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恐怖  作者: 仲島香保里
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悪夢は続く

 翌日も仕事ということもあって、花の金曜日よりは早めに切り上げる。多少のアルコールも入ったから、今夜は悪夢を見ずにすむはずだ。


       * * * * *

 目覚まし時計がけたたましくなる前に、文字通り跳ね上がるように目覚める。体にバネが組み込まれているかのような、寝起きの割りには俊敏な動きだった。

 今までの夢で一番恐怖に満ちた夢だった。今までの夢で一番現実味を帯びていた。自分で撮った動画を見ている方が何倍も落ち着いて見れるというものだ。今回の、実に四回目の夢は、狙っている男性が、まだ自分の存在に気付いていない。そして、無防備に背中を自分に向けている男性にそっと近づき、右手に持っていた何かを見せたのだ。何故か夢の中は、自分と彼以外の人間は存在していない。

 そう、この日初めて、男性の顔がはっきりと見えた――はずだった。しかし、目が覚めて思い出してみると、全くと言っていいほど思い出せないのだ。のっぺらぼうと言っても過言ではない。

 ――これだけの夢だった。行動としては、人を滅多刺しにする行動よりは遥かに穏やかな内容のはずだ。それなのに、夢の中で感じる〝殺意〟は強烈なものだった。頭に血が昇り、理性を失っていたのがわかる。顔は見えなかったのに、今回の夢に出てきた男性も、今までの男性と同一人物ということが何故かわかるのだ。

 もう一つ。気になっていることがある。

 夢を見ている時間だ。

 夢というものは、とてつもなく長い夢だと感じていても、時間的にはごく短い時間らしい。

 しかし、気になっているのは、時間の長短というよりも、夢の中での時間の過ぎかたなのだ。

 とにかく早い。男性を殺そうとして追いかけて早歩きなのだが、周りの景色が自分の後ろに回っていくスピードが、車で走っているのではないかというようなスピードなのだ。追いかけている男性も同じくらいの速さで逃げている。

 夢だから現実にはありえないことが起こっても不思議ではないのだが、現実味を帯びた内容が、ありえない速さで過ぎ去る――このアンバランスがなんとも恐怖なのだ。

 またパジャマが汗でぐっしょりと濡れている。気だるそうにパジャマのボタンを外して洗濯機に放り込む。

 はぁ……平和に目覚めたいものだ。

 外で車のクラクションが鳴った。

 その音でフッと現実に引き戻された。

 今日は平日だ。

 やばい。遅刻する!

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