暗雲招来(上)
「あそこにいるのは奏と一緒にいた奴か。おい!奏のところの小娘!」
「何?なんか言った?役立たず」
「凄い辛辣だな。えーと、じゃあ…」
「フィズでいいわ。私もレナトって呼び捨てにするから」
「一応俺の方が年上なんだけどな」
「何ですか?年増さん」
不機嫌そうに呟いたレナトの小言に対し、フィズは嫌味に満ちた笑顔で応対した。
「おい!ああ…まあいいや」
「じゃあ年増って呼ぶわ」
「そういう意味じゃねえよ!ちゃんと名前で呼べ」
「で?どうしてここにいるの?」
「ああそうだった。ヴェルズに言われて姫様の方へ来たんだよ」
「そう。フィリアさんなら城の扉の方にいるわ。話しかけに行かないでね」
「分かってるよ。でも、なんか怪しくないか?あの空気」
「どういうこと?私には何も分からないけど」
「まあ、只の勘だからな。気にしなくてもいいが、一応見ておけ」
「分かった。警戒しておくわ」
「妙に素直に従うな」
「まあね。疑って損は無いでしょう?」
「その憑依でリセファの攻撃力と防御力に勝てるの?」
「さあな?いざとなったら方法もあるし、やってみるさ」
「そう?なら取り敢えず後ろをどうにかしてくれない?」
「後ろ?…あっ!あなたはシュビレさん!?」
「ええ、正解。私はシュビレ。フレイダ王国のレイジア。会いたかった、奏皇真」
「どうして俺に…?」
「四人目のレイジア(仮)だから。これが一番の理由」
「他には何か理由あるのですか?」
「男だからとか、魔力が天魔に酷似しているとか、堕転の可能性を感じるからとか」
「堕転?フレイダ王国のレイジア、それはどういうこと?」
「奏皇真、長いから皇真で良い?…そう。皇真は堕転していない?」
「どうしてですか?」
「契約者とか魔導士はある程度の実力をつけると魔力の質も分かるようになる。皇真の魔力には何か混じってる。違う?」
「シュビレさんその話は後でいいですか?先にこいつ殺すんで」
「分かった。頑張って」
「本気でやりますよ。
イロウエルの憑依を解除、憑け鬼。現せ鎌鼬、天狐。その姿を現せイロウエル」
「無理しないで良いのよ?そんなに魔力も残っていないでしょ?」
「まあな。持って三十秒ってとこか」
「へ〜。じゃあ行くよ。世界の終わ…!」
「荒らせ鎌鼬!」
「なっ…!」
「天狐」
「…」
「イロウエル、頭を」
「分かった」
「四神御守刀白虎、玄武、朱雀、青龍。
四刀、狂乱剣舞」
鎌鼬の旋風によりサラは巨体を飛ばされ自由を失い、天狐の無言の頷きにより四肢を切断、イロウエルにより頭を撃ち抜かれ、皇真の刀によりサラ・ロゼの意識はそこには消えた。
「終わった?」
「はい。では、話の続きをしましょう」
「その前に一つ、さっきの堕転者の魔力は消えていない。大丈夫?」
「はい。想定内です」
「それならいい。それで、あなたは堕転しているの?」
「していないといえば嘘になります」
「じゃあ堕転していない?」
「それも無いです」
「それじゃああなたは何?」
「僕は体の一部、詳しく言うと心臓が堕ちています」
「そう。それは何か問題を抱えている?」
「いえ、昔は少し発作がありましたが今は」
「そう。ありがとう。…アリアスたちも来たみたいだし、私は戻るわ。後、皇真。あなたのその戦い方、いつか大変な事になる。気を付けて」
そう言い残したシュビレはその場から霧のように消えた。
「大変な事、か。確かにそうかもな。それより、フレイダ王国はもう着いたのか。早く終わらせないとな」
「ねえ、大丈夫?もう全身血だらけ、傷だらけよ?」
「まだやれます。その…鬱陶しい…首を取るまでは」
「そう、残念ね。もう無理なら生かしたままにして帰ろうと思ったけど…。仕方ないわね、死にたいって言うんだもの。ちゃんと殺してあげないと」
それから夏菜はジンの顔を見、皇真のいる方を見て同情するように、
「あーあ、皇真くん可哀想だな〜。お嫁さん、殺されちゃうんだもんね」
と言った。
「ねえ、王女と一緒にいる…レヴィアだっけ?なんか様子がおかしくない?」
「確かに…言われてみれば。なんというか」
「ええ、殺気立っている?」
「行くか?」
「そうしましょう」
フィズとレナトがフィリアの方へ足を向けた時、レヴィアは小さく、誰にも聞こえないほどの音で指を鳴らした。
その瞬間、フィズとレナトの前には堕天魔が四体。
「やっぱりか!あいつ、何者だ?」
「少なくとも契約者じゃない」
「何だろうな、これは」
「ジャグルか。みれば分かるだろ?」
「まあ、大方、そこの奥に王女様がいて、傍使いが裏切ったってところかね」
「ビンゴだ」
「ここから王女のところへ行くにはこれを消すしかないんだけど、時間制限有りなのよね」
「レヴィア?どうかした?」
「いえ、では中へお入り下さい」
「ええ、ありがとう」
「まずいな、王女様城に入ったじゃん」
「早く片付けよう?時間も無いかもしれないし」
「だな。レナト、眷属使えそうか?」
「ああ、何だろうな。声が聞こえてくる」
レナトのおかしな発言にフィズはジャグルに頭大丈夫なの、と尋ねるが、ジャグルは大丈夫だと手で制した。
『私はアンドラスの眷属。幸運に会いし男性よ、私はあなたを信じましょう。裏切りは忠誠があってもの。不和は絆があってもの。あなたには忠誠を誓う者、絆を結ぶ者はいますか?あなたには仲間がいます。まだ時間が浅くても、あなたは絆を結びつつあります。私の示す力は空間との不和です。あなたの拳はそれを可能にします。必要な物は力のみではありません。忠誠心、絆。それらの想いが私に力を与え、あなたの力となります。よろしくお願いしますね主』
「頼むぜ、相棒」
「我が身に宿れ、アンドラス!」
「お、出来たか。レナト、お前の掌を見てみろ」
「何だ、これは」
「それは契約せし者の双剣と言って、契約者の証だ」
「それが何故俺の掌に?」
「契約者は…フィズ、紋章はどこにある?」
「言うの結構恥ずかしいんだけど。…うなじにある」
フィズはそう言いながら琥珀色のポニーテールを上げて見せた。
「うわー」
「今エロいと思ったでしょ!」
「悪い悪い。契約者は今のやつがずっと出ている。皇真なんかは右眼っていか右の眼球と首にあっただろ?」
「ああ、あったな確かに。皇真の右眼はあれで見えてるのか?」
「見えてる訳無いじゃない。皇真の右眼は失明してる。光も感じない程にね」
「ま、まじかよ…」
「ま、とりあえずその紋章は眷属発動中だけの物だ。気にすんな」
「オッケー。それじゃあ俺の初陣だな。王女を助けるためにな」
「あんた、反乱勢力じゃない」
「今はルリア王国所属な」
「はいはい」
「我が体に憑け、シェムザ」
「我が身に宿れ、ゼルク!」
今回はちょっとギリギリでした。
次の話が23時に完成したばっかりです。二週間後はちょっと難しいかもしれません。
申し訳無い!