手法思案
「さて、じゃあこれからどうしようか?」
「は?お前何も考えずに俺を引き込みやがったのか?」
「あ〜。いやそうじゃ無いけど、とりあえず…」
ヴェルズはレナトの顔じっと見てアイコンタクトを試みていたが、下手すぎて伝わることはなく
「なんだよ、言いたいことでもあんのか?」
「あれ?っかしいな、俺はお前がどんな攻撃ができるタイプか聞いてるつもりだったんだが…」
「んなもん分かるわけねえだろ!」
「あはは。いや〜すまんな、どうもアイコンタクトは苦手でな」
「まあいい。それで俺は基本的に剣技とか銃撃は苦手なんだ。だから体術が主な戦い方だよ」
「それじゃあ手を出してくれるかい?」
「ん?まあいいが、一体何をする気だ?」
「おい、ジン。お前も頼む」
「はい。で、誰の力を宿すのですか?」
「ん〜。じゃ〜アンドラスで」
「分かりました。
裏切りと不和を善とす悪魔よ、我との契約に従いその姿をここに現せ、出でよアンドラス!」
『ふふふふふふ。おひさだね、ジン。それとヴェルズ。今日は何の用だい?』
「アンドラス、あなた眷属が欲しいとは思わない?」
『うん欲しい。え!?この男眷属にしていいの?』
「ええ、いいわ。この男が欲する形は拳、いい?」
『らじゃらじゃ〜。うーん、大丈夫だね、この男ならちゃんとコントロールしてくれそうだし?よーっし、君を眷属にしちゃおう。いい?』
「ああ、いいだろう。アンドラス、俺をお前の眷属にしやがれ!」
『ふふふふふふ。うん、面白い。それじゃあよろよろ〜』
「フィリア様、どうなさいました?」
「いえ、今日はお二人でいらしたのですね」
「はい、先日お話しした、同じ契約者で」
「リーフィズ・ネルヴィアと言います」
「私はセルフィア王国第三王女、フィリア・サーシアといいます」
「それで、あの話ですが」
「はい、どのような方法を取るおつもりですか?」
「まず協力者についてですが…。ルリア王国の王、ヴェルズさんとこの国の反政府勢力に協力して頂けることになりました」
「ルリア王国に、レジスタンス…。あのっ。お願いが…」
「いえ、大丈夫です。誰も殺しはさせませんよ。ですから安心してください」
「はい…ありがとうございます」
「いえ。それでは本題に。フィズ、よろしく」
「ええ、これからのお話ですが、フィリア様には最後まで王宮の指示に従って下さい。ですが、最後はフィリア様に頼るしかありません。いいですか?」
「はい、私はとうに覚悟は出来ております。例えこの身がどうなろうとも」
「あー、いやそこまでの覚悟は全く必要ありませんが…」
「え?」
「まあ、それ程の覚悟があれば大丈夫ですよ」
(皇真様、ナイスフォローですっ)
(レ〜ヴィ〜ア〜!)
(私は何もしていませんよ、フィリア様)
(んもう!)
「内緒話はもう大丈夫ですか?」
「え?は、はい」
(ばれてた…。う〜、恥ずかしい)
「では、続きを」
「まあ、あたしが話すんだけど。
具体的にフィリア様にお話しすることはごさいません。フィリア様にはご自分が思うことをして頂かなくてはいけませんから」
「はあ。では私は流れに身を任せれば良いのですね?」
「はい、それでは現在の予定をお話しします。…主に僕たちの動きについて」
「はあ、はあ、はあ。畜生、なんで使えないんだよ」
「眷属の発動にも色々あるからな。自分の生命の危機に発動したり、ボーッとしてたら急に発動したり、夢の中で発動したら寝てる間に発動したって奴もいるぞ」
「最後の奴絶対お前だろ!?」
「残念ながら魔法使いと天魔とは相性が悪いからな。俺は使えねえんだ」
「つーか、どうすんだこれ?後4日で眷属発動させねえといけねえんだろ?」
「あ、そうだ。じゃあ、実戦してみるか?」
「は?」
「いや、契約者との実戦だよ。ジンと戦え」
「はあああぁぁぁぁぁぁぁ!?」
「本当にいいんですか?本気でやっても」
「ああ。こいつのためだからな」
「分かりました。では本気でやらせて頂きます」
「それでは行きますよ」
「あ、ああ。えと、よろしくお願いします?」
「はい、こちらこそ。
神に仕えし四大天使の一人神の光よ、我が体に憑き魂の一部となれ。出でよ、ウリエル」
「裏切りと不和を善とす悪魔よ、我が魂を糧としその力を我に与えたまえ。出でよ、アンドラス!」
「それではフィリア様今日はこれで失礼します」
「はい。ありがとうございました」
「では、4日後…当日にまた」
「皇真!堕天魔がこっちに向かってる数は多分2体!」
「どこからだっ!?」
「あそこ!ほら、こっち見て!」
皇真が見た窓の外、王宮の中庭には2体の堕天魔が兵士達を無残な姿に変えていた。
「フィズ、先に足止めしておいてくれ!俺もすぐに向かうからっ」
「分かった、
