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第5話


 かわいい寝息が途切れ、もぞもぞと背中が動く。

 そろそろ起きるかな?

 空を見上げると、既に太陽は昇りきっている。

 体感的には朝六時から七時くらいだ。


 結局徹夜で起きることになってしまった。

 見張りもしなきゃいけないしな。


 くそっ、太陽が黄色いぜ。


「おはようございます」

「おはよう、ちゃんと寝られたか?」


 エミが立ち上がり、大きく伸びをする。

 背中同士とはいえ、くっついていると意外と暖かかったな。


「身体の節々が痛いかも」

「まあその体勢じゃきついか。何にせよ今日は歩くぞ?」

「はい、覚悟は決めています」


 それにしても腹へったな、夕べから何も食べてないし。

 水分も補給したいところだけど、湖の水って飲んでいいのか?

 ぱっと見は綺麗そうなんだが、変な雑菌とか入っていそうで怖くて飲めない。

 しかしこのまま水分を補給しなければ、それはそれで命に関わる。


「顔を洗うついでに、湖の水を飲んでみる。俺が大丈夫だったらエミも飲んでおけ」

「あっ、あたしが先に飲みますよ」

「最悪腹痛でトイレに長時間駆け込む事になるぞ? トイレなんて無いけど、それでもいいなら」

「うっ……セクハラですよそれ」


 ははは、と笑いながら俺は水を手で掬ってみる。

 透明度は高い。目を凝らすも特に何も浮いていない。

 細菌は目に見えないけどな!

 これで淡水じゃなかったらどうしようか。


 暫し逡巡するも、意を決して一口啜ってみる。

 無味無臭だ。つまり真水。

 そのまま喉の渇きを癒す為に、次々と飲んでいく。


「飲んでいい?」

「あ、ごめん。えっと十分くらい待っててもらっていいかな? 俺に何の異変も無ければ大丈夫だ」


 俺がごくごく飲んでいるのを見て、エミも喉の渇きを感じたのだろう。

 物欲しそうに見てくる。


「わかりました、少し我慢します。それとあたし水筒持っているから、それに汲んでおきますね」

「おお、水筒女子か! いいじゃないか」

「水筒はあると便利ですよ?」


 学生カバンから水筒を取り出して、それに汲んでいくエミ。

 もし水が飲めなくても、何かに使えるかも知れないしな。

 そういや水筒の中身ってなんだったんだろう?


「あれ? その水筒にお茶とか入ってなかったのか?」

「昨日飲んでしまって……」


 ああ、泣いている時に飲んだのか。


 そして十分ほど経過するも、俺に異変はなかった。

 最も俺が鉄の胃袋だった場合は、分からないけどな。


「とりあえず大丈夫そうだな。飲んでいいと思う」

「はい、それにしてもお腹空きましたね」

「だよな。エミはお菓子とか持ってないのか?」

「学校の机の中ならあったんですけど、カバンには入れてないんです」


 机の中にお菓子を入れているのか!

 俺なんて、机の中には教科書が入れっぱなしだったな。

 試験前の時にしか持って帰らなかったのは懐かしい思い出だ。


「眠気覚まし用のでよければ、ガムがあるけど食べるか?」

「はい、頂きます」


 ガムをカバンから取り出して、エミに一枚分けた。

 俺も一枚取り出して噛みしだく。

 うん、すきっ腹にガムってきついな。


「さて、そろそろいくか」

「はいっ!」

「でもどっちに向かっていけばいいのやら」

「湖があるんですから、まずはこれぐるっと一周回ってみませんか?」

「あ、そっか。人が住んでいるのなら水場の近くにいるはずだな」


 あとは食料をどうするか。

 途中、果物があればいいんだけど……。

 とにもかくにも、まずは動くか。


 そして俺たちは歩き始めた。



「そういやさ、俺って手から変な光線でるようになったけどさ、もしかしてエミも似たような事出来るようになってないか?」


 最初は無言で周囲を警戒しながら歩いていたけど、五分で飽きてしまった。

 俺は飽きっぽいらしい。

 仕方ないので、昨日から疑問になったことを聞いてみた。


「どうやればいいんですか?」

「俺の場合は、こう手に力を籠めると、煙っぽいオーラが出たんだけど。取りあえずエミも手に力を籠めてみて」

「やってみます」


 エミは真剣な目で自分の手を見ているものの、何の変化も訪れない。

 俺だけしかこの能力は無いのか、はたまたエミはエミで別の何かを持っているのか。

 何か確認できる方法があればいいんだけど。


「だめっぽいですね」


 暫くあれこれ格闘していたけど、諦めたらしい。


「うーん、他のやり方があるのかな。俺だけしか能力がないってのも変だし、きっとエミにも何かあると思うんだが」


 そういえば小説とかでは、ステータスとか叫ぶと自分の強さが数値として出ているケースがあるよな。

 一つやってみるか。


「ステータス!」

「へっ?」


 俺が突然叫んだのに意表を突かれたエミ。

 そんな彼女を無視して、続けて叫ぶ。


「ウォッチ! 確認! ウィンドゥ! チェック! ベリファイ! ルック! こいー! 見せろー!」

「……何叫んでいるんですか?」


 そんな冷めた目で見ないで。

 そして五分ほど思いつくまま叫んでみるが、何も見えてはこなかった。


「頭大丈夫ですか?」

「ちょ、ちょっと叫びたい年頃なんだよ!」

「アラサーって叫びたい年頃だったんですね」

「くっ」


 何だろう、この屈辱感。

 自己に苛まれていると、遠くに人影が目に入ってきた。


「エミ、前!」

「え? あっ、誰かいる」


 しかも数人いる。

 よし、あの人たちに話を聞いてみよう。


「走っていくか?」

「はいっ!」


 そして俺たちは、人っぽい何かに向かって走り出した。

 そう、遠くからは分からなかったけど、人っぽい姿で緑色の皮膚をした、小柄なモンスターへと。



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