86 『我か? 我とは、何であろう……』
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『――――今代の巫女よ、我の力を受け入れよ』
混乱する思考に声が聞こえる。
二人が呼んでも起きないなんて許せない、そんな気持ちのまま二人を揺さぶり続ける香へ、誰かが語りかける。抱きしめるフォルハの腕はそのままに、香は辺りを見回した。
『――――――今代の巫女よ、我の力を受け入れよ』
「それ以外に言えないの!!」
苛立ちのままに叫べば、『やっと通じたか』と息を吐く気配がある。辺りを見ても声の主は見当たらない。
香は困惑しながらも、声の主に言い放った。
「偉そうなしゃべりしてんなら、二人を起こして!! それぐらいして見せろ!!」
『フフッ、なかなか面白そうな巫女じゃな。――――良かろう、何を対価に我に力を要求する?』
感情任せの叫びへ返された言葉に、香は思わずたじろいだ。そして一拍の後、言い放つ!!
「そっちから力受け入れろって言ってんのになんで対価がいるんだ!!」
周りは香の言葉が誰に向けられているものなのか、互いに顔を見合わせている。とうの香は、意識に語りかけられていることにうすうす気づきながらも、声を上げてまくし立て続けた。
「大体あんたが元凶なんじゃないか! こっちに責任転嫁すんじゃねえ!!」
抱きしめるフォルハは日頃とのギャップに目を白黒させている。横たわる二人に顔を向けながらの暴言は、徐々に湿り気を帯びてきて……。
「父さんが死んだのも、向こうで生まれたのも、みんなあんたが原因だろ…………」
次第に小さくなる声の、その内容にフォルハは目を見張った。
今、香が話している相手は、大きな力を持ち、尚且つ、この状況に少なからず責任を持つべき相手ということになる。それが、香に対することのみなのか、精霊族も含まれるのかはわからないが……。
「ぎるべるとゆーりを返して!! ハヤク!!」
叫んだ香の声音が不思議な調べを奏でる。
その直後!!
周囲の魔素が一気に高まり、凝縮し凝って形を持った。
香と同じくらいの背丈の、発光した人型。全体がぼんやりとして、おおよそ人の形としかわからない。向こうが透ける訳でも、揺らめいているわけでもなく、ただ光る人型がコテンと首をかしげた。
後ろで手を組み、片足で地面に線を描く。肩を落としたその姿はなんだか寂しそうで……。しかし、発光体のそのしぐさに、フォルハの腕をすり抜けた香は、ダンッと足を踏み鳴らして抗議した。
「ハヤク! オコシテ!!」
ビクッ!! と、硬直した発光体は香を伺いながら二人の傍にひざまづく。フォルハのすぐ傍にいるそれは、熱くもなく存在感さえなかった。目を瞑ってしまえば、すぐ傍に立たれてもわからないだろう。
恐る恐るというように二人に手を伸ばす。
二人に触れる瞬間発光体の指先は、ほかのどこよりもまばゆく光を発し、その光は二人を包み込んだ。
とさり……
横たわる二人に目を奪われていたフォルハは、何の音かと振り返る。そこには、糸の切れた人形のように倒れた香の姿があった。
「香くん!!」
駆け寄りそっと抱き上げる。力の抜けた四肢は垂れ下がり、地面に線を描く。仰け反りそうな頭を支え、しっかりと胸に抱きこみ二人と発光体の傍へと歩み寄った。
「あんたが何者かはわからないが、香くんが助力を願ったということは、悪い存在じゃないんだろう。今の香くんの状態がわかるか?」
フォルハにとっては一か八かの賭けだった。ここは精霊族の里であり、以前香を診たミツキもいる。しかし、フォルハにとって精霊族、ましてやミツキは香に害意を持つ者として認識されていた。
やっと手元に戻り、しかし倒れた香をゆだねることは選択肢になかった。だから香が呼び出したであろう者に声をかけた。
『異常はない。疲労だろう』
微動だにせず返された言葉を信じるべきか、フォルハは戸惑いながらも深く息を吐いた。
よく観察すれば、血の気は引いてはいるものの鼓動はしっかりしているし、苦悶の表情を浮かべているわけでもない。さっきまでの状況を知らず香を見たなら、遊び疲れた後の安らかな寝顔だと思うだろう。
香が大丈夫だと自分で思えたフォルハは、思わず礼の言葉がついて出た。
「たすかった」
心底からの言葉に発光体は振り向き、フォルハを見た……のだろう。
『やはり、言葉を交わせることは良いな……』
「あんたは、何だ?」
自分に言い聞かせるような、自嘲を含んだ言葉に思わずフォルハは問いかける。言った後にしまったと思ったが後の祭りだ。
この存在は、今はこちらに害意はないがこれからもそうとは限らない。どういうものなのかを知らなければ、知らず逆鱗にふれ膨大な力で滅せられるだろう。
『我か? 我とは、何であろう……』
発光体はゆっくりと立ち上がり、フォルハに抱かれた香へと手を伸ばす。思わず後退したフォルハに、クスリと笑う気配が感じられた。
『おぬしらに害は成さぬ。今代の巫女が守りたいと思っておった者たちを害するほど、落ちぶれてはおらぬ』
フォルハと香は言葉と同時に、地面に横たわる二人と同じ光に包まれる。
眼前に広がる光の乱舞に、思わずフォルハは目を細める。まばゆい光の向こう側にうっすらと人影が見えた。それとともに、ここまで来た疲労が拭い去られるように無くなっていった。
腕の中の香を見れば頬に朱が上り、よりいっそう穏やかな顔つきになっている。視線を発光体へと戻せば、こくりとうなづく事でフォルハの疑問に答えた。
「あそこの二人はいつごろ目覚める?」
視線でギルベルとユーリックを示し問いかける。徐々に弱まってきていた光は消え去り、壊滅した里の其処此処で忙しなく動く精霊族を見やった。
『ちいさい方はじきに、……大きい方はわからぬ』
ちいさい方、というのはユーリックだろうか、ではギルベルは何故わからない?
「わからない?」
『体に力が残っていない。いくら我でも無いものは増やせん。傷はふさいだ。――――だが、血は戻らぬ』




