作戦開始
「いよいよ、明日、作戦を開始する」
ヴェルズは一言それだけを言ってどこかへ行ってしまった。
「レナトはどうなんだ?眷属」
「ああ、それがまだ発動してないんだよ」
「無くても良いとは言ったがあった方が成功率が上がるんだったっけ?」
「はい。一応、昨日うちの王がここの王と話したことを要約して話しておきますね。
まず、会談では現在のこの国の惨状についてどのような考えを持っているのか。ということが核になりました。
相手の王、デギス・サーシア セルフィア国王様は惨状自体を知らないと仰いました。まあ簡単に言いますと、この国の人間に興味は無いということですね。その時に我がルリア王国との戦争の可能性をちらつかせました。しかし効果は無く、あくまでこのままの国勢で進めるつもりのようです」
「ここまでの話だとあまり結果は芳しく無かったようね」
「はい、確かに芳しい結果とは言えません。しかし、ここまでの話ではです。
今回の会談でルリア王国は戦争を起こす口実が出来ました。
というのは、セルフィア王国は近々、フレイダ王国に戦争を仕掛けるらしいです。フレイダ王国は我が国と同盟を組んでいるというわけではありませんが、ルリア王国は『侵す国を侵す』という国なのです。
その理由は簡単で、以前名前の出た、ルリア王国の国政担当であるスピカ・アートランドがあまり、戦争に対して積極的では無く、戦争を嫌っているのです」
「それじゃあ、なんで他の国が他の国に侵略するのに介入するんだ?」
「先程言ったようにスピカは戦争を嫌います。だからこそ、戦争を起こそうとする国を管理したいと考えているのです」
「なるほどな。ああ、合点がいった」
「では、話を戻しましょう。
セルフィア王国は明日にでもフレイダ王国に宣戦すると言っていました」
「じゃあそれが作戦開始の合図ってわけですね?」
「はい。既にフィリア王女にも話しておきました。作戦については以前話した通りです。作戦開始時刻が明確でない分、今から体力、魔力の温存をしておいてください。それでは、私もこれで」
ジンの話の後、それぞれ自分部屋へと戻った。
今、皇真たちがいるのはセルフィア王国の南西にある、スラム街の更に端の第四区域である。
セルフィア王国のスラム街は王都を囲むようにして、第一区域から第四区域に分けられている。
第一区域が最も王都に近く、第四区域が最も遠い。
面積は王都が約二割で、残りの八割は全てスラム街であり、人口は王都に約八百万人、スラム街に約六千万人である。
「さて、どうするかな、これから」
「皇真〜、封書?があんた宛に来たわよ」
「は?封書?ちょっと見せて」
皇真がフィズから受け取った封書には大きく『奏皇真様へ』と書かれていた。
「…フィズ、俺には開ける勇気が無いから、お前が開けてくれ」
「う、うん別にいいけど」
封書をそっと開けるフィズを見て皇真は勘違いである事を祈っていた。
「わ〜!」
「きゃああ!?」
「はあ〜…」
封書から現れたのは栗色の髪を揺らしている少女だった。
「わっほー。久しぶりだね、皇真」
「あ、ああ、久しぶり乙音」
「え?何?この状況」
「改めて、わっほー。椎名乙音だよっ!」
「はい?」
「あ〜。こいつは俺の幼馴染で魔導師だ」
「そういや、翔は?」
「翔くんはねえ、旅に出ました」
「お前を棄てて?」
「棄ててなんか無いよ!絶対!多分!おそらく!…うん、多分棄ててなんか無いはず、そうだよね?ね!?」
「いや、知らねえよ。まあ、大丈夫だろ、あいつは真面目だし、強いし」
(魔力を両手に集中させろ。魔力の熱を感じろ。冷静に…。そう、そのまま魔力を集中させながら、両手に手袋をはめている感覚を持て。そのまま手を魔力で覆う!)
「裏切りと不和を善とす悪魔よ、我が魂を糧としその力を我に与えたまえ。出でよ、アンドラス!」
「っはあ…。ダメか。どうすりゃ武装まで出来るようになるんだよ!」
「作戦開始まで体力、及び魔力は温存しておくよう私は言いましたが?」
「ああ、あんたか。俺も戦える人材としていた方がいいんだろ?」
「ええ、まあ。ですが、無理をしろとは言っていません。もし、あなたが眷属を発動する事が出来たとしても、必ずしも誰も殺さずに終わるとは限りません。皇真様の性格から察するに、デギス・サーシア国王を殺める可能性は低くはありませんから」
「でも、もし仮にだ。今回の作戦で人が死ねばフィリア・サーシア王女殿下は奏には付いて行かないんだ?」
「ええ。確かにそう聞きました。ですが、あれはセルフィア王国内での、フィリア・サーシア王女のクーデターでは、ですよ?」
「おいっ!ってことは…!」
「はい。あなたのお察しの通り、ルリア王国がセルフィア王国に戦争を起こす、ということとは関係がありません」
「それをあいつらは、ヴェルズと奏は知っているのかっ!?」
「ええ、この考えはヴェルズ様の考えですから。前にも言いましたが、あの人は交渉術や戦略術に関しては無類の強さを発揮するのです。伊達に私たちの二倍も生きていませんよ。五倍くらいの歳かと思うくらいです。
それと、皇真様、あの人ももちろん知っています。あの人は戦闘にも秀で、知識や閃きを兼ね備えている。あれはバケモノですよ」
「そろそろですかね」
「何がだ?」
