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88 自分が除かれた要因は何だ!!

「教えていただけますか?」


 有無を言わせぬユーリックの強い言葉に、レイシェスは再びびくりと肩を震わせる。そしておずおずと顔を上げ、ユーリックと視線を合わせた。


「!!……、ご、めん、なさ、い……」


 弱々しく、たどたどしく告げられる言葉は、本当に小さくて……。

 周りが静まっている、今、この時にしか聞き取れないようなものだった。


「教えていただけますか? 先ほどまでここにいたもの(・・)は何なのかご存知でしょう!?」


 再度の問いかけにおずおずと顔を上げるレイシェス。そして、視線を彷徨わせながらも、ゆっくりとユーリックと顔を合わせた。


 ユーリックは以前とはまったく違うレイシェスの態度に戸惑いながらも、視線を合わせにっこりと笑いかける。


「……彼は、『シェス』“大地の精霊”にして、あまた顕現する“精霊”の長となるもの」


 レイシェスの言葉に、精霊族は色めき立った。自分たちの地を富ませてくれていた“精霊”の姿を、直に見て、尚且つ声さえ聞いたのだ。伝えられていた男性体の声と、知られていなかった姿。そのどちらをも自分で感じることが出来たのだ。感動も一入(ひとしお)だった。



  〜・〜・〜



 ふと目覚めると、あたりは真っ暗だった。

 自分の指先さえ見えない。自分が目を開いていることさえ確信できないような、真の暗闇に香はいた。自分の意思に従って動く体と、触れる指先で、たぶん此処は光が無いのだろうと思う。


「……ぁ、あの」


 ただ一人きりの空間は不安をあおる。気が緩めば、真っ赤になって横たわるギルベルとユーリックの姿ばかりが頭を占領する。

 思わず声を出しても誰の返事も無い。自分の声が闇に吸い取られて行くだけだった。


 香は一人っきりの空間でひざを抱いて、瞼を閉じる。そうすれば此処が暗いことも、一人きりなことも頭の隅に追いやることが出来る。


 祖父たちにあてがわれたアパートの一室と同じ状態。


 考えることを放棄して、ただ、まどろむ。

 時折よぎる赤を無理やり押し込めて……。嫌なほうへ行きそうな思考をまっさらに塗りこめる。


「大丈夫。……だいじょうぶ、ダイジョウブ…………」


 暗闇の中、温かい雫がポタりと落ちた。その音だけが、なぜか空間に響いていた。



 〜・〜・〜



「香くんはいま、どこにいるのです?」


 ユーリックの問いかけに、びくりと跳ねるレイシェスの肩。小さい姿とあいまって哀れを誘うが、そんなことに彼はかまわない。


 今、大事なのは香の行方。

 そしてギルベルの無事。


 疑問が解消されない限り、ユーリックは追及の手を休めるつもりはない。


 厳しい表情のユーリックをちらちらと伺いながら、レイシェスの顔は泣きそうにゆがんでいた。

 それを見ながらも、威圧するように身を乗り出す。


「…………、二人は無事よ、ただ、……しばらく会えない……と、思う」


「なぜです?」


「彼が二人を気に入ってしまったから……」


 『シェス』と呼ばれる“大地の精霊”に気に入られると、なぜ会えなくなるのか。ユーリックは燃え上がるような怒りを感じた。


 二人から、なぜ、自分だけ引き離されるのか! 二人だけが気に入られたから、懐に取り込まれたのか!!

 自分が除かれた要因は何だ!!


 焼け付くような感情に蓋をして、ユーリックは、必要な情報を引き出そうとする。気を抜けばレイシェスを引っ掴んで問い詰めようとする体を、必死に押し留めていた。


 そして、――――返答によっては一触即発となる問いが発せられる。


「二人は、どこに、居るのですか?」


 とたん、棒を飲んだように直立するレイシェス。さながら、機械人形のようにギクシャクとユーリックへと向き直った。

 ユーリックは返答を促すように、少しだけ頭を傾げる。


「……えっと、……あの……」


 言いよどむレイシェスから視線を離すことなく、ユーリックは周囲を警戒する。“精霊”を身近に見て興奮した精霊族が三人を取り巻き始めていた。


「…………、………………、わかりません」


「えぇ〜〜っ!!、どうゆう事です?!」


 後ろからの素っ頓狂な声に、そんな言葉はこちらが放ちたいと思いながらも、ユーリックの瞳から剣呑な光が消えていく。


「確認するが、あなたは“湖の精霊”なのだろう、そしてさっきの存在から後を任された。――――なのに、わからない?」


 食いつくようなネイスバルトの問いに、こくんと頭を垂れた。呆然として、開いた口から何かが漏れてしまいそうになっても二人を攻めることはできないだろう。残された頼みの綱がプツリと簡単に切れてしまう細い糸だったのだ。

 そんな二人を押しのけて、カズヒと復活したミツキが前に出てくる。


 一気にレイシェスを取り巻く空気が変わった。


「――――精霊族!! お前っ、たちのせいで……」


「何をそこまでお怒りなのです、お教えください。レイシェ……」


 カズヒがレイシェスの名を口にしたとたん、ゴウッと風がうなった。ユーリックとネイスバルトを巻き込むことなく、精霊族たちだけが風にあおられ翻弄される。

 先ほどまでとは違い周囲の瓦礫を巻き込むことなく吹き荒れる風に、今のレイシェスがある意味正気なのだと二人は感じた。


 吹き荒れる暴風の中、台風の目の様に静かな空間でレイシェスは二人に向き直った。


「ごめんなさい、彼は自分の存在が周囲に及ぼす力を知っているの。でも興味を引いたものとは、とことん遊びつくす。それによって引き起こされるもろもろには、ほとんど頓着しないわ」


「では、いつ帰るかもわからないと? せめて二人の状態を知ることはできませんか!?」


 ユーリックの問いかけに、レイシェスは静かに首を横に振ることで答えた。



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