独裁国家
セルフィア王国では独裁体制がとられている。
そこの国民は重税と飢えに耐えなければならない暮らしを強いられている。
「ねえ、レヴィア。この国って大丈夫なのかな?」
「フィリア様、我々は今こうして生活出来ているではありませんか。我が国は大丈夫です」
「レヴィア、分かっていると思うけど、私はこの国の国民のことを言っているの。私たち王家の話では無いの」
「やはりですか。…そうですね。正直、私もその不安は大きいです。しかし、失礼ですがフィリア様は王宮では地位が低い存在です。デギス・サーシア国王に談判したところで一蹴されるでしょう」
「そうなのよねえ。私には力も何も無いし、シグマ兄様もメリア兄様も今の状況を何とも思っていないし…。誰かがこの国を終わらしてくれるのを待つしか無いのかな?」
「フィリア様。その場合恐らく王家は皆殺されます。私も、もちろんフィリア様も。」
「国外の人間なら…それは無いと考えるべきね」
フィリア・サーシアはセルフィア王国の第5子、サーシア王家の末娘である。兄と姉を二人ずつ持つ第三王女にしてサーシア王家で最も感性と知識が豊かな逸材とも言える存在だが、権力は王家で最も弱い。
「フィリア様、今日はもうお休みになられては?」
「そうね、そうする。ありがとね、話し相手になってもらってばかりで」
「いえ、大丈夫ですよ。それではフィリア様、お休みなさい」
「うん、お休みなさい」
「はあ」
レヴィアはフィリアの部屋を出て一つ溜み息をつき、一通の封筒を取り出す。
「また、フィリア様に渡せませんでした。明日、明日は渡さなければ…。もうすぐ、フィリア様にも救いの手が差し伸べられるはずです。それまで、頑張ってください」
「フィリア様。起きていますか?」
「うん、起きてるわよ。どうかしたの?いつもはもっと遅くに来るのに」
「失礼します。…それが、フィリア様宛に書簡が届いていまして」
「私に?珍しいわね私に書簡なんて…」
フィリアは渡された二通の書簡を読み、驚きのあまり思考が停止していた。
「フィリア様?どうかなさいました?」
「い、いえ。大丈夫よ。でも、どういうことかしら?二通は他者の物なのに、その二通が関係している」
「申し訳ありません。フィリア様。実はこちらの物は数日前に届いたものなのですが、今朝、こちらの書簡が届いていまして」
「いえ、それは良いの。確かに渡しにくい物ではありますからね」
数日前に届いていたのは皇真のフィリアを助けたいという書簡で、もう一通は沙玖夜による物だった。
「とにかく、明日には分かりますものね。この二つは私が持っておくわ」
「はい。分かりました」
「この、奏皇真という人と木葉沙玖夜という人はどういう関係なのかしら?同じ場所にいる?でもそれなら同じ内容の書簡を二通も要らないし、同じ名前で良い。じゃあ、離れた友人で気を回し過ぎてこうなった?でも、それは無いかな。じゃあなんだろ?分からない。どちらかが何か良く無いことを企んでいる?明日までこのまま分からない状態で大丈夫かな?」
レヴィアが部屋を出た後、フィリアは一人考え込んでいた。しかし、答えが出ないまま昼過ぎまで経ち、レヴィアに心配されるだけの一日となり、結局納得のいく結論は出なかった。
「いよいよ、本日ですね」
「ええ。でも、いつ来るかは書かれていなかったから…」
「こちらの事も少しは考えてほしいところですよね」
「失礼しますっ!フィリア様、外をご覧になってください。民衆が暴徒化して城の敷地にっ!」
「失礼しますっ!フィリア様、何者かが城に侵入!この部屋へ向かって来ています」
「誰ですか?その方は」
「フィリア・サーシア様に会わせて欲しい。奏皇真と言えばお分かり頂ける。と言っていました」
「わかりました。その人に会わせて下さい」
「ですが…」
「大丈夫です。それとレヴィア、ルリ、フウカ、二人で離したいから外してくれる?」
「ようこそ、セルフィア王国へ。お待ちしておりました、奏皇真様」
「すいません。時間を明記せずに。それと、外の暴徒たちはもう退くと思いますから、安心して下さい」
「は、はい。それで、本日いらしたのはどういった要件で?」
「今日はフィリア様をお迎えに上がりました」
皇真は立ち上がり礼を尽くすように言った。
「迎え、ですか?」
「それでは、話だけでも聞いてくださいますか?」
「はい。お聞かせください」
「それでは。僕たちは契約者です。たちというのは、もう一人仲間がいるからなのですが。
僕たちは新しく国を建てようと思っています。その国王はフィリア様。貴方にお願いしたく思います。一応、僕たちはその補佐をします」
「それでは、あなたたちはレイジアになるということですか?そして、私は何をすれば?」
「僕たちはレイジア志望です。そして、フィリア様は自分が善であると思うような国にしてくだされば」
「しかし…」
「代わりと言ってはなんですが、交換条件としてフィリア様の願いを一つ叶えましょう。富や名声は無理ですがそれ以外ならば、命を掛けて尽力いたします。さあ、あなたの願いは何ですか?」
「私の願い…」
(この人に頼めば、この国を変えてくれるかもしれない。でも、本当に出来るのか分からない。私の国を建てられるのなら、それはとても良いこと。私の志す世界に近づくかもしれない。それなら)
「分かりました。私の願いを叶えてくれれば、私はあなたたちに着いて行きます」
「その願いは如何なものでしょうか?」
