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81 香に何が起こったのか!!

 ザゴォオォォン!!


 衝撃とともに、向かう先に見えていた建物が全てなぎ倒されていた。

 周囲の木々さえも、里を中心とした放射線状に倒れている。


 ギルベル達も例外ではない。

 かろうじて木に叩きつけられることはなかったが、全員が何らかの力に吹き飛ばされ転がされた。体格に劣るユーリックと力に劣るネイスバルトは、ごろごろと何回転かしている。ギルベルとフォルハはさすがに尻餅で持ちこたえた。それにしても、地面に伏す事で衝撃をやり過ごしたのだ。


 辺りを見回せば木々は倒れ、視界が開けた先に見える里は壊滅状態だった。自分よりも後方に転がって行った二人を助け起こし、ギルベルは里を睨みつける。


 さっきのユーリックの言葉で、香に何かが起こったことは間違いない。そしてこの状態だ。それはユーリックの言葉が証明されたことに他ならない。


 香に何が起こったのか!!


 自分が傍に付いていながら、香を奪われ、無体を働かれた。その結果がこの状況だ。高く生い茂っていた木々はなくなり、澄み切った空が頭上をを覆っている。たなびく雲は地上の状況などとかかわりなく、悠然と泳いで行く。


 転がった二人を助け起こし、里へと足を運ぶ。

 見つめる先は壊滅状態の建物群。瓦礫の下からはいでる人の姿が見える。


 あれだけの衝撃で倒壊した中、立ち上がるだけの体力が残っていることは幸運なのだろう。普通に考えれば下敷きとなって、瀕死の重傷を負っても不思議ではないのだ。事実、顔を現さない者たちを助け出すために瓦礫に群がり始める。


 そんな里人を尻目に、一番大きな瓦礫の山へと走り寄る。

 そこには、宙に浮かぶきらめく髪の美女と、無様に転がった数人の精霊族がいた。



「香! その姿はどうした!!」


 ギルベルの叫びに呆然としていたミツキが、その顔に驚愕を貼り付ける。

 香はまだ親の庇護が必要な子供であり、目の前に浮かぶような妙齢の女性ではない。自分が押さえつけ、組み敷くことに何の労力も必要としないほど非力な存在だったはずだ。


 ミツキにはギルベルが血迷っているとしか思えなかった。


 自分の大切なものを奪われたことで冷静な判断ができず、ようやく追いついた里で目に付いた人物にすがっているとしか見えなかったのだ。

 ふわりと浮かんだ女性に向かって必死にしゃべりかけるギルベルの姿は、ミツキには哀れにさえ思えた。


「"湖の精霊”、香くんはどうしました? 何があったか教えていただきたい!!」


 続くユーリックの叫びに、ミツキは、それではこれが香の守護なのかと驚きとともに女性を見る。ならばさっきのギルベルの言葉は、何を意味するのか……。いやな考えが頭をよぎる。



「香……、香はどこ? ……!! オマエ……、精霊族、」


 どこかはっきりしない口調でレイシェスは周りを見渡す。その様子にユーリックは眉をひそめた。以前見たときと違って彼女はどこかが変だった。

 何がどう変わったのか、はっきりとはわからないがいい変化とは思えない。彼女の淡く輝いていたはずの衣には、すそから這い上がるような黒い模様が浮かび上がっていた。



 金の瞳がミツキ達を突き刺す。憎悪に煌めき笑みを浮かべたレイシェスの視線は、尻餅をつき彼女を見上げている精霊族の三人に向けられていた。


 純粋なはずの“精霊”の瞳に浮かぶ負の感情。


 視線にさえも力が宿り、三人に重圧を加える。全身をくまなくさらけ出され、すべてを白日の下に暴かれる。

 自分の思考や、ほんのちょっとした気持ちの揺らぎさえも読み取られる。


 読み取られている(・・・・・・・・)ことがわかる事こそ、疑問に思わなければならないのに思考は働かない。

 目の前の圧倒的な存在に対して、生まれてはじめての畏怖というものをミツキは感じていた。


 目の前の存在には、精霊族すべてが束になってかかってやっと五分ごぶの勝負となるだろうか。一人で立ち向かえば捻り潰されることになる。これほど強大な力を持った“精霊”は初めてだった。

 今まで接したことのある“精霊”は、みなミツキと同程度の力しか持っていなかった。当代一とも、次代の族長とも言われるミツキにとって、“精霊”は恐れるものではなく利用するものとなっていったのだ。だがこの“精霊”はミツキを道端の石ころ程度にしか認識していないだろう。それほど力に差があるのだ。


「レイシェス!!」


 一向にはっきりとしないレイシェスに、ユーリックは以前香が口にしていた“精霊”の名を呼ぶ。ミツキたちに向けられている厳しい視線がくると思いきや、存外やわらかい見知った視線だった。


「ユーリック・アルバ……、オマエがどうしてここにいる? ここは王都ではない」


 レイシェスの疑問にどう答えるべきか、ギルベルと顔を見合わせる。

 正直に香を探していると言えばいいのだろうか? しかし“精霊”も香を探しているのではないのか。


 言葉に詰まったのはほんの数瞬。しかしレイシェスの機嫌を損ねるには十分な時間だった。


「ユーリック・アルバ! オマエが香を隠したのか!!」


 厳しい視線にさらされ、二重写しに見えるその姿を、ただ、見返すことしかできなかった。口を開いても、言葉さえもがレイシェスの強大な魔素に押しつぶされ音にならない。


「香、香!! 香をどこに隠した!!」


 レイシェスの感情をあらわす様に大気が渦を巻き、土が巻き上げられる。彼女の意思を表すかのようにその髪も風をはらみ、逆立っていく。


 そして、レイシェスの裳裾は闇へと染まっていった。



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