放出畏怖(上)
「とりあえず、ここで船旅は一旦終わりだな。帰りまでどこに置いておく?」
「サリーシャ港でしょう。あそこならその手の業者もいるでしょうし」
現在、二人がいるのは旧セルフィア王国領地東岸の森林地帯であり、その場所からサリーシャ港は目と鼻の先と言ったところである。
「じゃあ、あっちまで船置きに行ってくるから、ちょっと待ってて__」
「どうかしましたか?」
「いや、妙な気配がしてな。一応、警戒しておいてくれ」
「分かりました」
ヴェルズが船を置きに行ってから帰ってくるまでの数分間だったが、その間は何も起こらなかった。
その数分間は、だった。
「皇真、一時から二時の方向で魔法の気配があった。恐らく、攻撃型__皇真、頼むぞ!」
「分かっています。憑け、シパクナー!」
シパクナーを憑依させ、巨人となった皇真は火、水、風属性の魔力弾を防いだ。
シパクナーなどの巨人系の特徴は何と言っても、その大きさである。五十寸(15メートル)程の巨体には普通の魔法や攻撃では傷付かない。
そして、シパクナーにとっての最大の特徴は速さである。
「皇真!そのまま、頼んでいいか!?数はそこまでいない!魔力も強くは無いようだ!」
「はい、分かりました」
そして、シパクナーの状態に話す時には叫ばなければ聞こえない。
シパクナーの状態で話すのは普段となんら変わりない。
「お頭ぁ!きょ、巨人でっせー!」
「んなもんみりゃ分かるに決まってんだろ!もっとましな報告持ってこい!」
「お頭ぁ!あれは契約者でっせい!」
「それもみりゃあ分かるはバカちんが!…まあ、しかし、契約者ってこたあ、女か…」
「でも、お頭。最近男の契約者が出て来たって噂ご存知ですかい?それに、あの巨人は男の姿っすよ?」
「契約者の憑依ってのはな、契約してる天魔の性別に依存すんだよ!んで、男なもんいねえよ、バーカ。そりゃどーせ、男装して注目浴びてえだけに決まってる!」
「ってこたあ、お頭…」
「ああ。間違いないねえ、女だよ」
「おっしゃ〜!野郎共!女を狩るぞ〜!」
「バーカ!そりゃ俺が言うことだろうがっ!」
「イテッ!?た、叩かねえで下せえよお頭ぁ」
「敵は巨人の契約者だ!足下から切り崩せぇ!魔導師たちは足場を壊せえ!」
「了解です!お頭ぁ!」
「うわああぁぁあ!」「ひぎゃぁぁああ!」
「ぬおわぁぁぁあああ!」
「お頭ぁ!あの巨人、速えっす!」
「みりゃ分かるっつてんだろうが!んなもん足下でも縛ってこかしちまえ!」
「さすが、お頭っす!…野郎共!足下縛ってこかしちまえ!」
「だから、俺が言うっつてんだろうがあ!」
「お頭ぁ!あの巨人飛びやがりましたあ!」
「みりゃ分かるって何回言わせんだぁぁ!さっさと避けやがれぇぇえ!」
「でもお頭あ!あんなもん降ってきたら、この地面崩れるっす!」
「知らねえよ!とりあえず、死なないように避けやがれ!」
空高く飛び上がった皇真は空中で目下の山賊たちに踵で狙いを定める。
素っ頓狂な悲鳴をあげながらも山賊たちは皇真の攻撃を避け続けた。
十分経っても死なないためキリがないと皇真は憑依を解いた。
「お頭」
「どうした?」
「あれ、胸見て下さい」
「ん?なんだよ」
「女みたいに胸、ありますかね?」
「ただの貧乳なんじゃねえか?」
「それと、他の奴から聞いた話、男の契約者ってのは巨人を持ってるとか…。それと憑依を解いて別の天魔を連続使用するとか…」
「じゃあ、お前はあれがその男の契約者だって言いてえのか?」
「はい、そうっす」
「あのな、お前…」
「へい?」
「んなこたあどうでも良いんだよ!女なら俺らで使えば良いし、男なら奴隷として売れば金になんだろ!少しゃあ頭使えっ!このバカちんが!」
「イテッ!?お頭が叩くから頭使えなくなるんっすよ」
「ああん?さっさと気絶させてこい!今、あいつ憑依してねえだろ!」
「了解っす。すぅー、や__!」
「野郎共ぉ!さっさとあいつをボコって来やがれえ!」
「こうやんだよ。俺の跡追いたきゃあ、これぐらいやってみろ」
「お、お頭…。俺、俺っ!」
「早く行ってこい!」
「お頭ぁ!」
「憑け、イロウエル」
皇真はイロウエルに憑依を変え、その手のひらで小さな風を起こす。二週間程とはいえ、憑依で使っていなかった感覚を取り戻すためだ。
「お頭ぁ!なんかエロいっす!」
「胸!?胸、強調し過ぎでぱねえっす!」
「それに雪みてえな白銀の鎧とかもっとぱねえっす!」
「しかも、真っ黒の翼生えてるっす!なんかぱねえっす!」
「さっさとやっちまえ!俺らには目に毒過ぎんだ!」
なんとも純情な山賊たちは鼻から溢れ返りそうな赤色の宝石をしまって皇真に立ち向かった。
