堕転者襲来
二話です。よろしくお願いします。
皇真の入学から数日、やっと学校に慣れてきた頃、ある噂が流れていた。
契約天魔の暴走である。武装化の際に武器が契約者の意図に反して攻撃を繰り返す。主な被害者は契約者自身。そのためそれが事実かの証拠が見つけ難い。
ただ、この噂には犯人も一緒に出ている。それは当然と言えば、当然だが、皇真だ。まだ学校に溶け込み切れてない皇真は疑われるのも、無理は無いだろう。
「ねえ、良いの?あんな事言われたままで。っていうか、アンタが犯人なの?」
「普通疑ってる相手に直で聞くか?」
「まあそうなんだけど。私はアンタじゃ無いと思ってるから聞いてるの」
「正直、良い気はしないし、俺じゃあ無い」
「じゃあ、どうするの?」
「どうするって、経過観察だろ。噂なんて、そのうち無くなる。特に何もせずにいるさ」
「何よ、面白くないわね。そこは解き明かすとかじゃ無いの」
「ああ。じゃ無い」
「じゃあ、解くわよ」
「どう繋がってじゃあなんだよ。俺は解きたく無い。なんでそんな面倒事に付き合わされなきゃなんねえんだよ」
「いいじゃない。闘った相手でしょ。ほら、行くわよ」
「だから、俺はやらねえぞ!」
「で、結局連れて来られたんだが。ここは、どこだ?」
「どこも何も現場よ、現場」
「1つだけ言っとくぞ、この事件に場所は関係ない。誰かが堕天魔を使って操っている」
「何よ、知った様な言い方して…ま、まさか、本当にアンタが犯人なの?」
「違うって。ただ、そんな堕天魔がいるんだよ」
「何?それ」
「確か、名前は…」
「名前はアドラメレク。呪いを得意とする悪魔だ」
「学院長。それはなんですか?」
「だから、言っただろ。天魔だ。凶悪な堕天魔だ」
「へ〜。それと契約出来れば、もっと強くなれんですかっ!?」
「馬鹿か、お前は。堕天魔と契約出来るやつなんているわけが…ああ。そんな契約者はいないに決まっているだろ」
「ですよねえ。学院長、どうやったら、こいつに勝てますか?」
「ほう、私の甥に勝ちたいのか?いいだろう。教えてやろう。こいつはな、女性の色気に…」
「何言ってんだあんたは!」
「おい、学院長にあんたは無いだろう。ちゃんと学院長と呼べ。…それでだなああいつは、色気に弱…」
「っ!?何か来る。この感じ、堕天魔か?」
「ああ。そうらしいな。やるぞ、皇真」
皇真が堕天魔の気配を感じるのと同時に御奈も反応する。
「分かってるよ、学院長」
「久方ぶりの共闘だな」
「ああ。そうだな」
「恐怖の象徴となりし天使よ、我が体に憑き魂の一部となれ。出でよ、イロウエル!」
「神の力の象徴となりし天使よ、我が体に憑き魂の一部となれ。出でよ、カマエル!」
「相変わらず、カマエルしか使わねえな」
「私はお前みたいに浮気者じゃ無いからな」
来た堕天魔は2人。
堕天魔は、 堕ちた天魔は天使で無ければ、悪魔でも無く、堕天使とも少し違う。異質な存在である。そして、名前を持たない。一部の例外を除いては。
「皇真、お前は右のガチムチ野郎を頼む。私は左のガンナーをやる」
「了解」
「なんつー強さだよこいつら」
「ああ。なかなかやるな。大丈夫か?皇真」
「なんとかな。ただ、そろそろやばそうだ」
「じゃあ、ぶっ放すか?」
「本当に久しぶりだけどやるしかねえな」
「「融合魔法〈エレボスの煌めき〉!」」
融合魔法、〈ユニゾンマギア〉。2人の契約者の能力と心が等しくなったときに発動出来る最強の魔法。
「はあはあ これでなんとかなったか」
「ああ。流石にこれで終わった……か」
「おお。完全に壊しきったな」
「へ〜あなたたち強いわねえ。でも、何か忘れてないかしら?」
「何かって……っ!イヒルは!?」
「彼女ならいるじゃ無い。こ・こ・に」
イヒルはそこにいた。急に出てきた女性の足下に。
「それじゃあ、またね。皇真君」
そう言い残すと彼女は消えていった。比喩では無く、本当に消えたのだ。イヒルとともに。
「し、しまった」
「畜生!何してんだ、俺は。また周りが見えなくなった、また友達を失った。今まで何のために力をつけて来たんだよ……」
「落ち着け、皇真。今は嘆いていても……」
「落ち着いてられるかよ、この状況で。あんたは知らないけど、俺は少ない友達を失ったんだぞ?」
「だから、落ち着けと言っている。あいつは誰だ?お前は知っているだろう?」
「木葉沙玖夜。俺の敵だ」
「あいつは無闇矢鱈に人を殺すことは無いだろう?」
「だからなんだよ!俺はあい……」
ドンッ!
