平安泰国
「皇真、そろそろ戻るよ〜。ヴェルっちが話あるって言ってたよね」
「あれ?それってあの二人だけじゃ無かったのか?」
「さっき、連絡が着て、〈五盟聖〉を紹介するから戻って来いって言ってたの。ほら、行くよ」
「真希ちゃんも来る?ヴェルっちなら歓迎すると思うよ」
「私も行く。スピカちゃんに会いに行く」
「おっ、やっと来たか。すまんな、〈五盟聖〉をちゃんと紹介して無かったからな」
夕刻、観光を終えたハルラ、レナトと里帰りとその付き添いに行っていた皇真、フィズ、乙音、そして、美乃梨に魔法について教わっていたフィリアはヴェルズのいる、応接間に居た。
「よし。じゃあ、早速紹介して行くか。それじゃあ_」
「一応面識はあるけど、一応な。俺はジャグル・ベテルギウス。主にこの王さんの目付役をやってる。歳は二十六歳だ。魔法は使えないから美乃梨の天魔、ゼルクの眷属だ。その内、見せてやるよ。んじゃ次、リリガム」
「ああ。俺はリリガム・アルクトゥルス。仕事は軍備を担当している。ヴェルズ王やジャグルとは違って、余り怒気を散らすような性格はしていない。歳は二十五だが、ジャグルとは同級生だった。魔法が使えない、留年した誰かとは違って魔法は使える。機会があれば見せよう」
「じゃあ、次は私ね?えーと、初めまして!私はスピカ・アートランド。歳は、真希と同じ十六歳で最年少ですっ!仕事は国政を担当してます。最年少がやってますっ!契約者で、契約天魔はザキエルとラビエル。ザキエルは嵐の天使で、ラビエルは治癒の天使なのっ!皇真くんのファヌエルの強化版がラビエルって感じかな?以上、よろしくね!じゃあ次はジンちゃん行ってみよー」
「はい。私はジン・アルタイルと言います。年齢は皇真さんと同じで十八歳です。仕事は_」
「ジン、お前はいつも固いな〜。みんな皇真とのことも知ってんだからいいだろう?」
「ですが。…はい、分かりました。上司の命令ですからね。仕事は外交を担当しています。ご存知かと思いますが、皇真の許嫁です。契約天魔はレナトが眷属として使ってもいるアンドラスとウリエル、それと、破壊の悪魔、ラウムを使います」
「うん。結果固かったが、まあ、いいだろう」
「じゃあ、最後は私ね。名前は奏・カペラ・美乃梨…じゃ無かったね。今はミノリ・カペラ・ベテルギウス。元々は奏美乃梨だったけど、ここで働くときに、このおっさんにカペラをミドルネームとして入れられてね。仕事は魔導研究師。契約者のことも研究対象だよ。契約天魔はゼルク、誠忠の悪魔、オロバス、炎熱の悪魔、フラウロス、それと、音の天使、イスラフィル。よろしくね?」
「美乃梨、誰がおっさんなんだ?」
「いや、三十八は結構なおっさんだよ?私は十歳以上下だし」
「女で三十路はきついんじゃねえか?」
「ジャグルくーん!奥さんがおばさん扱いされましたー!」
「ああ、ジャグルはまたリリガムと喧嘩してるぞ」
「チッ、じゃあいっか。憑依、フラウロス。死ね、無礼者」
「どっちが無礼者だっつーの」
「申し訳ありません、皆さん。スピカ、頼んでもいいですか?」
「了解ですっ、ジンちゃん。…憑け、ザキエル」
その後、スピカに服を八つ裂きにされたヴェルズとジンに叩きのめされたジャグルとリリガムは美乃梨共々年少組二人に説教をされ、そのままその場はお開きとなり、皇真と乙音はそれぞれの家へ、フィズとフィリアは真希と一緒に乙音の家へと行った。
「ただいまー!っていっても誰もいないんだけどね。ささ、上がって上がって」
「じゃあ、お邪魔します」
「遠慮なく上がらせてもらいますね」
「うんうん。ほら、真希ちゃんもって、あれ?」
「あの子ならもういるわよ?」
「うそっ?早くない?真希ちゃん」
「今更、乙音ちゃんに遠慮する事も無いと思って入った」
「まあ、そうだね」
「そういえば、乙音って普段どんな過ごし方してるの?」
「んー?どんな過ごし方してたっけ?」
「いや、それを聞いてるんですけど」
「乙音ちゃんは翔くんと一緒にいた事ぐらいしか、覚えてないけど」
「乙音さんは真希さんとも仲が良いんですね」
「まあねー。三人は監視対象だけど、昔っからの幼馴染だもん」
「監視対象、ですか?」
「そ。皇真たちが、極東の倭楼民主共和国っていう国から追放されたのは知ってる?」
