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34 昼食が終われば、いよいよ外出である。

 ユーリックの手を借りながら、一つ一つ荷物を片付けていく。高い棚は手が届かないからユーリックの私物が置かれた。代わりにユーリック側の低い棚を香が使うことになった。

 扉の脇に備え付けられたクローゼットの中は服で溢れてしまっている。子供服のためそれほどの圧迫感はないのが救いだろうか。ギルベルが何度か往復し、持ち込んだ荷物が片付く頃、香のお腹がその存在を主張した。

 集中していたためか部屋の片づけが終わっても、まだお昼時だったのだ。


「がんばったな、これなら飯の後、少し街へ出られる」


「!!!、ありがとう、もしかして急いでくれたの?!」


「まあ、僕たちも香の初めての探検に付き合いたかったしね」


 食堂へと進みながらユーリックは言った。手を繋ぎゆっくりと歩くユーリックの横で、香の足は高速回転している。


 アウラで会った人々は皆体のつくりが違う。手足は長く胴は短い。彫が深く顔は小作りだ。中世が舞台のファンタジー映画の中へと入ってしまったように感じる。

 意識は未だ日本人の香としては、場違いに思えて仕方がない。自分の色彩が変わったことはわかるが、鏡でも見なければ実感はない。長い髪が目に入ればまた違うかもしれないが、ターバンの中ではほとんど見ることはない。違和感としては以前よりも白くなったかも?と感じる肌だけだった。



 昼食が終われば、いよいよ外出である。


 いったん部屋で支度をし、大きめのマントを羽織って門へと向かった。守備に当たっていた団員はすっぽりとマントで隠された香を見て、てるてる坊主を知ったとか知らないとか……。


 大きな門を潜れば、サクベル王国西部最大の都市アリである。西部全体を統括する執政官と、その安全をつかさどる《大鷲》第3師団の赴任地でもある。

 市街地は四方に分かれ、主要路は十字にXを加えた形に交わっていた。それぞれの街に市が立ち、多くの人が行きかう。今回は時間がないから砦のある南部を少しだけ歩く事となった。


 大通りに添って大きな店が並び、脇に入ればこじんまりとした商店が並ぶ。城塞都市でもあるアリの壁に行くほど治安は悪くなるらしい。決して手を離さないギルベルとユーリックは、大通りから外れる事はするなと香に厳命した。


 大店の店先には扱う商品のマーク?を掲げた看板がある。一目でわかるのは鋏と針だったり、剣と槍、鎧と兜などである。火にあぶられている葉っぱとか、石らしきものもある。扱う物はなんとなく想像できるが、確信はもてなかった。


「ザントさん、ご無沙汰ね。またいらして下さいな」


「あぁ、そのうちな」


 きょろきょろ見回していると、綺麗に髪を結い上げえた妖艶な女性がギルベルへと話しかけていた。ユーリックは少しあっちを見てようかと、香を連れ出す。

 気になりながらも指差された先に多くの露天を見つけ思わず早足で向かった。


 少し曲がった木を支柱にし布を張った簡易の店は、店主の前に広げられた布の上に品が並べられている。木彫りの腕輪だったり、食器だったり、最初の店は木彫り細工の店らしく可愛い木の小鳥もいた。


 隣は綺麗な小石が並んでいる。なんでも加工する前の宝石らしく、手を加えると本当に小さくなってしまうから、こうして手付かずのまま出しているんだとか。

 香は身を乗り出して石に見入っていた。綺麗なガラス球とも取れる小石は綺麗で、よく見ようとフードを脱いでしまった。目深に被ったフードは視界を遮っていたのだ。

 店主は白い肌と蜂蜜色の瞳を目にし、驚きをあらわにする。そして商魂逞しく、瞳と似た色の石をユーリックへと薦めた。


「お兄さん、これなんかお嬢ちゃんの目とそっくりだよ。上手く細工して持たせてあげれば守護にもなるよ。一つどうだい?」


 香のフードを直しながらユーリックは石を見る。琥珀に近い澄んだ黄色は、確かに香の瞳に似ていた。自分の持つ色彩と同じ色の石は守護石になると言われているから、心惹かれるものがある。しかし香に送るのであれば、もう少し大きい石がいいと思うユーリックだった。


「それをもらおう」


 はっと振り返れば、いつの間にかギルベルが後ろから覗き込んでいた。ユーリックを見ながら八百ベントですと返す店主。値切ることなく小銀貨(1000ベント)を渡し釣りを受け取るギルベル。

 そのやり取りを香は下から見上げていた。もちろんフードを半分以上持ち上げて……。


「香ちゃん気に入ったのはある?」


「きれいだけど、見てるだけで良い。ありがとう」


 香は断ったが、先ほどまで見入っていた石は知っている。ユーリックはこれで良い?と透き通った碧の石を手に取った。あっと思った香に口を開かせる間を与えず会計を済ましてしまう。


「上手く紐でくるんで首に下げられるようにしてあげる」


 嬉しそうなユーリックを見れば香に断るすべはなく、躊躇いながら頷いた。


「気になった物や欲しい物があったら言ってよね、砦の騎士は結構実入りがいいんだから」


「でも、いっつも頼るのはイヤだ……」


 ポツリと呟けば、ギルベルとユーリックは顔を見合わせる。


 香のなけなしのプライドは、二人に頼りきることを良しとしていない。これまで頼り切っていたからこそ、少しでも返したいと思う。今日だって休みを貰って香に付き合ってくれているのだ。それを当然と思うことはしたくないし、そう思ってしまえば離れられなくなるだろう。

 いずれ二人は結婚し、可愛いお嫁さんを貰うだろう。婿候補ナンバーワンのユーリックは秒読みではなかろうか。

 その時自分はどうなるのか、砦に置いてもらえるのか、街に住むことになるのだろうか?

 一度不安になれば止めどなく溢れてきてしまう。この感情はただの依存だけれど、今の自分にとって二人の傍ほど大切な場所はない。


 沈み込んでしまった香に目線のあわせ、しゃがんだギルベルが頭をなでる。


「香がよければ俺の小姓として、身の回りの世話をしてくれないか?中隊長になれば個人で雇う事が可能になる。今まではその必要性は感じなかったが、香がそばにいる意味づけになればいいと思う。もちろん給金も出るし香がイヤなら断っても良い」


 香を覗き込みどうする?と聞いてくる。


「ボクは傍にいてもいいの?じゃまじゃない?何にも出来ないからお荷物だよ!!」


「わかってる。香ができるだけ周りに迷惑をかけないように振舞っている事も、突然知らない場所に来て戸惑っている事も、俺達二人以外には結構警戒している事も…」


 香を抱き上げ、フードの陰に隠れた瞳を見つめながらギルベルは言う。隣ではユーリックが、そんな事心配しなくでも大丈夫だと笑っていた。



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