救いの象徴となりし天使よ、我が体に憑き魂の一部となれ。出でよ、シェムザ!」
あの姿は??と、フィリアは窓から飛び出す
フィズの姿を見て聞いた。
「あれは憑依と言って、天使や悪魔の力を強く引き出すための一つの方法です。
そして、外にいるのが堕天魔と言って、僕達が契約している天魔が何らかの原因で堕転したものを指します。とまあ説明は以上です。どうせなら僕達の力量でも測っていてください」
「はあ」
「妖を使役せし悪の権化よ、我が体に憑き魂の一部となれ。出でよ、鬼!」
「遅い!何相手が王女様だからってカッコつけてるのよ!」
「ははは。ごめんごめん。で、状況は?」
「どちらも上級堕天魔。片方はガーディアンで片方がソーサラーってとこかな」
「ペイン・フォイルニスかそれと繋がりのある国が狙っているってわけか」
「どうする?」
「とりあえず…殺す!」
「そうこなくっちゃ!」
「憑け、妖狐」
「いくよ!救いの剣!」
「四神御守刀・朱雀!」
「なあ、これもしかして外側に魔力種埋めてるだけだよな?」
「うん、そうだよね」
二人が相手にした堕天魔は魔力種と呼ばれる天魔の体を構築や技の発動に必要な魔力を封じ込めた種が埋め込まれていた。
魔導師、契約者は共に魔力を消費して魔法、および技の発動を行う。しかし、魔導師と契約者の魔法の変換の効果が異なっている。
魔導師の魔力変換は魔力を魔法の構築と自分への衝撃を抑えるために働く。
しかし、契約者は魔力を契約天魔に与えることで憑依の構築を行う。また、天魔召喚の場合では大量の魔力を契約天魔に与えることで実体化を完成させる事が出来る。
これらの動作は使用者の無意識下で行われる。
「それで、これからどうしますか?ヴェルズさん」
「レナト、お前の眷属はまだ発動していないんだよな?」
「まあな。しかし本当に上手く行くのか?え〜とジン、さん?」
「はい、作戦自体の成功はさほど難しくはありません」
「でも、誰も殺さずに済むかが難しいところって訳だってことだな?ジン」
ジャグルの問い掛けに無言の肯定がジンから現れた。
「何より現国王をどうやって下ろすかが問題なのよね?」
「まあ、そこが誰も殺さずにっていう条件の難所になるだろうな」
「でもよヴェルズ、あんたはこの国を自分の属国にする気なんだよな?」
「まあ、そうだが。何か策でもあるのか?レナト」
「いや、策っていうか疑問なんだが、この国の国王とは話したことがあるのか?」
「いや、無いよな?」
「はい、一度もありません」
「ああ、無い」
「会って話してこいよ!」
「っていうか、なんで話して無いんですか!」
「すいませんレナトさん、皇真さん。うちの王がバカで」
「バカとはなんだ!バカとは!俺だって頑張って政やってるじゃねえか!」
「国政は主にスピカが担当していますが」
「じゃあ、ほら、あの〜。軍備はさ!俺がやってるじゃん?」
「軍備はリリガムが担当してるだろ?」
「えーと、あの〜。その〜、さ?」
「何か自分でしていることがあると?」
「すいません。ありませんでした」
「とりあえずはうちの上司と話して貰うにしても、それからどうする?」
ジャグルの問いに誰も答えを返す事はなく、皇真の提案で会談後に決めようという話になった。
「皇真さん、少しいいですか?」
「はい。どうかしましたか?ジン・アルタイルさん」
「…やはり私のことを覚えておいででしたか」
「忘れる方がおかしいですよ。数年前までずっと一緒にいたんですから」
「…では、口調も戻しましょう。…皇真、あなたはやっぱりずるい人だ」
「今さら過ぎるだろ、ジン」
「あなたは一体、何人の女性の恋心を弄ぶつもり?」
「弄んでなんかいないさ。相手が勝手に俺に惚れただけ。始めにそう言ったのはお前だろ?」
「ええ、確かに私は昔そう言った。でも…!あれはまだ子供だったから!私たちがまだ幼かったから!…許すことだって出来たのに。あなたはまだ…まだ!…一体いつになれば…あなたは私だけの…私だけの皇真になってくれるの!?」
ジンの張り裂けそうな声が静かな夜空を響く。
ジンの涙が彼女の頬を伝い、セルフィアの民たちの涙を含んだ地面を更に濡らす。
『新しい未来のため』を免罪符にしてきた自分の行動が一人の人を、一人の女性を傷付けていたことを知らなかった皇真はその一人の女性がいなくなるまで何も発することが出来なかった。
多くの罪に気付いた一人の少年は心の中で謝り続けることしかその時は出来なかった。
特異な体を持ち、非凡な才能を持つ少年にも、交錯する思いをすぐに綻ばせるために何をすべきか。何が出来るのかは分からかった。
『ごめん』
その一言だけが今、彼に出来る唯一の行為だった。
to be continued...