再会宣言
「もう卒業か。早かったな〜」
「そうですわね。短くも良い時間でした」
「べ、別に私は楽しかったなんて一言も言って無いからね」
「相変わらずのツンデレですわね」
「別にデレてないわよっ!」
「ツンは否定しないんだな」
「う、五月蝿い!ほ、ほら!卒業式始まるわよっ」
沙玖夜の襲撃事件の後、リューイは蓮杖学園へ帰り、皇真の評価や人気は飛ぶ鳥を落とす勢いで上がった。告白もしばしばで、寮の自室にもいれない状況に陥り、リューイの部屋へ居候していた時期もあった。リューイもまた学園内で一目置かれていたがそれをリューイは知らない。が、事件後直ぐにフューズと交際を始めたらしい。フューズの一目惚れで始まり今ではバカップルまではいかないが、仲睦まじい関係を築いている。
「それでは卒業生代表と生徒会長は壇上へ上がりなさい」
「なんで俺が代表なんだろうな」
「それは学園内での人気が高いからですわよ」
「男子が俺一人だからだろ」
「うだうだ言ってないでさっさと言ってきなさい!」
「はあ〜。めんどくせえ、長いと大変だし本気でやるか」
皇真は一言ぼやいてから思い腰を上げて壇上へと向かった。
「君があの女たらしか。どれほどの腕か試さしてもらうぞ」
皇真の前に立ったのは綺麗な黒髪に朱色の瞳、そして大人びた顔の少女、ツキヤ・ヤナギノ。
「女たらしって俺は何もしてないんだけどなあ」
「では!卒業生代表、奏皇真対生徒会長、ツキヤ・ヤナギノの第16回卒業の使役戦を始めるっ!双方、礼!…それでは、始めっ!」
契約学校では、卒業式で使役戦を行うという儀式がある。使役戦とは契約者の決闘の方式の一つであり、契約祭典でも使われる最も主な方式である。ルールは単純で、基本的には相手が戦闘継続不可になるか、リタイアするかの二つである。
「嵐の起こせし天使よ、我が体に憑き魂の一部となれ。出でよ、ザキエル!」
「恐怖の象徴となりし天使よ、我が体に憑き魂の一部となれ。出でよ、イロウエル!」
「ザキエル、か。憑依が似合うタイプは羨ましいな」
「君の憑依もなかなかだと思うがね」
「わお、初めて女性に口説かれた」
「このっ、女たらしめ!私を侮辱するつもりか!」
「っと、危ねえ。あの斧は痛そうだなあ」
「この痴れ者め!喰らえっ、四方の嵐!」
「わお、なかなかでかい嵐だな。旋風に響けし恐怖」
斧を振り回すことで生じた嵐を風を纏った皇真の剣が無効化する。
「四方の嵐を消すとはなかなかだな。いや、想像以上だね!」
「そりゃあどうも!」
二人の武器が何度も響き合う。卒業式のメインイベントとあって、興奮と熱気に包まれている。
「「はぁぁぁぁぁぁあああああ!」」
ドンッ!