「私の願いは…この国の変革です。この国は今、王による独裁で国民が苦しんでいます。だから王政を廃止します」
「それは、王女のクーデターという形でよろしいですか?」
「はい!」
その後、皇真はフィリアと別れて外で民衆を抑えていたフィズと合流し、宿へと向かった。
「どういったご用件だったのかは、聞かない方がよろしいですか?」
「いえ、レヴィアには話しておくわ。その後も着いて来て欲しいし」
「はい?」
フィリアは皇真との会話の内容を全て話した。
「そういことですか」
「どうかした?」
「フィリア様、契約者に男性はいません」
「いえ、あの方は契約者です。二年ほど前に現れた男性契約者。初代契約祭典優勝者、奏美乃梨の息子です」
「確かに同じ姓ですが…」
「それに、あの方が失敗すれば私はこの国を離れませんから」
「そうですか」
「大丈夫。あの方ならば…」
「ですが、フィリア様。得体の知れない相手に一目惚れとは感心いたしませんが?」
「な、何を言っているの?そ、そんなわけ無いじゃない。私が…一目惚れなど」
「ですが、頑張ってください、フィリア様。あの殿方と一緒に来ている人も女性ですし、見たところ、その人もあの殿方に惚れている様子でしたから」
「も、もう!何てこと言うのよ!」
「さて、これからどうする?」
「うーん。とりあえずはデモの主導者に接触してみる?」
「主導者は確か、レナト・アラフランド。規模は三万人ってとこだな」
「なんだ。知っているじゃない。じゃあ行くわよ」
「この音…。いや行かなくていい。来てくれるそうだ」
「貴様ら!持ち物全部よこせ!」
「逆らうんじゃねえぞ!」
「ほら、やっぱり来た。行くぞ」
「え?どこに!?え、ちょっと待ってよ!」
「で…なんで屋上なのよ?」
「いや、逃げるのに通るならここかなと思ってな」
「まあそうだけど」
「っと、来た来た」
「な、なんだ?お前ら」
「やあ、君がレナト・アラフランド君だね?」
「誰だ、お前らは」
「俺は奏皇真。契約者だ」
「契約者?なんだ、そりゃ」
「ああ契約者を知らねえのか。俺たちは…」
「こういう人たち」
「な、なんだよ…これ」
「おー。契約者じゃん。っていうか、男!?すっげー!男の契約者じゃん!」
「おい、ヴェルズ。何で勝手に外出てんだよ」
「なんだよ〜。けち臭いなあ、ジャグル」
「ヴェルズ様、あなたは一国の王。あまりこの様なことに首を突っ込んでは」
「いいだろ、ジン。俺は気分でしか動かない主義なんだよ」
「はあ…。もういいです」
「ねえ。あんた誰?」
「俺はヴェルズ。ルリア王国の国王だ」
「王様?ねえ、皇真、ルリア王国って知ってる?」
「……」
「ねえ!」
「ん?あ、ああ、知ってるよ。ルリア王国のヴェルズと言えば、世界に今、8人しかいない大魔導師の一人だ。それに母さんがこの人の部下だし」
「おお。ジャグル!こいつ、俺のこと知ってるぞ!すげえ!俺も有名になったな!」
「ヴェルズ、こいつは世界に一人の男性契約者だぞ?んでもって、こいつと同じ学校に神樹リューイがいたらしいぜ。今は結婚してるらしいけど」
「ジャグル、お前はなんでも知っているな、相変わらず」
「ははっ。俺は情報通だからな。大体のことは知ってんだよ」
「えと、それでどうして王様がこんなとこにいるんですか?」
「いい質問だ。俺はこの国を保護国化しようと思ってな。あれ、ちょっと待て。お前、さっき母親が俺の部下とか言ったか?」
「ええまあ。奏美乃梨。あなたに仕えているはずですよ?」
「マジか?」
「マジです」
「…」
「…」
「マジか!?」
「え?ヴェルズ、お前気付いてなかったのか?」
「お前らはわかってたのか?」
「はい。存じていました」
「なんで上司が気付かねえんだよ!」
「いやあ〜、すまんな。美乃梨の息子。あいつ最近、研究で引きこもってるから顔を忘れていて分からなかった」
「ま、とりあえず。レナト・アラフランド君だね。探していたよ」
「どう言うことだ?俺はただの賊軍だぞ?そんな奴が国王に探されるはずが無いだろ」
「まあ、一応はこの国の事を色々調べてたから大体分かってんだよ。グループの中にもうちの国の奴がいるしな」
「それは分かったが何故俺なんだ?」
「人を殺さない、観光客や民衆からの略奪はしない。そういうところをこの王様は気に入ったんじゃないか?」
「そうだよ!よく分かってんじゃん、美乃梨の息子」
「落ち着けヴェルズ。お前うるさい」
「これが落ち着いていられるか!俺と同じことを王族、貴族でもない奴が知ってんだぞ?なあ、美乃梨の息子。お前俺の仲間にならねえか?もちろん、そこのお嬢さんもだ」
「お誘いは有難いんですが、俺はこの国の王女、フィリア・サーシア様を一国の王にするために来たので、あなたの仲間になっては志しが絶たれますから」
「そうか…。じゃあ、俺と手を組もうぜ!取り敢えずこの国を変えるという事では同志ってわけだ。その後は一度俺の国に来ていろいろ学んでいったらいい」
「わかりました。そういうことでしたら、こちらこそよろしくお願いします」
そして、ここに皇真とヴェルズの最初の戦いが始まった。皇真にとって長い間支えとなった、二人目の恩人との初めての出会いがこの極東の地で実現した。
to be continued…
お久しぶりですみません。
学祭やらテストやらで忙殺されてました。
やっと6話が出来たのでやっと5話の投稿になりました。
また2週間後に出来れば投稿したいと思っております。