「はい、一応、聞いてはいます。理由までは知りませんが」
「私たち奏や椎名の人間は〈倭楼七卿魔法門〉っていう、国の守護者なの。そして、その人間は全員が魔導師。
倭楼は契約者としての才能を持っている人を差別していてね、その差別を主導しているのが政府。
だから、政府の人間である〈魔法門〉の人間に契約者がいるのは大きな問題って訳。それで、その契約者となった私たち三人は国外永久追放。プラス、〈魔法門〉の人間を監視につけているって感じ」
「ですが、皇真さんの通っていた学校の学園長は篠波という、その〈魔法門〉の人間だったとお聞きしましたが」
「あの学園長も私たちと同じ。だけど、倭楼の側の人間だから、兄さんが、学校に通っていた二年間は学園長が監視役だったの」
「で、私は皇真と真希ちゃんと美乃梨さんの監視役になっているの。そういえば、私が学校にいる間は?」
「雛影の人間が来ていた」
「雛影…ね」
「雛影がどうかしたの?」
「うん。雛影の一族はね、なんというか、暴力主義なの。自分たち以外は誰も認めてないって言うか…。危ない人が多いの。大丈夫だった?雛影なら男を送るって言ってたよ、総会の時」
「うん、男だったよ…。本当に気持ち悪かった。反吐がでるくらい」
「何か、あったのですか?」
「うん…。皇真がいた一年間は二人暮らしだったから大丈夫だったんだけど…。皇真が学校に行った途端私の家に押し入って来た」
「大丈夫だったの!?」
「うん…。でも…裏切り者を浄化せよと命令があったとか言って、そいつは、私を…犯そうとした…」
「っ!そいつは!?そいつはどこにいるの!?」
「大丈夫です。結果的には私は何もされていませんから」
「ですがっ!それでもその男性は許可も得ず女性を_」
「フィリアさんは言っちゃダメ!_大丈夫。ちょっと体を触ってきた瞬間に殺したから」
真希は優しく諭すように、だが同時に強くそれを拒んだ。
彼女たちは今、彼女たちしかいない空間で話しているが、やはり王族の娘。
フィリアがそれを口にするのを真希は聞きたくなかったのだ。
「でも、大丈夫だったの?月に一回、報告をいれないといけないんだけど…」
「うん。ガブリエルにお願いして代筆してもらった。私は憑依は出来ないけど、実体化は出来るから」
「そっか、真希はガブリエルと契約していたもんね」
「ごめんなさい。話が逸れたね。乙音ちゃん、説明はいいの?」
「ああ、うん。そうだね。ええと、私たちは監視役として、自分たちの国に反乱を起こさないかとかを報告する役目なの。まあ、あっちの人選ミスのおかげで私が何回見逃していることか」
「毎度毎度、お世話になっております」
深々とお辞儀する真希に二人は苦笑を漏らし、乙音は肩をすくめた。
「うん。本当にね。私も揉み消してるのがばれたら追放か処刑なんだけどね。と言う訳で、みんな、言わないでね?」
「そいじゃ、もう寝よっか?明日も行かなきゃなんないし」
「だね。って言っても、どこで寝るの?」
「ん?ここで、みんなで寝るよ?布団は、私が魔法で作るから安心してね。寝心地悪いかもだけど」
「魔法とは素晴らしく便利な物ですね」
「うん。使い方を間違えなかったら凄く良い物だよ」
翌日、同じく応接間にて、
「昨日は見苦しい姿を見せてしまいました。申し訳ありません」
「いや、気にしてないよ?この国が活気のある国の理由が分かったみたいだったし」
「はい、王と臣下の仲が良いのは良い事だと思いました」
「そう言っていただけると幸いです」
「ね、アルアル」
「アルアルは止めてください、乙音。で、何ですか?」
「皇真は?」
「何故私が知っていると思うのですか?」
「いや〜。アルアルの皇真への愛情は私と翔くんをも上回る物があるからさ〜」
「ふわっ!?な、何を言うんですか、乙音!」
「あっ、照れた」
「と言うよりはデレたのでは無いでしょうか?」
「フィーちゃんも大分こういうのに慣れたね」
「はい。皆さんといると驚かされてばかりですからね」
「それで、皇真は?」
「兄さんは姉さんと模擬戦してる。四ヶ月後の〈契約祭典〉に出るんだって」
「真希は出ないのですか?」
「私は憑依出来ないから。実体化は禁止だし。それに出れる年齢じゃない」
「アルアルは?出ないの?」
