梶のOJT
「お疲れ様、金曜日の飲み会はどうだった?楽しかった?」
「お疲れ様です、等々力さん。ええ、久しぶりに同期と話せて楽しかったですよ。」
梶が笑顔で答える。
「でも、やっぱり仕事の話しになっちゃいますよね〜。まあ、愚痴とかも溜まってますし…」
そこまで言って、梶は等々力の顔を見た。
等々力は梶のOJTだ。
愚痴があるなんて言ったら、等々力さんに不満があると思われてしまっただろうか。
だが、等々力はそこを気にする様子は無さそうだった。
「まあなぁ。仕事仲間と飲むとどうしても仕事の話しにはなるわな。愚痴だって言いたくもなるさ。でも、飲み会で愚痴を話したって、ストレス発散どころか、ますます仕事が嫌になるだけだぜ。後味悪いだけで、何にも残りゃしねぇよ。」
「じゃあ、等々力さん達は同期飲みでどんな話をするんですか?」
梶は自分達が馬鹿にされた様な気がして、少しムッとして聞き返した。
「同期飲みねぇ。俺らの同期には1人馬鹿みたいに理想を語る奴がいたからなぁ。将来、市をどうしたいだの、その為には何が必要だの、市役所にも理念とプライドを持って仕事をする事が必要だーなんてね。マジうぜえっしょ。その度に俺は反発してやったよ。そんなのただの理想論に過ぎないってね」
「何処の同期にもそういう奴、一人は居るんですね〜。」
梶は真田を思い出す。
「そうなんだよ。アイツのおかげで飲み会の度にバトってたよ。マジウザかったな。」
「大変ですねぇ」
全くそう思ってない様な適当な梶の相づちに等々力は少しイラっとしたが、まあ、若い奴はこんなもんかと受け入れる事にした。
「まあ、でも…つまんなくは無かったかな。」
「…えっ?」
「いや、こっちの話。何にせよ、同期と楽しく飲めるのも、最初の3年位だからな。今のうちせいぜい仲良くしとくんだな。じゃあ、俺はもう一仕事やってくから。お疲れさん。」
そう言うと、等々力は梶に手を振ってデスクに戻って行った。
なんだかんだ言って、あいつと言い合うのは嫌いじゃ無かった。
今じゃあ、どんなにコッチがふっかけても全くのってこない。抜かれた牙はもう二度と生えてこないのだろうか。
それなら、それでいい。
俺たちは同期だ。数少ない部長のイスを取り合う、ライバルだから。