二人の距離がほぼ無くなった瞬間その音は学園のグラウンドに響いた。
「なんだっ!?」「沙玖夜っ…!」
「ヤッホー。久し振りだね〜、皇真君」
「やっぱり来たか」
「…コホン。そろそろ離してくれないか?奏皇真」
「っと、ごめん。今おろすよ」
「いや、こちらこそすまない。助けてもらって…。その…ありがと」
「礼なんていいよ」
「しかっ…いや、そうか。それで、こいつはなんなのだ?」
「木葉沙玖夜。俺の元命の恩人だ」
「元って事は何かあったの?」
「まあな。ともかく今はどうやってこいつを葬るかだ」
「ま、深くは聞かないでおこう」
「式は一時中断!全員避難しろっ!憑依可能者は戦闘だ。敵の能力は未知数だ、気をつけろ!」
ヒエリス、避難誘導を頼む。私はこっちをやる」
「了解です。皆さん、落ち着いて、早く行動してや〜」
「ベイス、ネルヴィア、アルマ。お前らは援軍に備えて憑依したまま待機」
イヒルはこの1年の間に自分の名前を戻した。
実を言うと、『イヒル・ノーヴァ』という名前は偽名であった。もともと滅んだ王族の血筋であるため偽名を用いていたが、その国の罪が無くなったために『イヒル・ノーヴァ』から『リーフィズ・ネルヴィア』という名に戻した。
「「「はいっ!」」」
「神の力を借りし天使よ、我が体に憑き魂の一部となれ。出でよ、ラグエル!」
「救いの象徴となりし天使よ、我が体に憑き魂の一部となれ。出でよ、シェムザ!」
「混沌と夜を支配せし悪魔よ、我の体に憑き我が魂の一部となれ。出でよ、デモゴール」
「うっ!?あはっ?」
「残念だね、皇真君。お母さんは悲しいよ。そんなんになっちゃって。忘れたの?私は天魔を実体化出来るんだよ?」
「奏?」「「「皇真!?」」」「皇真さんっ!?」
「さて、皇真君。君には選択肢をあげよう。一つ目、苦痛を与えし堕落者に入る。これが一番簡単だね。二つ目、私が君を諦める代わりに、彼女たちの命を奪う。三つ目、…君が死ぬ。
さあ、どれを選ぶ?女の子たちは口を出さないでね?出したら…殺すよ?」
「「「「っ!」」」」
「ニつ、聞かせてくれ」
「うん?なんだい?」
「まず一つ。仮に俺が三つ目を受諾した場合、その時点でこいつらは関係無くなるんだな?」
「うん。口約束とは言っても約束は破らないよ。何もしなければ私は彼女たちを狙うことは無いよ」
「そうか、じゃあ二つ目。俺が死ぬ前にこいつらを逃がしてやってくれないか?」
「えっ?」「うそっ…」「皇真さん、今…なんとおっしゃいましたの?」「そう…」
「うん、もちろん。じゃあ、君は死ぬんだね?」
「ああ。俺の選択は…俺が死ぬことだ!」
「それじゃあ、御奈ちゃん、だよね?このたちを連れて行ってあげて」
「いいんだな?皇真」
「ああ」
「そうか。おい、お前らついてこい」
「はい…」
「ちょっと待ってください!」
「どうして学院長とナガレさんはしたがいますの!?」
「そうですよ!ちゃんと説明してください!」
「どうしても何も、あいつが決めたんだ。あいつの自由にさせてやりたい」
「私は…皇真自信の決断に従いたいだけ」
「そんな…」
「早くいけっ!」
「ああ。これでお別れだな。…我が甥」
「へへっ。またな、我が叔母よ…」
「奏…」「皇真」「皇真さん」
「なんつー顔してんだよ。そのうちまた会えるだろ。そのうちつっても、50年は先だろうがな。生きてりゃそのうち死ぬ。早いか遅いかもだいたい決まってる。幸せなら死ぬのも怖く無いぜ。お前らが死ぬのが怖いんならまだ生きていられるよ。ああそうだ。フューズ、ツキヤ。別に名前を呼び捨てにしていいぞ?」
「「「皇真!」」」
「何をカッコつけているの。私にも一言くれても損は無いよ?」
「ははっ。ごめんな、ナガレ。お前…強いな」
「さて、もういいな。行くぞ」
御奈は彼女たちを連れて校舎へと足を進めて行った。とても速く、この場所から逃げるように。
「うん。いい判断だったよ。校舎に私の仲間がいるという可能性を踏まえて彼女たちを逃がした。そうだね?」
「ああ。それに、この時点であいつらはお前に狙われない」