「はい。私も出れません」
「あの、〈契約祭典〉とは?」
「そっか、あれもまだ四回目だしね。〈契約祭典〉、〈パートラグ・フェスト〉っていうのは、アルアルとか、真希ちゃんみたいな契約者の世界大会でね。使役戦、カウザ・グリッグっていう方式で勝負していくの。
カウザ・グリッグっていうルールでは憑依のみでの戦闘になるの。だから、真希ちゃんは出れないの。あれ?アルアルは?憑依出来るよね?」
「〈契約祭典〉は十九歳以上しか出れませんからね」
「皇真さんも十八ではありませんでしたか?」
「ああ、皇真は三ヶ月後に十九歳になるからセーフだよ」
「そういえば、美乃梨さん、出ていいの?皇真もそうだし」
「はい。大会の運営から報告がありまして、美乃梨さんがいないと大会が面白くないとのことです」
「前回の優勝はどなたなのですか?」
「デュラン・ディートリッヒっていうどこの国の人でもない人。フリーの用心棒かな」
「なーんか、勝手だね。皇真も美乃梨さんも悪くないのに、追放にしちゃってさ」
「仕方ないんじゃない?堕天魔との契約なんだから。対応はしないとね」
「リーちゃんは出ないの?」
「出るわよ。皇真と戦えるんだから」
「今年はどこでやるの?」
「紅穹皇国だって倭楼の直ぐ西の大国ね」
紅穹皇国とはニュクスというレイジアと星燐奏という魔導師が建てた国で、現在は星秀焰が王となっている。その他、秀藍、秀絆、秀流の四人の兄弟と秀明と秀悠の二人の姉妹がいる。他にも秀宮という弟がいた。
「リーちゃんは練習しないの?あの二人と練習したらいい経験になると思うけどね。美乃梨さんは動き方が上手くて、魔力の消費が凄く小さいし、皇真の本気の戦い方は今まで見て来たのとは違うと思うよ。皇真の武器は速さだからね」
「練習したいのはしたいけどね。あの二人と練習したら〈契約祭典〉で戦う意味がなくなるからね。ジンにお願いしたの」
「私も来年は出るんですけどね。ですが、頼まれましたから」
「さすが、アルアルは大人だね〜」
「皇真の嫁ですからね。出来るだけ大人でいないと離れていきそうで」
「当の本人は甘えてくれるジンの方が好きって言ってたことあるよ」
ジンは顔を真っ赤に染め上げ、硬直した。
「あれ?ちょっといじめ過ぎたかな?」
「自分のキャラの方向性についての葛藤じゃないの?」
「お顔が真っ赤に染まっていますが…大丈夫なのでしょうか?」
「そろそろ、危ないと思う。乙音ちゃん」
「だね〜。ごめんね、アルアル。…せいやっ!」
「皇真、手」
「ん」
皇真は美乃梨の私室で実の姉と手を繋いでいた。
というのも、皇真が学校に通っていた間に増えた魔力量や魔力の質を調べる為である。
魔力の量や質は身体の成長に伴い変わっていく。その他にも、鍛錬の方法や実戦経験によって、魔力量は増加し、魔力の質はより身体に馴染む。美乃梨はそれを感じることができる。この技術は〈倭楼七卿魔法門〉の物であり、〈魔法門〉の中でも、特別な人間にのみ教わる事が出来るが、必ずしも習得できるものでは無い。
「ん〜、魔力量はそこまで変化無しかな。まあ皇真はもともと魔力量が多かったしね。魔力の質は結構変わったかもね。何回ぐらい本気で殺し合いした?」
「四回ぐらいだったと思う」
「にしては、変わりすぎだね。ってことは、進行が進んでるのかな?」
「皇真、胸出して」
「え?」
「そこまで嫌な顔しなくても良いじゃない。心臓診るから胸出して」
「了解しました。お姉様」
「お母様ね」
「訂正箇所はそこじゃねえだろ。っていうかお前を母親扱いしたらジャグルまで父親扱いしないといけなくなるだろ」
「え?無し?」
「無論」
「そ。終わったよ」
「で、どうだった?」
「うん。結構きてるね。この調子だと、一回放たないと駄目かも」
「どうするんだ?」
「私的には皇真ごと殺すのが一番だと思うんだけどね。まだ死にたくないでしょ?」
「まあ、普通死にたくないっていうと思うけどな。実際嫌だし」
「そっか。じゃあとりあえず王さんに相談する」
「俺が持ってるってことは知ってんのか?」
「うん。説明はしてある」
「そうか。とりあえずは一度放つ方向だな」
「うん。くれぐれも勝手に放たないでね」
「了解です。お母様」
「それでよしっ!」
to be continued