母と子と
遅れましたごめんなさい。>_<
でも読んでいただければ何よりです。
朝。
白い日差しがシワのできたベッドに差し込む。
でも俺は少しだけ目覚めが悪かった。
"どうして仲違いしたんだろうね、私は……"
あんな言葉を聞くんじゃなかった。
どうしても忘れる事が出来ない。
ぐちゃぐちゃとしている灰色の気持ちの中、重い溜息を吐く。
「慧、居る?」
「居るよー」
母さんの声に少しだけ声色を明るめに返事をする。
「どうしたの。なんだか少しだけ顔色が悪いわよ?」
「いや、ちょっと昔の知り合いに会って……」
「いやなコトでも言われた?」
「そうじゃないけとさぁ」
どう言ったらいいんだろうか。
"どうして仲違いしたんだろうね、私は"
頭の中であの言葉が再生される。
こんな言葉をどう整理して言えば語弊が無いのだろうか。
……モヤモヤするなあ。
「なんだか、大変そうね」
「まあね」
どうやら少しだけ察しては居るようだ。
さすが俺の母さんだ。
表情で俺の悲壮を見抜くとは。
「まあ、深くは突っ込まないけどあんまり気を重く持たないでね」
「うん、分かってるよ。そんなこと、とっくに……」
気を重く持つな。
言葉で言うのは簡単なんだけど、こう深い溝にハマってしまいズルズルと引きずってしまう。
抜け出すのは簡単だ。
先輩にありのままのことを伝えればいいのだ。
そう俺が女になったとだけ伝える。
「慧、お母さんは把握してないから何もわからないけど、昔の人間関係の問題なら自分でなんとかしなさいよ?」
「す、鋭いね」
「だって、顔に書いてあるもの」
母はクスりと笑うと立ち上がって言った。
「ね、慧。散歩、行かない?」
「散歩。急にどうしたのさ」
「一度外に出てみようよ。治りかけだしいいでしょ?」
治りかけが肝心と言う言葉があったと思うが俺は苦笑いをしながら首肯した。
母さんはそういう人なのだ。
恐らく、こういう時こそ気分転換が大事だと考えているのだろう。
「早速、行こっかあ」
「うん」
俺は母に手を引かれて病院を出た。
向かった先は病院から徒歩で三分くらいのところにある公園。
母は終始ニコニコとして一緒に周りを歩いた。
歩き回ってちょうどよく見つかったカフェに入る。
そこで俺は今回の事件のことについてや俺が学校で過ごした話についてなど色々な話をした。
沢山話をしてわかったことだが、近頃、母さんとの会話が極端に少なかった気がした。
一方、母さんは俺に今まで話してくれたことのなかった自分の身の上話や青春時代の話、母さんとその家族の関係の話など俺より多く語ってくれた。
母さんはどうやらもともと何処かの社長令嬢だったらしく、今の父さんとの激しい恋愛の末、家族から勘当されてしまっているそうだ。
それは今だに続いているらしく、昔は何度も苦しい思いを味わったらしい。
「慧、から他に何か無い?」
「えっと……、って時間!」
俺が不意に自分の時計を確認すると看護師の人にこの時刻までに戻って来て欲しいと言われた時刻を既に回っていた。
「あ、あー……、ごめん、慧」
母さんは何処か申し訳なさそうに縮こまっているが、現在時刻の確認を怠った俺も悪い。
「母さんは悪くないよ」
「慧、ありがとう。えっと、じゃあ病室まで戻ろうか」
「うん」
母の言葉に頷き、病院まで一緒に帰った。
看護師さんには母共々怒られてしまったが、気を利かせてくれたのか思いの外手短にすませてはくれた。
そのあと、予定されていた検査等を済ませて再び病室へと戻った。
「慧、今日は楽しかったよ」
「こっちも。何かすっきりした」
母さんは「ふふふっ」と微笑んでいる。
どうやら彼女の思惑通りになったんだろう。
思惑通りにされたとは言え嫌な気分ではなく、むしろ清々しい。
やっぱり気分転換というものは大事だ。
俺は心の中で母さんに感謝する。
声に出したら恥ずかしいじゃないか。
この人は嬉しいのか何度も聞き直してくるから面倒なのだ。
「お礼は退院したときに言うよ」
「まあ、今抱えている問題が一段落ついてからでいいよ」
「ありがと、母さん」
「それじゃ、お夕飯作らなきゃだからお家に帰るわね。じゃあねー」
俺は母さんにひと時の別れを告げる言葉を返すと、にこにこと満面の笑みで帰って行った。
どうにかこの問題は短期間で解決しないといけない。
そうでもしないと母さんにもお礼の言葉すら言えないのだ。
俺は一人で意気込むと病室を後にした。