「でも、良かったの?私はもう狙わないけど、他の奴らが狙うかもしれないよ」
「まあ、その辺はなんとかするだろ」
「そうだね。それより、なんで死ぬ気が無いのにあんなこと言ったの?」
「この国も出るしな。また会えるかも分からないんじゃあ、カッコつけたっていいだろ?」
「それもそうだね。それじゃあ…私はもう帰るね?」
「どうしてだ?」
「国を出るんだったらレイジアになるんでしょ?」
「ああ」
「それなら、その国ごと滅ぼしてあげようと思ってね」
「相変わらず質が悪いな」
「それじゃあね。ああ、そうだ。今日も私だけだよ?」
「いいのかい?本当にレイジアになっても」
「ファヌエルか。別にいいだろ?使命はちゃんと果たすから」
契約者は基本的に国家に属すことが多いが、その他に自らの王を探し、国を創る契約者がいる。そういった契約者はレイジアと呼ばれるのである。現代のレイジアはフレイダ王国のシュビレ、紅穹皇国のニュクス、フェイル帝国のエレイネ。
「それなら構わないだろうが…。それより、その状態で私を召喚しても大丈夫なのかい?」
「この傷じゃあ実体化させないと治せないだろ?」
皇真は一年前に手紙を受け取った後、御奈から天魔召喚術の講義を受け、マスターしていた。
「まあそうだが…。よく腹を貫かれて生きていられるね。幅、7センチくらいあるはあると思うんだけど」
「ああ、痛すぎて逆に意識があるって感じだな」
「そういえば、王とする者の目星はついているのかい?」
「ここ、フレイダ王国から大分東にあるセルフィア王国の第三王女、フィリア・サーシア。優しさと知識がある。何しろ、セルフィア王国は独裁国家でフィリア・サーシアはその状況を嫌っている」
「セルフィア王国まで歩けば何日かかる?」
「二ヶ月はかかると思うよ」
「そうか、じゃあシパクナーを使うか」
「それなら一週間で行けると思うよ」
「ナガレ!フューズ!ツキヤ!フィズ!第16期卒業生!…また、会おうぜ!」
皇真は誰もいないそこで独り叫び、その場を後にした。
「学院長、卒業式はどうします?」
「…ヒエリスか。そうだな、おそらくあいつはもう来ないだろうから使役戦を飛ばして続けよう」
「皇真はんは…亡くなりはったんですか?」
「いや、多分生きているだろう。正門前にいると思うぞ。行きたかったら行ってもいいぞ。…お前ら」
「ありがとうございます。学院長」
「私も行くけど、あんたらはどうするの?」
「もちろん、わたくしも行きますわ」
「私も行く」
「よう、リューイ」
「卒業おめでと、皇真。それで…今日出るのか?」
「ああ、今日の晩にはもうここにはいないだろうな」
「みんなには挨拶とか報告とかしたのか?」
「いや、していない。フューズにも言ってはいないんだよな」
「ああ…。あ〜、いや、今聞いた」
「えっ?…お前ら、来たのか
何も言うなよ。俺はこの国を出て行く」
「そうか…」「解りましたわ。頑張ってくださいね」「私は皇真が決めたならそれで」「…」
「どうかしたか?フィズ」
「え?ああ、いや、大丈夫!しっかりやんなさいよ」
「ああ、国が出来たらお前らも来いよ。もちろん、リューイ、お前もな」
「ああ」「絶対に伺いますわ」「楽しみにしてる」「歓迎しろよ?」
「フィズ、やっぱり、なんか変だぞ?」
「あのさ、皇真!私も…私も一緒に行っても…いい、かな?」
「…。死ぬのは怖いか?正直に言ってくれ」
「こ、怖いに決まってるじゃない!死にたくなんて…ないわよ」
「ああ、そうか。いいぜ、来いよ。連れて行ってやる」
「え?…う、うん!行く…。私も行く!」
「よし、じゃあ行くか!」
「うん!」
「それじゃあ、また会おうぜ!みんな!」
その後、リーフィズと皇真はフレイダ王国を出、ツキヤはフレイダ王国の仕え、ナガレは契約学校の教師に、フューズとリューイは結婚してフェイル帝国へ移住し、国に仕えたらしい。
彼らの再会宣言はいつの日か実現するだろう。
例え、彼らの望まぬ形であっても…。
それが運命という、惹きあう力、なのだから。
to be continued…