我が家がイチバン
2日目。
頑張るぞ!
リハビリ等の担当医が立ててくれた予定通りに俺は体の感覚を徐々に取り戻して行き、退院となった。
その間、俺はずっと考え事をしていた。
もし学校に戻ったらどうすれば良いのかっていうことだ。
勿論母の言ったあの消え入りそうな声についても考えていたがきちんとした答えだけは出なかった。
話を戻すが、俺はこれまで男として人生を過ごしてきた。
女の子としてのマナーや常識、感覚なんて皆無だし完全にこの体に慣れたっていう訳でも無い。
「慧、知りたいコトが沢山あるでしょ。お母さんが教えてあげる」
と母が言ってきたので丁重にお断りさせていただかせてもらった。
なんだかんだ言ってあの人が積極的に関わる物事には必ず厄介事が起こるのだ。
すでにこれは我が秋元家でのジンクスとして定着している。
父も半ば青ざめつつも豪語していたのを覚えている。
「ふぅー……」
久しぶりの我が家。
事故に遭ってから随分と来て居ない様な気がした。
どうしてそう思ってしまうのだろうか。
「ただいま、優」
「おかえり慧お兄ちゃん」
優は変わり果てた兄に向けて前と変わらない笑顔を返してくれた。
「あ、お兄ちゃんじゃなくってお姉ちゃんが良かったかな?」
「いや、そこはどうでも良いから」
「だめ! どうでも良くしたら私のキャラが崩れちゃう」
こいつ、何を言っているんだ?
さっきまでの感動を返せと言いたい。
いや、マジで返して……。
「慧、部屋は整理しておいたからね。あ、……肌色の本は動かしてないわよ?」
見られてる?!
もうそこには触れないで!
痛い!
心がもげちゃう!
「あんなプレイ……、あの子は許容できるのね……」
何を呟いてるの?!
あんなプレイってそんなアブノーマルな本なんてないから!
「……捨てよ」
俺は密かに決心した。
「……妹モノは?」
「なかったわ、でも……」
「これ以上はアウトッ!!」
いやもうスンマセン。
勘弁してください。
◇
改めて適当に部屋を整理。
病室から持って来た服やらをタンスにカテゴライズして分けて、本(健全な奴)を改めて五十音順で並び替える。
「大分綺麗に片付いたかな」
「あら、女子力高いわね」
突如、音もなく母が部屋に乱入して来た。
そして女子力とか理解できない。
母さんが片付けられないだけだろう。
「……せめてさ、ノックして入ってよ」
予兆すらなく出現するのが厄介だ。
せめて猶予は欲しい。
「良いじゃ無いのー、家族なんだし。もっとフレンドリーに行こうよ!」
「いや、それとこれとは別問題だろ」
特に俺のプライバシー的な意味合いで。
「もぉ、堅いんだからー」
年齢に見合わず外見が若々しいがそれでも年齢が年齢だ。
何才とは言わない。
でもって風船みたいに頬を膨らますのはやめて欲しいものだ。
「子供かよ……」
「お母さんはいつまでも子供心を持っていたいの!」
でもいろんなものに興味を持って鉄の様にすぐ熱くなって冷めるのは日常茶飯事だ。
もう何も言うまい。
これ以上言ったら父さんが絡んできて余計ややしこしくなる。
「はいはい、出てった出てった」
「ちょ、慧、酷い!」
いや、酷いのは誰だよ。
と言うわけで母さんを部屋から追い出してやった。
後悔なんかしていない。
「ふぅ」
嵐が過ぎ去って俺は一息つく。
やはりあの人は如何なる時でも油断ならない。
あれ?
眠い、一息ついたらドッと疲れが出てきた。
一休みするか。
俺は自分のベッドに潜り込む。
布団は思ったよりもふかふかで良い匂いがする。
疲れが俺の眠りを促してくれた。