閑話休題
「それじゃあ、こっちの統治は君たちに任せるよ。デギスの事が残ってるだろうから、最初は上手くいかないだろうけど、君たちなら出来ると俺は考えている。相談にも乗るから、ほい、これ」
「これは、なんですか?」
「〈マージシューラ〉と言ってね、リアルタイムの手紙だと思ってくれて構わない。使い方はこれを持っている相手を想像するだけだ」
「ありがとうございます、ヴェルズ王」
「いいって、いいって。こっちの統治をほったらかすんだから、気にすんな」
「フィリア、お前も行くんだろ?」
「はい、そのつもりですが?」
「フィリア、これを持って行きな。俺らの爺さんの形見の杖だ」
「メリア兄様、そのような大切な物を私などに_」
「いいの。それは私たちがフィリアに託すのが一番だど思って渡してるんだから」
「セリア姉様…」
「あ、そうそう。フィリア、私もルリア王国に行くの」
「「はい?」」
「あら?シグマには話したから聞いていたと思っていたけど、メリアやセリアも知らない?」
「知りませんよ!初耳です!なんで?なんでですか、ハルラ姉さん!」
「もしかして、姉さん…。あのレナトとかいう奴と一緒に…」
「セリア、正解。私はレナト君と結婚するの」
「え?嘘ですよね?ハルラ姉さんが王族の血を引かない様な者と結婚…?」
「あら、メリア。レナト君は王族の血を引いてるわよ?私たちの従弟よ?彼は」
「姉上、それは私も初耳なのですが…」
「そうね、知っているのは私だけだもんね。でも、レナト君は私たちの従弟よ」
「それじゃあ、行って来ます。兄様、姉様」
「私も、行って来るわね。戻って来るかは分からないけどね」
「世話になったなシグマ、お前たちはそこで国を作ってくれ」
「はい、民衆の意見を多く取り入れた、新しい国を必ず」
「おう、頑張れ!」
そして、ヴェルズたちは元セルフィア王国とシグマ・サーシアに別れを告げた。
フィリアは星杖を手に、最初の旅へと向かう。
「ここが、俺の国、ルリア王国だ」
三日後、皇真とヴェルズの膨大な魔力のお陰で、皇真たちはルリア王国に立った。
セルフィア王国とルリア王国を海路で行く場合、魔力船を使わなければ二週間かかる。
「皇真さんはこの国が故郷なんですよね」
「ああ、この国には俺の母親と妹がいる」
「父親もいるぞ、ほらここに」
「まあ、実際は母親じゃなくて、姉なんだけどな」
「では、なぜ母親と?」
「母親として扱って欲しかったらしい。全く、迷惑も甚だしいよ」
「素敵な姉弟ですね」
「フィリア、本当にそう思うか?」
「はい。お茶目な方なのだろうと思います」
「まあ、茶目っ気の塊だからな。実際」
「なんで、あんたがそんな事知ってんだよ」
「いや、俺の妻だからな?美乃梨はお前の姉である前に俺の嫁だからな?」
「お前の嫁である前から俺の姉だよ…」
「あっ、あの方が、皇真さんのお姉様ですか?フィズさんや乙音さんといる…」
「あー、そうだな。珍しいな母さんが王宮に顔出してるなんて」
「そうなのですか?」
「いつもは王宮で顔を出さずに籠ってるんだよ、美乃梨は」
「そうでしたか」
「あっ!皇真!?皇真だよね!久しぶり〜!愛しのお母さんですよ!」
「久しぶりだな、フィズ、乙音」
「ええ、久しぶり…。って言っても三日振りぐらいじゃない?」
「相変わらず、皇真は天然さんだね」
「うるさい」
「あれ?もしかして、お母さん無視された?」
「あなたが、皇真さんのお姉様ですか。初めまして、フィリア・サーシアと申します。先日、弟さんに国を救って頂きました」
「まただ…」
「どうか…なさいましたか?」
「まただ…!まただ!また、美少女を連れて来やがった!皇真!これはどういう事!?あなたもしかして、一夫多妻制を導入するつもり!?」
「違うよ、フィリアは俺の王だ」
「王…?皇真、レイジアになるの?」
「ああ、そのつもり」
「じゃあ、この国にはずっといないの?」
「ああ、そうなる」
「フィリア、久しぶり」
「はい、お久しぶりです。フィズさん」