「一度寝ろ…」
「良い加減切り替えろ!!いいか、これはお前の責任じゃ無い!保護責任者である私の責任だ!」
「…………………」
(沙玖夜、お前は俺が消す。イヒル、少し我慢してくれ)
あれから数日、皇真はずっと負い目を感じて塞ぎ込んでいた。
「これから会議を行う。お前にも参加してもらう。いいな」
「いや、断る。俺が1人で解決してやるよ」
「ダメだ。お前またあいつを使う気だろう。あの時の二の舞になるつもりか?」
「あの時、か。あの時から何年経ったか知ってるだろ。もう、2年だ。そろそろあいつに頼らないで生きないとな」
(あいつはただの天魔じゃない。あいつは俺の意識だ)
「そうか。じゃあ、負けたらお前には罰を下す。いいな」
「ああ。わかった」
「おい、いるんだろ。木葉沙玖夜」
「な〜んだ。覚えていてくれたんだ。ふふっ。こうして話すのは久しぶりだね。奏皇真君」
「何でまた俺の近くにいる?」
「え〜、やだ答えたく無い」
「そうか。じゃあ…」
「あの女の子を返して死ね?嫌だよ〜。私まだ、死にたくなあいし」
「そうか、じゃあ…俺が殺してやるよ。悪魔女」
「へえ、。殺してくれるんだ。あんな堕天魔にすら手こずってたのに」
「何が言いたい」
「うーん。いまいち話が進まないね。私は君の事を賢い、話の分かる子だと思ってたんだけどなあ。まあ要するに、私が作った堕天魔に1人で勝てない様じゃ、私にはまだ勝てないよ、っていうこと」
「やっぱり、お前か」
「うん。そだよ。だから、もうちょっと覚醒に手を貸してあげよっかなあなんて」
「余計なお世話だよ。俺はお前を呼んでない」
「そっか〜。残念だな〜。でも、折角だし、用意して来た堕天魔だけはあげるね。それじゃあまったね〜」
そう言い残すと彼女はまた消えていった。そして、代わりに現れたのは10体の堕天魔。
「なめやがって、やってやろうじゃねえか
恐怖の象徴となりし天使よ、我が体に憑き魂の一部となれ。出でよイロウエル」
「はあ…はあ…はあ…あと、後2体。なんでこいつの出す堕天魔は強いんだよ。畜生、限界か?あいつを使うしかないのか?」
『皇真君。君は何か忘れてはいないかい?』
「何も忘れて無いぞ。ファヌエル」
『そうかい?私は君が君の力の意味を忘れていると思うのだがね?』
「どういうことだよ、好青年」
『私もそうだが、イロウエル、彼女も言っただろう。君はなぜ力を得た?』
「それが今関係あるのか?」
「ああ。あるだろう。君にも私たちにも」
「もちろん、この世界にもだよ」
「イロウエル?ファヌエル?なんでお前ら実体化してるんだ?」
「それが君の力の意味だからだよ」
「そういうことだ。貴様はこの世界に生きる天魔。それ即ち、天魔の上に立つ資格のある者だ。」
「君は自分の義務を覚えているかい?」
「セラフィムとルシファーと契約を交わせ、だったろ」
「覚えているじゃないか。冷静に、落ち着いて自分を思い出してご覧。そうすれば、今憑依させるべき天魔も分かるはずだよ?」
「ああ。そういうことか。やっと、思い出したよ。ありがとな、イロウエル、ファヌエル」
「改めて礼を言われるとやはり照れますね」
「ま、まあ、私は当然の導きをしただけだ」
「うん。ありがと」
「さて、と。やるしかないか。残りの堕天魔もすぐそこにいるし」
「悪霊の上に立ちし悪魔よ、我との誓いに準じ我が体に憑き魂の一部となれ。出でよ、ベルゼブブ!」
皇真に憑依したのは悪魔ベルゼブブ。契約外の天魔だ。
「ふ〜。やっとか。しっかし、ベルゼブブって強いな」
憑依したのち、皇真は残りの堕天魔を次々となぎ払った。闇のオーラを纏った大きな鎌で。
「あ、やっべ。意識が…ちょっと…やば…い…かも……」
「大丈夫か?ここは、医務室だ。とりあえず、休め。」
「……」
「よく、頑張った。私は嬉しいぞ。皇真」
「……ああ。ありがと」
「だがな、あの女には逃げられた。要するに負けた。だから、お前には罰を下す」
「えっ?」
「明日の放課後、学長室に来い。いいな」
「えっ!?マジで?」
「ああ。マジで」
「よし、ちゃんと来たな。じゃあついて来い。
「ここは、どこですか?」
「この祠には悪魔がいる。そいつと契約しろ」
「はいはい。それで、いる悪魔は?」
「闘争をもたらす悪魔、ブファスだ」
「ここか?いるって言ってたのは」
「おお、あったあった。確かこれを引き抜くと…」
ガコンッ
「こいつがブファスか」
紅い鎧に灼熱の槍を装った悪魔。それがブファスだった。
「闘争をもたらす悪魔よ、我を契約者と認め、我と言葉を交わせ!」
少しの間、時が止まったかの様な静寂が祠を包む。
そして、ブファスが口を開く。
『男の契約者か。珍しいな。貴様はいったい何人の天魔と契約している?』
「4人だ」
『ほう、やつと同じだな。面白い。だが、俺と戦え。勝てば契約してやろう。ただ、天魔は使うな』
「いいだろう。ただ、剣は使わしてくれ」
『ああ。了承した』
ブファスは闘争の悪魔。もちろんの様に強い。だが、皇真も強かった。2メートルはあろうかという長さの槍を華麗に捌きながら、距離を詰める。しかし、また距離を作られる。それが10分ほど繰り返されたのち、ついにブファスの槍を弾き飛ばした。それが決着だった。
ブファスは契約に応じ、皇真の下へ下った。
双剣は左の太腿に出来た。
「よし、よくやった。それじゃあ、あいつを倒しに行くぞ」
「ああ。まだ、イヒルを助けれてないからな。とりあえず、決着を着けに行こう」
決着に近づいて来たかに見えた。だが、まだまだこの闘いは始まりに過ぎなかったのかもしれない。
to be continued...
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