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37 「いろんな事、知りたい!!」

 フォルハが加わった食事は美味しく、そして楽しく過ぎていった。お肉のソテーと付け合せの野菜、フライと魚の素揚げ。酸味の利いたソースで頂くそれらは、香を笑顔にしていた。


 もぎゅもぎゅと頬張る香を見ようと食堂に居合わせた師団員達が、そろそろと居場所を変える。ごっくんと飲み込み、まわりを見る香にビクつきながらも移動していく。香に気づかれないよう、チラチラと視線を送り美味しさに紅く染まった頬を覗き見する。


「ごちそうさまでした!!」


 手を合わせ、みなの視線に気付き辺りを見回す。視線が合い笑い掛けられれば笑顔を返し、目を逸らされればまたかと思う。トレイを返し食堂を出る頃には、やはり自分は珍獣扱いなのかと思ってしまった。


「大丈夫、香くんが可愛いから何でも解決!!」


 ぽすっと頭に手を置きながらフォルハは言う。見上げればギルベルとユーリックも頷いていた。小さいから可愛いと思われているのかと香は不満顔だが、そんな顔さえもすれ違う団員の笑いを誘っている事には気付かない。

 保護者+一人が笑う中、香はふくれっ面で部屋に戻った。


 考えてみれば砦は男所帯で、女の子の姿を見ることはほとんどない。そんな中、自分がちょろちょろしていれば目立つし、小動物扱いされてもしょうがない。不本意ではあるが……。


「香、今日の仕事は終わったんだろう?おれ達はまた仕事だがお前はどうする?」


 そのどうするはこの部屋で過ごすのか、それとも出かけるのかって事なんでしょうか?なんて思いながらギルベルを見上げた。


「他の小姓さんたちは何してる?」


「この《大鷲》では始めての小姓だから、他は知らん」


「!!小姓さん、いないの?!」


「貴族子弟の多い《龍》や《獅子》には結構いるぞ」


「《龍》?《獅子》?」


「ああ、王城と王都の警備が《龍》と《獅子》だ。第1、第2師団だな」


「ここは南で第3?」


「いや、南西、西になる。南は第6の《隼》だ。…それで、どうする?」


 問われ思考が戻った香は、自分がこの世界はおろか、この国の事さえほとんど知らない事に気付いた。


「いろんな事、知りたい!!」


 目を丸くする三人。


「この国の事や、世界の事、自分の知らない事知りたい!!」


 両手を拳にし、高らかに叫んだ香にちょっと戸惑いの視線が突き刺さる。わたわたと気持ちでは焦りながら手を胸の前で組み、香は上目使いに三人を見上げる。


「だめ?」


「!!!」


 ノックアウトである……。


「ぃ、いや、ダメじゃ…ないが…、誰に教わる?」


 何とか言葉を発したギルベル。何とか冷静を装いながら、脳内では教師の務まりそうな者達をリストアップしていた。


「今すぐは無理だから、誰か見繕う。それでいいか?」


 こくこくと首を振る香の頭を苦笑気味になでる。それを見ていたフォルハは厄介事の予感に目を逸らした。


「香ちゃん、どんな事が知りたいの?僕で良ければ、夜、教えてあげるけど」


「えっとね、いろんなこと全部!ボク、何にも知らないから、この町に学校とかある?」


「ガッコウ?」


「子供や、もしかしたら大人も集まっていろんな事教えて貰う所」


 聞いてみれば王都に貴族子弟が集まる騎士学校?しかないらしい。他は職業の訓練校のようなものが街によってさまざまあるらしい。

 その土地の特産だとか、産業に準じた訓練校だ。基本そこの領主や執政官の私費でまかなわれるため、規模はそれほど大きくないし、数も少ない。

 ここアリには特化した地場産業はなく、ボーロックの森が近い事から林業と森で取れる動植物の加工などが主だという。だからほぼ実践教育になり、訓練校としての形はないと言う。


 読み、書き、計算はどうしてると聞けば、地域の教団支部と、孤児達の保護施設で少し教えているらしい。ほとんどの子供は家族から教えてもらう。ここでも新入団者には、実力を見るために試験をした後、団員として支障がない程度に教えているという。


「今もしてる?」


「ああ、三階の奥が確かそうだったと思うが、今期の入団者はなかなか手強いらしい」


「香ちゃん、興味があるなら途中まで一緒に行こうか?」


 フォルハはどうなるとばかりに彼を見れば、今日は香に付き合うことになっているらしい。一緒に勉強部屋へと行くというその顔が曇っていた。首を傾げればギルベルが、フォルハはしごくられたから教官が苦手なんだと教えてくれた。


 少し席を外れたギルベルは、その手に板を持って現れた。砂盤さばんと呼ばれるその板は、少しへこんだ板の表面に薄く砂が敷き詰められている。どんな魔術かこぼれる事はなく、指でなぞれば簡単に文字や絵が書ける。掌で均せば何度も繰り返し書ける、黒板のような物だろうか。

 紙がまだ貴重なアウラでは、勉強や反復学習のために紙を使い捨てる事はしない。代わりに砂盤がノート代わりだけれど、何枚も持つ事はないから、基本は記憶に頼る事になる。

 文字が読めれば書物と言う手もあるが、本自体が貴重品であるため、誰もが手に出来るわけではない。砦では書庫幾つかあり、階級によって分けられている。誰でも入れる書庫には四則計算の教本や、一般向けの歴史書などがあるらしい。


 ユーリックからの説明はフォルハに引き継がれ、話題の勉強部屋へと着いた。いくつもある部屋に分かれ、入団三年以内の人たちが団規や兵則、武器や防具の扱い方、緊急時の対応の仕方などを学ぶらしい。試験の成績が悪かったものは、読み書き計算の基本から学ぶこともある。香が案内されたのはそんな基本組みの部屋らしい。



「失礼します。見学したいのですが…よろしいでしょうか、ユーベル教官」


「ほぉ、誰かと思えばフォルハ・ライト上等兵ではありませんか、また此処で学び直しに来たのですか?」


「ぃ、いえ!香くんが勉強してみたいと…、ですから見学に…ぇと、よろしいでしょうか?」


「香くんと言うのは、ザント中隊長下の子供のことでしたか、フォルハ君も一緒であればよろしいですよ」


 ビクリと体を強張らせながら香と共に部屋へと入るフォルハだった。



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