「うんうん。フィーちゃんもだいぶ変わったね。何より、杖を持つようになった」
「はい、お祖父様の形見を受け継ぎました」
「なに?フィリアちゃん、だっけ?魔法使えるの?」
「あ、いえ。私は魔法など使えません」
「なら丁度いいよ!フィリアちゃん。私が最強の魔導師にしたげる!」
「なあ、ヴェルズ。俺さ、美乃梨と結婚生活出来るか不安なんだけど」
「あははははは!ヤバい、ジャグル!はははははは!」
「笑うな!」
「あ、皇真。家に帰って、真希にも顔を見せといてね。乙音ちゃんたちも連れて行ってあげて」
「了解。んじゃ、行くか。乙音、フィズ」
「フィリアちゃんはちょっと私に付き合ってくれる?」
「はい。構いません」
「ん。じゃあ行こっか。皇真、フィズちゃん、乙音ちゃん。また後で〜」
「俺らも仕事に戻るか」
「だな、あっちに行ってた間の国務が多そうだし」
「全く、王さんももうちょいちゃんとしてくれればな…。レナトとハルラさんはどうする?よかったら、このまま王宮にいるか?」
「ああ、いいよ。俺らはちょっと観光でもしてくる」
「なら、また後でこっちに来るといい。俺はお前といろいろ話しがあるしな」
「オッケー。じゃあ、また来るよ」
「私も伺ってよろしいですか?」
「おう。いいぜ」
「皇真の家って、どんなとこなの?」
「皇真の家はね。すっごく広いんだよ。もうびっくりするくらい。って、リーちゃんも元は王族なんだっけ。じゃあそこまで広くないのかな?」
「まあ、セルフィア王国の王宮の半分くらいの大きさだ。設計から組み立てまで俺らでやった自慢の家だ」
「そういやそうだったね。真希ちゃんが設計したんだっけ?」
「ああ。それを姉さんと俺で組み立てたんだ」
「あ、見えてきたよ。おお!懐かしいな〜」
「え?あれを作ったの?しかも何年も前だろうから、皇真もまだ小さい頃だよね…」
フィズたちの目の前には辺りの家々の五倍かそれ以上の大きさの立派な家が建っていた。
その見た目はルリア王宮にも劣らず、とても幼い子供が設計や、組み立てを行ったとは思えない物だった。
「ねえ…皇真。この家が出来たのって、皇真が何歳の時?」
「こっちに引っ越したのが七歳だったから…ちょうどそれくらいだろうな。王宮に居候させて貰っていた時期もあったけど」
「え…?これ七歳とかが創れる物なの?っていうか、王宮に居候してたのに、ヴェルズたちは皇真の事知らなかったの?」
「まあ、細かいことはどうでもいいさ。入るだろ?俺の家」
「う、うん。入らせてもらおう、かな?」
「真希〜、いま戻ったぞ」
「兄さん…?いや、兄さんが帰って来るはずがない。ということは…兄さんの名を語る強盗?…始末する…!」
「始末するな、真希。俺だ、皇真だ、美乃梨の弟で真希の兄の皇真だ」
「兄さん?本当に?」
「本当だ」
「本当の本当?」
「本当の本当」
「嘘」
「嘘じゃない」
「現実?」
「現実」
「夢?」
「夢じゃない」
「本当の兄さんなら優しく私を抱いてくれるはず。最愛の妹を前に自分の感情を抑えられなくなるはず」
「はいはい。…ほらこれでいいか?」
皇真は諦め、真希を黙っているフィズと乙音の目の前でそっと抱き寄せた。
「ん。兄さんの香り。昔から変わらない、兄さんのいい香り」
「ねえ、乙音。あれって、兄妹としてどうなの?」
「兄妹というより、恋人に見える時は確かにあるよね〜。真希ちゃんとだけじゃなくて、美乃梨さんとも」
「分かった。これがこの家族の普通なのね」
「うん。まあ、キスとかそれ以上の関係にさえならなければいいと思うよ」
「ええ…。そう、ね」
皇真たちが去った後、王宮、美乃梨の自室にて。
フィリアは美乃梨に教えを受けていた。
「んじゃ早速、魔法について説明しちゃうね。
魔法っていうのは、自然現象に対して魔法式を構築することで強引にその自然現象を起こす事なの。
魔法式っていうのはまだ明確に発見された訳じゃ無いんだけど、魔導師が脳内で無意識に構築している情報の事。まあ、正直なところ、魔法式に関しては気にしなくてよし!
