苦い気持ち
ごめんなさい、例の如く遅れました。
しかも一時間も。
うぅ。
時間が欲しい。
望月看実。
あの凛とした佇まい、そしてつり目に似合わない穏やかな表情が相俟って、俺の語彙の中ではただ美女としか言い表すコトしかできない。
うまく言い表すための表現を俺は知らない。
「それで、私に何用かな」
望月先輩は小首をかしげ、俺の方へと一歩また一歩とゆっくりと近づいてくる。
「い、いえ、俺からの用は別に用はありません」
「俺っ娘? 今時珍しい娘だな」
まずい。
ついつい、いつもの調子で一人称を俺にしてしまった。
「い、いえ、こ、これは私の中に潜む暗き闇がそうさせたんですっ」
我ながらひどい言い訳だった。
テンパりすぎているのかもしれない。
「へ、へえ……」
あの変人と名高い望月先輩も表情をどこか引きつらせている様に見えた。
なんと言うか、中途半端な中二病ほどひどい物はないのだと改めて思い知った。
「そ、それで……暗き闇の潜む(?)俺っ娘さんは何をしにこちらへ来たの?」
「中々寝付けなかったんで、夜の風に当たりたくなったんです」
「ふふっ」
望月先輩はすこし目を丸くして軽く笑った。
「君、なんだかオーラが昔の弟分に似てるなー」
「えっ?」
図星だった。
いや、その弟分俺ですけどーっ。
なんていう心の叫びを言うコトははできずにじっと望月先輩の話を聞くだけに専念する。
「すこし、昔話に付き合ってくれないかな」
「は、はい」
俺は手すりにもたれかかって空を見上げる望月先輩を見つめていた。
昔話。
それは案の定俺との思い出の話だった。
先輩と弟分の中学での出会いから、別れまで。
その間で起こっていた日常。
それも一部脚色されたものだ。
俺の失態や俺の言葉が強調されていたり異常なほど美化されている。
ツッコミを危うく出しかけてしまうがどうにか心の叫びとしてどうにか衝動をやり過ごす。
「まあ、そんな物だ。済まないね、怖な夜遅くにこんな昔話に付き合わせて」
「いえ、別に問題はないです」
「あいつとどうして仲違いしたんだろうね。私は……」
俺の心がズキリと痛んだ。
良心が痛むとはこういう状態を指すのだろう。
俺もすでに望月先輩のコトはすでに許しているのだ。
「それじゃあわ、私、病室に戻りますね」
私という言葉を危うく噛みかけたがなんとか持ち堪えた俺は手を振って屋上を去る。
帰り道は一人で自分の病室まで帰れずに廊下をさまよっていたところ、巡回中の看護師の方を見つけて送ってもらった。
ついでに枕をもう一つもらっておいた。
これでなら少しは気が楽になるだろう。
今日のコトは忘れよう。
俺はベッドへ横になると一人で恐怖していたストレスによって疲れていたのか、すぐに深い眠りに落ちた。




