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恐怖  作者: 仲島香保里
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夢さえなければ・・・

 一回目の夢のときは、面白半分であきらに話したのだ。ミステリーやホラーといったものが大好物のあきらは面白そうに夢の話を聞き、終いには、そのネタで小説を書いてネットに投稿しようかとまで言っていた。どこまで本気かは定かではないが……

 そのときは私も笑って、面白そうだねとか、投稿してたら読むわとか話していたように思う。しかし、二回目を見たときはさすがに、やや躊躇いながらあきらに話した。

 誰か知らないんだけど、男の人を殺しちゃった夢を見たんだよね。しかも、ダンボールに入れてどこに隠そうかって慌ててる夢だったの!不吉過ぎるよね――

 そんな風に明るく話したのを覚えている。あきらも、「マジでー?怖っ」と笑っていた。そもそも、夢だからそこまで真剣に捉えてはいなかったのだが、あまりにもはっきりとした夢だったから、気になってしかながなかった。

 「でもさ、」

 あきらの声でハッと我に戻った。ぼんやりと前に見た夢のことを思い出していたようだ。目の前の席には、あきらが片手で頬杖をつき、もう片方の手で冷めてしまったコーヒーのカップを持っている。

 「夢は眠りが浅いときに見るもんでしょ?その眠りが浅い時間が長すぎて夢を見る。そのせいで寝れないってなったら、睡眠薬でももらうのもアリかもよ?」

 「うん、そうだね。ありがと。――あ、そろそろ戻ろっか」

 「ん?わぉ恐ろし。もうこんな時間か。もーヤダねー」

 あきらは、おどけながらカバンを持って二人分のカップの乗ったトレーを持って返却台に返してくれた。

 早歩きで会社に戻り、いつものように午後の仕事を始める。面倒な内容の電話がかかってこないことを祈りつつ、黙々とパソコン作業を進める。

 午後五時半。業務終了。祈った甲斐があったのか、面倒な電話には巡り合わずにすんだ。残業など滅多にない業種のおかげで、アフターファイブは存分に楽しめる。繁華街の近くの会社ということもあって、仕事終わりに映画も行けるし、急げば買い物もできるのだ。今日もあきらと一緒に会社を出て、あきらが欲しがっていたジャケットと、自分が欲しかった雑貨を買いに行く。

 午後六時過ぎという時間と、日照時間が長いこの季節のせいで、勧誘に必死な水商売風の男や女がそこらに溢れている。二人で歩いていると、ホストだろうか、声をかけてきた男がいたが、あきらが上手く断っていた。妙に慣れている感じがしたので、思わず聞いてしまった。すると、

 「慣れてないよー。こんな男女、声かけられることなんてまずないし。ただ面倒くさいからさ、さらーっと躱せばよいのだー!」

 と、あっけらかんと言ってのける。

 他にも、いろいろ教えてもらった。ホストクラブに行ったときに、初回は数千円とか、タダと謳っている店もあるとか。あきらに言わせれば「タダほど怖いものない」とのこと。

 夕食を、手頃な値段のカフェレストランですませる。トマトソースのパスタとサラダとドリアがワンプレートに盛られたボリューミーなメニューが人気のカフェレストランだった。

 ワンプレートディナーのボリュームに満足しながら、ここでも女子トークは途切れない。会話の内容は、後から思い出そうとしても思い出せないほどの内容だった。会話の発端が何なのかも、おそらく二人ともわかっていないが、それがどうしようもなく楽しい。

 カフェレストランを出たあと、二人でバーに入ることにした。高級なショットバーではなく、小さなテーブルが店内に所狭しと置かれ、立ち呑み形式のバーだ。カクテルは全て三百円という財布に非常に親切な値段。あきらは、見た目の印象で酒には強いというイメージがあるが、実のところは結構弱い。日本酒をグラス一杯飲めば完全に目が据わるし、呂律が怪しい。なのに彼女はこのバーに行きたがる。それでも、周りの空気に酔っている節はある。いつもよりもさらにおどけた口調になり、絶えず笑いを提供してくれるのだ。バーに来て立ってソフトドリンクを飲むボーイッシュな女性というのも、なんともおかしいが、要は二人で話したいのだそう。カフェでもいいのではとも思うが、あえて突っ込まない。

 こうしてあきらといると、絶えず笑っていられるのに、頭のどこかではあの悪夢が頭をもたげている。

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