自然現象について何だけど、私たち魔導師に作用させることが出来るのは、基本として、火、水、地、雷、風、闇、光、命の八つの属性があるの。魔導師にはその中から三つぐらい得意なのがある。で、今からそれを調べるね。はい、手を出して」
「はい。…これでよろしいですか?」
「うん。はい、じゃあ、私の手を両手で握って。…うん、そうそう。じゃあその手の中、私の手を消し去る様な気持ちでその手の中に集中するの。そう!いいね、魔法を感じたよ〜。じゃあ手を離して…。うわ〜、びちょびちょだ…。という訳で、フィリアちゃんの魔法特性は水型だね。だったらもう一個は火か地かな…。フィリアちゃん、もっかい手を出して。今度は片方だけで良いよ。…うん、ありがとう。じゃあ、結構痛いかもだけど、頑張ってね」
「フィリアちゃん…大丈夫?」
「はい…。何とか落ち着きました」
美乃梨はフィリアの指に少し傷を付けた。それはフィリアにとって、痛く感じるほどのものでは無かったのだか、フィリアが絶叫したのはその次だった。
美乃梨はフィリアに対して、雷の魔法と風の魔法を用いた。雷でフィリアの体に痛みが走れば、火の特性がある。同様に風で痛みが走れば、地の特性がある。雷の魔法を用いた際、フィリアは異常に痛みを感じた。
「ごめんね。そこまで痛いとは思わなかったの。もしかしたらフィリアちゃんは相当保有魔力量が多いのかもしれないね」
美乃梨曰く、ヴェルズの時でもここまでの拒否反応は出なかったらしい。
拒否反応は体内の魔力量が多ければ多いほど、強く現れる。だが、フィリアのそれは魔力量の多さ以外に、別の要因があるものと思われる。何故なら、フィリアが絶叫し出した際、美乃梨は命の単色魔法を使い、痛みを抑えようとしたのだが、その魔法が弾かれたのである。
美乃梨によると、それは魔法に対する耐性が高く、その分だけ体内に入った魔法粒子に対する耐性が低いからだと言う。
「魔力量が多いと具体的にどんな利点があるのですか?良いことだというのは分かるんですけど…」
「魔力量が多いとね、魔法の連続発動が出来るの。今までが、ヴェルちゃんとか乙音ちゃんだったからピンと来ないだろうけど…。普通、魔法は数秒単位で発動出来るものじゃないの。小魔法ならともかく、ヴェルちゃんや乙音ちゃんがいつも使うような、戦略級の魔法だったらそうそう連続発動出来るものじゃないの」
「戦略級、ですか」
「あー、説明して無かったね。魔法に規模による区別があるの。行動級、戦闘級、編成級、戦略級、国家級、世界級。この区別で言うと、行動級と戦闘級なら中級魔導師で連続発動が可能。これぐらいが普通の魔導師だよ。でも、編成級と戦略級は大魔導師ぐらいの魔力量じゃないと、そう簡単に連続発動どころか、発動が失敗したりするの。魔法って結構、難しいのよね」
「はあ。では、私の魔力量では?」
「うーん。正確に計った訳じゃ無いから分からないけど、国家級を発動する事は出来ると思うよ。多分一回撃てば死ぬだろうけどね」
「死、ですか…」
「大丈夫、大丈夫!鍛えれば、魔力の器も大きくなるし」
「そうですか…」
「うん!一年あれば乙音ちゃんまでは無理かもだけど、普通の魔導師より強くなると思うよ。ああ、ちなみにフィリアちゃんの魔法特性は水、火、命だね。それじゃあ、魔法のレクチャーを始めよっか!」
「はいっ!よろしくお願いします!」
酷く傷を負った魔法に対して、フィリアは最初、抵抗を隠せなかったが、美乃梨の詳しい説明を聞き、フィリアは魔法に対して、違う意識が芽生えた。
それも彼女の傷となる可能性もまた…。
と、思う彼女は考えすぎだと師は思った。
to be continued...