「宣戦布告です。セルフィア王国からフレイダ王国への」
「そういや、ルリア王国の兵士はどこにいるんだ?」
「いませんよ。そんな人は」
「は?」
「ルリア王国は私たち三人で十分です」
「ジン、始めるぞ」
「分かりました、ジャグル。レナトさん、作戦開始です」
「皇真。作戦、始めるって」
「了解」
「お父様がフレイダ王国に宣戦!?それは本当?レヴィア」
「はい。先程デギス・サーシア国王陛下が国民に」
「スラムの人達は?」
「一斉に城へ押し寄せてます」
「どうして今日なのでしょうか?今日は作戦開始の日なのに…」
「フィリア様!入ってもよろしいでしょうか?奏皇真です」
「え?ええ、どうぞ」
「それでは参りましょうか、革命に」
「は、はい」
「どう思う、フィズ」
「違和感はあるね。なんと言うか、汚い魔力を感じる」
「だよな。それに、人が少なすぎる。出兵があるにしても、城に兵士がいない」
「あ、あの〜?これからどこへ?」
「ああ、一度城の庭に出るんですよ、この国を解放するために」
「は?」
「簡潔に言うとですね、フィリア王女には民衆を抑えてもらいます」
「え、ええええ!?いや、私にそのような力は…」
「ありますよ、フィリア様には」
「はい?」
「あなたはサーシア王家で唯一愛国心を持つ人です。そのあなたが一言、『私がこの国を変える』と言えば簡単に収まりますよ。それに、一度あなたが信頼されているということを同じ城にいるクズたちに知らせなければなりませんから」
「皇真、また口調変わってる」
「そうだよ〜、皇真は血がたぎるとすぐそうなるんだから」
「皇真様、こちらの方は?」
「わっほー。椎名乙音だよっ」
「乙音様、ですね。私はセルフィア王国のフィリアと言います」
「よろしくね、フィーちゃん」
「フィーちゃんは流石に無礼だろ」
「いえ、構いません。それよりも嬉しいです。私を対等に見てくれて」
その言葉を聞いて、初対面の立ち振る舞いを間違えてしまったと後悔している皇真を見て、フィズは苦笑を漏らしてた。
そして、ちょうど城の中央庭園に出たとき、皇真たちは目を疑った。ある程度の予想はしていたが、その予想を数においても、早さにおいても遥かに超えていた。
つまり、大勢の堕天魔が庭園で待機していた。
「ある程度は予想してたけどここまで多いとはな。それで兵士が少なかったのか。乙音がいてくれて良かったよ。流石にこの量は魔力が持たかったな」
「でしょ?もっと褒めて〜」
「それはこの量の堕天魔を全部退治してからね。もちろんそのときは私も褒めてもらうよ?」
「あ、ああ。了解しました」
「それじゃあいくよ、
救いの象徴となりし天使よ、我が体に憑き魂の一部となれ。出でよ、シェムザ!」
「恐怖の象徴となりし天使よ、我が体に憑き魂の一部となれ。いでよ、イロウエル!
フィリア様は乙音の側にいて下さい!」
「フィーちゃんは私が守るよー!
光の手裏剣、炎雷」
「皇真!行くよ!」
「オッケー。起こすぞ、大火災。旋風に響けし恐怖」
「業火剣〈炎風〉!」
大きな炎が風により、さらに規模を大きくする。
この手の連携技はもともとは学生時代の実習で何度もしてきたものだ。それに、皇真とフィズの場合、常にバディを組んでいた為にタイミングや出力の調整が全世界の契約者バディと比べても秀でている。つまりは、相性がいいのだ、性格的なことで。
「暑い時って冷たいものが欲しくなるよね〜。レーッツ、猛吹雪ならぬ、猛…猛?猛、氷?氷槍。皇真〜砕いて〜」
「了解。狂乱刃」
「じゃあ私は、救いの雨」
魔導師は本来、二つまたは、三つの属性に特化している。属性には火、水、地、雷、風、闇、光、命の八種がある。それらの内、使用者の魔力の性質にあった三つの属性を得意とすることが普通である。
大魔導師の神樹リューイでも火、風、雷、命の四つ。
同じく大魔導師のヴェルズでも、水、雷、闇、光と魔導師の中でもトップクラスの大魔導師でも、得意とするのはせいぜい四属性が限界とされている。
しかし、乙音の場合はさらに上を行き、火、水、地、雷、光の五属性を使いこなせる。さらに、魔力量的に大魔導師程では無いものの、魔導師の中では比較的多い魔力量である。
「魔力の消費量大きかったけど大丈夫かな?」
「まあ、戦闘はあっても後一回か二回だろうしなんとかなるだろう」
「じゃあフィーちゃん、演説、行ってみよー」
「ええ!?ほ、本当にするんですか?」
「大丈夫ですよ、言いましたよね。あなたの希望を叶えるのが僕たちの役目だと。ですから遠慮せず、自分の求める世界について話して下さい」
「は、はい!分かりました、やってみます」
そう言ったフィリアは緊張した面持ちで、しかし、しっかりと抑え付けられている人々の前に出た。
「皆様、今まで申し訳ありませんでした。私はセルフィア王国第三王女フィリア・サーシアです。私は、皆様に伝えなければならないことがあります。
to be continued...
本当にお久しぶりです。
前回の投稿からテストという魔物と対峙していたために全然進まず、読んでくださっている方にとっては長い間待たせてしまいました。(ちなみに、テストの結果は芳しくありませんでした。)
もうそろそろ冬休みに入るので、またスピードアップして二週間後にまた投稿出来るように頑張ります。