近くに行っても男と思われないのは皇真が童顔で女々しい身体つきだからだろう。
「死傷の煌」
皇真が小さく呟いた言葉は光を生み出し、山賊たちを焼き払った。
「お頭あ!あの巨乳美少女強えっす!」
「魔導師!やっちまえ!」
「フランメ!」「ブラーゼ!」「ヴィント・シュトゥース!」
「圧縮大共鳴」
山賊の両側から発せられた轟音は共鳴により、更に大きな音を立てた。
そして、その音は鼓膜を破り、一時的な目眩。及び、失神を起こさせた。
「大噴火」
「皇真、大丈夫か?」
「はい。何もありませんでした」
「なんか、悲しそうな顔してるけど…。どうした?」
「いえ…。少し、自分の顔に嫌悪感を覚えただけです」
「お、おう…」
「皇真、フレイダの王宮に着いたらの事だが、一度ウチの応接間的なところに顔を出したらシュビレと一緒にいてくれ」
「はい」
「やっと来たわね。カレア、シュビレたちを呼んできて」
「分かりました、母上」
「__あ、そうだ。カレア」
「いかがなさいましたか?母上」
「あの時のこと、まだ許してないから。今晩、私の部屋に来なさい」
「分かったよ。母さん」
「くすっ。物分かりのいいカレアは好きよ」
「実の息子を異性として、更にはその愛が重い母親は嫌いなんだが…」
その後、ヴェルズと皇真はアリアスに挨拶をした後、それぞれ分かれた。
ヴェルズは本格的にアリアス、カレアとの会談、皇真はシュビレに契約者として会いに行った。
「シュビレさんですよね?」
「ええ。そうよ。どうかした?」
「いえ、以前とは装いが大きく違っていたので」
「さすがに、他国の王が来るとなればそれ相応の格好をしなければならないからね。…それで?何が聞きたい?」
「いえ、聞きたいというよりは診て頂きたいのですが」
「そう…。じゃあとりあえず、イロウエルに憑依して」
「それじゃあ、軽く模擬戦するね」
「あの…?シュビレさん。憑依はしないのですか?」
「ええ。とりあえずは、ね」
「旋風に響けし恐怖!」
「__ッ!?」
皇真が放った竜巻はシュビレに触れた途端に掻き消された。
「今のは…?」
「技の発動の際に詠唱されるキーの一部を今の竜巻から消し去ったの。
契約者が憑依だったり武装した時、魔法を使っているのは知ってる?」
「はい。普通の魔導師が使う魔法とは別の領域から介入しているということは知っています」
「魔導師は、Mark、Connect、Requestの三つの過程を踏んでからKEYを詠唱して魔法を発動しているの。まあ、Mark、Connect、Request、KEYっていうのは私が勝手につけたんだけど。
同じ原理で契約者も天魔に憑依、武装しているときはその過程を踏んで技を出しているの。皇真は旋風に響けし恐怖を最初に使った時、無意識下でその旋風に響けし恐怖という言葉を見つけて、詠唱したはず」
「はい。確かに意図して言っているものではありません」
「シュビレさん、魔法についてもう少し教えてくれませんか?」
「別構わないけれど…。他言はしないで」
無感動な声のトーンの中に加味された禁止を皇真は重く肯定した。
「私にわかっていることもあまり多くはないけれど、魔法は対象にMarkしてから自分の中で自律している魔法領域に意識をConnect、そしてConnectした魔法領域に存在する魔法をRequest。ここで魔法を発動する準備が整う。そして、最後に魔法を発動するためのKEYを詠唱して魔法を発動する。
魔法の強さは魔法力に依存する。魔法力は魔法領域に宿している魔力を魔法に乗せた量のこと。だから魔法のの威力はある程度ならコントロール出来る」
「魔法領域は自律しているのでは?」
「そうよ。だけれど、魔法を発動する時はその自律した魔法領域にConnectしているからコントロールは可能になる。意識的にと言うよりは、感覚的にコントロールするんだけれど、実際にコントロールは可能。__ちょっと見てて」
「これが魔法力を抑えて魔法を発動した場合」
そう言って、シュビレは自分の胸の前で掌を上にし、掌の半分程の大きさの火柱を作った。
「そして、これが魔法力をもう少し乗せた場合」
今度は掌全体を覆う大きさの火柱を作った。
「一応教えておくと、私の契約天魔は雷霆の天使、ラミエルと雪の天使、シャルギエル、火炎の悪魔、イフリータ」
「他にも、いくつか技を見せて」
「はい。現在は明確に味方とはなっていないので、限りはありますができるだけ多く見せるので、できるだけ多くの情報や技を教えて下さい」
「今は、ということは将来的には味方になる?」
「そうしたいと思っています。…同盟組めるような国を作らないとですがね」
to be continued...