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86 『我か? 我とは、何であろう……』

大変お待たせしました。今後は最低でも週に一度の更新を目指します。

今後ともよろしくお願いします。

『――――今代の巫女よ、我の力を受け入れよ』


 混乱する思考に声が聞こえる。

 二人が呼んでも起きないなんて許せない、そんな気持ちのまま二人を揺さぶり続ける香へ、誰かが語りかける。抱きしめるフォルハの腕はそのままに、香は辺りを見回した。


『――――――今代の巫女よ、我の力を受け入れよ』


「それ以外に言えないの!!」


 苛立ちのままに叫べば、『やっと通じたか』と息を吐く気配がある。辺りを見ても声の主は見当たらない。

 香は困惑しながらも、声の主に言い放った。


「偉そうなしゃべりしてんなら、二人を起こして!! それぐらいして見せろ!!」


『フフッ、なかなか面白そうな巫女じゃな。――――良かろう、何を対価に我に力を要求する?』


 感情任せの叫びへ返された言葉に、香は思わずたじろいだ。そして一拍の後、言い放つ!!


「そっちから力受け入れろって言ってんのになんで対価がいるんだ!!」


 周りは香の言葉が誰に向けられているものなのか、互いに顔を見合わせている。とうの香は、意識に語りかけられていることにうすうす気づきながらも、声を上げてまくし立て続けた。


「大体あんたが元凶なんじゃないか! こっちに責任転嫁すんじゃねえ!!」


 抱きしめるフォルハは日頃とのギャップに目を白黒させている。横たわる二人に顔を向けながらの暴言は、徐々に湿り気を帯びてきて……。


「父さんが死んだのも、向こうで生まれたのも、みんなあんたが原因だろ…………」


 次第に小さくなる声の、その内容にフォルハは目を見張った。

 今、香が話している相手は、大きな力を持ち、尚且つ、この状況に少なからず責任を持つべき相手ということになる。それが、香に対することのみなのか、精霊族も含まれるのかはわからないが……。


「ぎるべるとゆーりを返して!! ハヤク(・・・)!!」


 叫んだ香の声音が不思議な調べを奏でる。



 その直後!!



 周囲の魔素が一気に高まり、凝縮し(こご)って形を持った。

 香と同じくらいの背丈の、発光した人型。全体がぼんやりとして、おおよそ人の形としかわからない。向こうが透ける訳でも、揺らめいているわけでもなく、ただ光る人型がコテンと首をかしげた。

 後ろで手を組み、片足で地面に線を描く。肩を落としたその姿はなんだか寂しそうで……。しかし、発光体のそのしぐさに、フォルハの腕をすり抜けた香は、ダンッと足を踏み鳴らして抗議した。


ハヤク(・・・)! オコシテ(・・・・)!!」


 ビクッ!! と、硬直した発光体は香を伺いながら二人の傍にひざまづく。フォルハのすぐ傍にいるそれは、熱くもなく存在感さえなかった。目を瞑ってしまえば、すぐ傍に立たれてもわからないだろう。


 恐る恐るというように二人に手を伸ばす。


 二人に触れる瞬間発光体の指先は、ほかのどこよりもまばゆく光を発し、その光は二人を包み込んだ。



 とさり……



 横たわる二人に目を奪われていたフォルハは、何の音かと振り返る。そこには、糸の切れた人形のように倒れた香の姿があった。


「香くん!!」


 駆け寄りそっと抱き上げる。力の抜けた四肢は垂れ下がり、地面に線を描く。仰け反りそうな頭を支え、しっかりと胸に抱きこみ二人と発光体の傍へと歩み寄った。


「あんたが何者かはわからないが、香くんが助力を願ったということは、悪い存在じゃないんだろう。今の香くんの状態がわかるか?」


 フォルハにとっては一か八かの賭けだった。ここは精霊族の里であり、以前香を診たミツキもいる。しかし、フォルハにとって精霊族、ましてやミツキは香に害意を持つ者として認識されていた。

 やっと手元に戻り、しかし倒れた香をゆだねることは選択肢になかった。だから香が呼び出したであろう者に声をかけた。


『異常はない。疲労だろう』


 微動だにせず返された言葉を信じるべきか、フォルハは戸惑いながらも深く息を吐いた。

 よく観察すれば、血の気は引いてはいるものの鼓動はしっかりしているし、苦悶の表情を浮かべているわけでもない。さっきまでの状況を知らず香を見たなら、遊び疲れた後の安らかな寝顔だと思うだろう。


 香が大丈夫だと自分で思えたフォルハは、思わず礼の言葉がついて出た。


「たすかった」


 心底からの言葉に発光体は振り向き、フォルハを見た……のだろう。


『やはり、言葉を交わせることは良いな……』


「あんたは、何だ?」


 自分に言い聞かせるような、自嘲を含んだ言葉に思わずフォルハは問いかける。言った後にしまったと思ったが後の祭りだ。

 この存在は、今はこちらに害意はないがこれからもそうとは限らない。どういうもの(・・)なのかを知らなければ、知らず逆鱗にふれ膨大な力で滅せられるだろう。


『我か? 我とは、何であろう……』


 発光体はゆっくりと立ち上がり、フォルハに抱かれた香へと手を伸ばす。思わず後退したフォルハに、クスリと笑う気配が感じられた。


『おぬしらに害は成さぬ。今代の巫女が守りたいと思っておった者たちを害するほど、落ちぶれてはおらぬ』


 フォルハと香は言葉と同時に、地面に横たわる二人と同じ光に包まれる。


 眼前に広がる光の乱舞に、思わずフォルハは目を細める。まばゆい光の向こう側にうっすらと人影が見えた。それとともに、ここまで来た疲労が拭い去られるように無くなっていった。

 腕の中の香を見れば頬に朱が上り、よりいっそう穏やかな顔つきになっている。視線を発光体へと戻せば、こくりとうなづく事でフォルハの疑問に答えた。


「あそこの二人はいつごろ目覚める?」


 視線でギルベルとユーリックを示し問いかける。徐々に弱まってきていた光は消え去り、壊滅した里の其処此処(そこここ)で忙しなく動く精霊族を見やった。


『ちいさい方はじきに、……大きい方はわからぬ』


 ちいさい方、というのはユーリックだろうか、ではギルベルは何故わからない?


「わからない?」


『体に力が残っていない。いくら我でも無いものは増やせん。傷はふさいだ。――――だが、血は戻らぬ』




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