ、また同期と飲みに行くのか?ライバルと仲良しごっこしてどうする?」
僕が就職した一年目、上司に言われた言葉だ。
この人、ドライだなあ。そんな印象を受けた。
8年目、今その意味が段々とわかってきた。
同期は仲良くするものじゃなくて結果、仲良くなるもの。とでも言ったらいいだろうか。
どんなに苦手と思っていたやつも仕事上の理念が合えばそこで自然と意気投合していくもの。
逆に、いいやつだな。と思っていても仕事に対する考えが違えば、時としてそれは足かせとなってしまう。
そして、同期は同期であると同時に、数少ない部長のポストを奪い合うライバルでもあるのだ。
「そんなに稼いで軽井沢あたりに別荘でも買う気?」
冗談交じりである同期にそう言われた。
僕の会社は忙しい部署とそうでない部署の差が激しい。基本的には残業の少ない部署が大多数なのだが、僕の所属する経営企画推進課は鬼のように忙しい。
課員の殆どの人が夜の12時過ぎまで働いているような課だ。僕も例外ではない。
また、会社の経営方針に関することも多いので、社内的にも秘密事項が多く、他部署には何の仕事をしているのか話せないことも多い。
必死に、顧客のため、この会社がよくなるため、働いてきたつもりだ。
もちろん、残業時間=仕事の成果ではないことは解っている。ベストは時間内に効率よく終わらせることだろう。
でも、夜中の1時、2時、ときには朝帰りもあった。休日も返上して働いた。
平均睡眠時間は4時間程度。
それでも、僕がやらなきゃ、という一種の使命感で働き続けた。
それが、同期の目には「金を稼いでいる」としか見られていない。
いや、もしかしたら”空残業”と思われているのかもしれない。もっと早く帰れるはずだろう?と。
出る杭は打たれる。しょうがない。上司は言った。
年の近い先輩達は僕のことはよく思わないだろうし、打ちたいだろう。それは解っていた。
けど、
まさか同期にまで。
8年目、少しづつ、各々の評価がささやかれ出す時期。
もう、みんなで仲良く手を繋いでゴールなんて幻想は通用しない。
一緒に仕事の愚痴を言い合って、辛いこともお酒を飲んで楽しく忘れる。「やっぱり同期はいいねぇ」なんて言いながら。
そんな事もこの先、なくなっていくのだろう。
上司は更に言った。「俺はいつからか同期会に呼ばれなくなった」と。
AM0:00 山のように積みあがった書類の束を見ながらふと、そんな昼休みの一コマを思い出していた。
僕は薄暗い廊下の自販機でエナジードリンクを買うと一気にそれを飲み干した。
あと一時間、僕はまだやれる。