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恐怖  作者: 仲島香保里
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ごく普通のOL生活

 空の食器を流しに置いて、洗面台に駆け足で向かう。電車の中でメイクをしたくはないので、メイクは必ず家でする。下地クリームを両手を使って塗り、パフでファンデーションを伸ばす。アイシャドウを二色塗り、手早く慎重にダークブラウンのアイラインを引き、眉を整える。軽くマスカラを塗って、クリアリップを塗ってメイクは終わり。髪も、凝ったヘアスタイルは時間がない。どうやら、かなりの時間、悪夢の後遺症に悩まされていたようだ。寝癖だけなおし、手首にヘアゴムとシュシュだけ引っ掛けて洗面所の電気を消す。ジャケットを羽織り、仕事用のバッグに携帯や財布など、必要なものが入っているかを素早く確認し、玄関に直行する。

 なんとか、いつも乗る時間の電車に間に合った。その途端にどっと汗が吹き出し、ハンカチでぱたぱたと仰ぐ。通勤ラッシュなど学生時代には無縁のものだった。パンが焼ける間に着替えが済むという離れ業は身についたものの、このラッシュだけはいつまで経っても慣れない。


 いつもの時間に職場に着けた。やれやれ。やっと悪夢の動悸が治まったと思ったら、全力で走ったせいでまた動悸がする。

 私は小さな化粧品会社に勤めているOLだ。仕事内容は、パソコンと睨めっこの事務作業。ネットで受注、電話口で注文を受け、発送するなどの業務。

 毎日の変化には乏しい職業だが、慣れればこんな楽なことはないし、安定も間違いない。幸い、売り出している商品は人気が続いていて、売上げも順調に伸びている。現在の配属部署は部署柄、面倒な会議というものがないし、営業ではないから個人の売上げ成績を見られることがない。人間関係も(表向きは)決して悪くはない。給料も特別良いというわけではないが、働きやすいから満足している。

 いつものように、パソコンを睨みつけ、業務をこなす。未だに電話対応は苦手だ。相手の顔が見えないことで却って緊張してしまい、声がつっかえたようになってしまうのだ。相手の言っている内容を聞くのに必死でメモが取りにくいのだ。自分で書いた文字が、何語なのかもわからないことも多々ある。それでもまぁなんとかやってきた。だから電話が殺到した日は、玄関を開けて、部屋に入るなり行き倒れのように眠ってしまう。

  とりあえず、午前中の業務が終わり、同期入社の井之上あきらとランチをする。

 あきらは、髪を短く切り、メイクも薄く、アクセサリーもシンプルなシルバーのネックレスだけという、ボーイッシュな女性だった。スカートを履いた姿は見たことがない。あきらに言わせれば、パンプスも苦手だという。なんでも、足の甲が開いている靴は歩いていて脱げそうだし、爪先が細すぎて指がへし曲がる感覚がするのだそう。普段はスニーカーやエンジニアブーツがお気に入りだとか。しかし、ボーイッシュではあるが、かなりの美人であると思っている。こんなに美人なのに恋人がいないのが不思議なのだが、その原因は、彼女が男らしすぎるところではないかと思えてくる。女性にありがちな、愚痴を言うこともないし、とにかくサバサバしているのだ。細かいことは気にしないと言いつつも、それは他人のこと。自分の仕事では、細やかなところにまで気を配る。とは言っても、彼女といると、周りの男性が情けなく見えてしまうことも否めない。

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