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08 もしかして、初めて人と遭遇するのだろうか?

 王都ベルディアから離れること南西に650キロほど。王国西部最大の都市「アリ」がある。

 警備するのは、《大鷲》と呼ばれる王国第3師団。

 都市の側に併設されている砦は、アリの防護壁と一体化して一見すると城とも思える。その内部で一人の騎士が休暇願いを提出していた。


 騎士1年目のユーリック・アルバは13才で見習いとして砦に入り、去年念願の騎士となった。見習いの常として、雑務と仕事に追われ休みなどほとんど無い。実家に顔を出せる見習いは、ここアリ出身の者達だけだった。

 地方の町や村からやってくる見習いたちのために、晴れて騎士となり、満1年を過ぎたなら長期の休暇が与えられるのだ。


 ユーリックの出身はアリから西に150キロほどの場所にある。小さな町なうえ、農家の三男に生まれては将来はたかが知れている。良くて商家への奉公人。悪ければ穀潰しである。

 騎士見習いの試験に受かったことを幸いとし、アリの砦に入った。以来、5年ぶりに両親の顔を見ることとなる。

 休暇といえども単独行動は新米騎士には許されていない。騎士ギルベル・ザントと共に行くよう辞令書を受け取った。



 ギルベルは辞令書を眉を顰めて手に取った。一年を過ぎ早速休暇願いを出したこの後輩に恨みは無いが、詰まるところガキの子守である。嬉しいはずも無い。

 目的地であるペイデルは大きくはない町で、歓楽街などはない。せいぜいが町の住人を相手にした、飲み屋兼食堂がある程度だ。ギルベルの好きな綺麗なオネイサン(・・・・・)の大勢居る店は、20キロほど離れた隣町にしかない。



「よろしくお願いします、ザントさん」


 顰め面をどう思ったのか、顔を強張らせてユーリックは頭を下げた。

 ギルベルはユーリックにとっても苦手な相手である。生真面目な彼にとって、町で羽目をはずすギルベルは騎士として問題であると常々思っていた。

 しかし、これとそれとは別問題だ。命令違反は、罰則の対象となる。どんなに嫌がったとしても一緒に来てもらうしかない。


「辞令だからな、出発はいつだ?」


「慣例により、明後日から二十日間の休暇を頂きました。町までは急げば馬で一日ですが、まだ自分の馬は決まっていません。なので、徒歩での旅になると思います。三日ほどで到着となります。」


「馬か…、俺は自分のを連れて行くぞ。足は無いよりあった方がいいからな。緊急事態が無いとも限らん」


 口ではそう言いながらも、足が無ければ隣町へ行くのも大変だと言うのが本音だ。ギルベル自身はこの一年目休暇とでも言う里帰りをしていない。実家にはすでに誰も残っていなかったからだ。父母はとうに無く遠方に嫁いだ姉と、同じく騎士となり北部都市サマルへ赴任している兄が居るだけだった。

 だから家族に会えるものは会えばいい。


 ただ、自分が巻き込まれなければ……。



 二日後の早朝、開門を知らせる一の鐘の音と共に、西門から騎馬と徒歩の二人組みが出発した。



 〜・〜・〜・〜



 香は少しずつ確実に縮んでゆく自分に恐怖を覚えながらも、それなりに楽しみを見つけていた。

 囀る小鳥の姿だとか、木々の木漏れ日の形だとか。終わりが見えたからこそ尚、輝いて見えるのかもしれない。


 今ではTシャツは膝丈になり、ズボンは枕代わりに寝床に置かれている。疑問も無く口にしていた果実か水に不思議な作用があったのかとも思うが、今更である。

 水面に映る香の姿は、10歳程度まで小さくなっていた。体が小さくなるにつれ、体重も減ったからか足の痛みが和らいできていた。この姿であれば、杖なしでも半日は歩ける。手首に至っては、違和感さえほとんど感じない。

 小さくなった事で良かったことだろうか。


 長く伸びた髪は腰を過ぎ、腿に達しようとしている。不思議なことにごわつく事も少なく絡まりもしていない。使っていたゴムは伸びきって様を成さなくなり、ハンカチを裂いた布で縛って団子にしている。


 相変わらず主な食事は果実で、板チョコは三分の一ほどを残してしまってある。


 心の中で父と義母に話しかけながら、夜毎の舞を一番の楽しみに日々を過ごす。日本でのことは、テレビの映像を見ているような非現実感を伴ってきていた。

 フィルターを通した感情は希薄になり、精神は子供へと帰ってゆくように思える。


 最近では一人遊びをし、一人歌を口ずさむ。


 多くは無いレパートリーの中から延々とサビの部分を歌い続ける。そんな日は舞姫の訪れが早いように感じた。

 最初に見た場所よりも香のそばへ近づいて舞っている。何度も繰り返される舞いを見よう見まねで覚えた香は、岸辺で一緒に舞うこともあった。


 でもやはり、一人は淋しい。せめて舞姫と話せれば良かったのかも知れない。誰とも知らぬ、果実の主の姿も見えない。

 側に誰かが居るからこそ、香の孤独は増していった。一人は平気だったはずなのに。


 最初に気力がなえ、座り込んでいりことが多くなり、動かないことで食欲が落ちた。食べる量が減ればエネルギー切れとなりさらに気力が減る。

 悪循環である。


 香は一日を寝床に凭れて過ごすことも多くなっていった。一日に小さな果実を一つ二つ齧り、目を瞑る。

 気持ちは動こうと思うのだが、えいやっ、とは動けない。今までのことをつらつら考えながら午睡にまどろんでいると、枝葉を掻き分け、枯葉を踏みしめる音がした。



 もしかして、初めて人と遭遇するのだろうか?

 それとも獣?

 今まで誰とも何とも会わなかったのに、今更どういうことだろう。


 警戒しながらそちらに目を向ける香。知らず手を握り締め、木の幹を回り込んで隠れた。


 靴は大きすぎて履いていない。裸足の足に幹のかけらや小枝が刺さる。痛みに顔を顰めながらも辺りを見回し、寝床の側のバックに目が留まった。


 自分が持ち込んだバックは見つからないほうがいいのではないだろうか?


 そう感じたとたん、ここ数日の気だるさも吹っ飛びバックを引っつかむと木々の中へと走りこんだ。


 後ろから何か聞こえた気がするが、かまわない。今はバックを隠さなくてはと焦りながら小走りに進む。

 少し先に木の洞があったと思い出し、思い切り駆け出す。尖った枝で脛を切ったが気にする余裕はない。後ろからガサガサと追ってくる音がする。


 待て、逃げるな、と言うような言葉が聞こえた気がするが、混乱している香にはわからない。


 小さくなった香は、木々の隙間を容易く潜り抜けドサッとバックを洞に放り込んだ。すぐさま踵を返し追っ手とは別方向へと走る。途中何度も転びかけ、体を汗と土にまみれながら逃げまわる。


 日が傾いてきた木立の中はなおいっそう暗さを増していく。いったん足が止まれば怪我の痛さでピクリとも動けなくなってしまった。


 足首の状態は良くなっていたとはいえ、完治したわけではない。Tシャツにパーカーを羽織り、パンツをはいただけの下半身は木や枝に擦られ、無残な姿をさらしている。裸足の足の裏はどれだけ傷ついているのか解らない。

 傷はジクジクと痛み、足首は熱を伴ってドクドクと脈打つ。


 痛みと混乱の中、目の端に人影を見つけたと同時に体は崩れ落ちた。



少しの間、香がお休みのため次回更新は08:00です

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