巨漢と中二病と
おお、ついに八日目ですか。
どうにか納豆の様に粘れる様になります。
「私、今日は図書館に用事あるから先に帰っててね。じゃあねー」
HR終了後、和美からはそんな事を言われて残念ながら一人で帰るコトになった。
峰は別クラスのため一緒に帰るのは難しいだろう。
などと思いつつ下足入れへと向かう。
「お、峰か」
丁度良く下足箱から靴を入れている峰を発見した俺は即座に接触した。
ご丁寧に出口の方に回り込んでから話しかける。
くっくっくっ、逃がしはしない。
「ど、どうした、秋元よ」
「……何故急に姓で呼ぶし」
ボソッと言うと、峰はそっぽを向いた。
「そ、それは気恥ずかしいからだ。その、色々と……」
……なるほど、ここは察しておこう。
峰なりに考えてのコトだ。
確かに、誰かが変に勘違いしても困るしな。
「さてと峰、帰るぞ。どうせ途中まで一緒だろ?」
「そ、そうだな。まあ良いだろう」
峰はどこかギコチナイ足つきで歩き出した。
それも俺より一歩後ろあたりを。
気まずい……。
「なあ」
「な、なななんだ?」
俺が話しかけただけでどれだけテンパってんだよ……。
「どうして、俺の後ろにいるの?」
「それは道場の決まりだ。男性は女性の一歩後ろを続け、と言うやつだ。道場の決まりといえど守らねば父上に半殺られる」
「な、なるほど〜」
厳しそうな決まりだな。
他にも幾つか在るのだろうが今度にでも聞いてみようか。
「あ、この前助けてくれた時お前結構格好良かったぜ」
「そっ、それはもう忘れろ……」
後ろを見ると妙に照れた感じで俯いている。
「昔に約束したろう。困った時はお互い様、と」
「え、そうだっけ。忘れたなー」
そういえばそんなコトを話した覚えがある。
「だからもう、このコトは忘れろ。これはお前への貸し、とりあえずそれだけは覚えておけ」
「おい、てめえ」
峰の言葉に続くかの様に峰の後ろから野太い声が聞こえてきた。
後ろを見るとごついおっちゃんが立っている。
その後ろにはあの時の……。
先日のチャラ男どもがコバンザメの如くたかっている。
「なんだ」
対抗するかの様に峰が返事をした。
「ほう、峰の坊ちゃんじゃないか」
ごつい男は俺の全身を舐める様に見る。
「こいつを貰っていくぜ」
「……!」
男の動作は早かった。
だが峰はその手の動きを見切った。
「ふん、この汚い手はなんだ」
「俺の手を止めるだと!」
「この程度など造作もない。それに、……ここから先には行かせるわけにはいかん。ここから先は秋元の領域だ」
いや、俺の領域って何!?
男はそれで刺激されたらしくぷっつんとキレた。
「てめえ、ガキだからって粋がってんじゃねえぞ!」
男は峰にタックルを仕掛ける。
峰はそれを何故か避けずに吹き飛ばされてしまった。
「峰?!」
あいつ、一体なにをやって……!
峰がゴミ袋に埋れている。
「へッ! なんだ、所詮この程度かよ」
そして男は満更でもなさそうにしている。
そして俺を再び舐める様な視線で見てくる。
普通に気持ちが悪い。
「じょうちゃん、抵抗すんブッ!」
「くっさ」
生ゴミの袋が男の顔に命中した。
「子曰く、後生畏るべし。いずくんぞ来者の今に如しかざるを知らんや。これは孔子の言葉で、経験が豊富な我々でもいつかは敵わなくなるかもしれない、という意味だ」
峰が男を見据えながらスラスラと噛まずに言う。
こいつ、将来凄い奴になりそうだ。
「つまり、若者だと侮って掛かったのがお前の敗因だ。行くぞ、慧」
対して男はフラフラと立ち上がり峰をものすごい剣幕で睨みつける。
手元には……、銀色の光を放つ物。
いや、あれは刃物?!
「野郎っ、ぶっ殺してやる!」
「峰っ!」
俺はとっさに峰の後ろへと飛び出した。
次に感じたのは腹部からの激痛で、その次に峰の叫び声が聞こえてきた。
そして、俺は痛みから逃れるために意識を手放した。