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31 子供のオカマってどうなんだろう……。

 オレンジ色に照らされた部屋の中、ギルベルとユーリックは各々の部屋から持ち出した掛布にくるまり、ベッドに眠る香を見る。


 時折り寝返りをうつ香は、安らかな眠りの中にいる。ムニャムニャと口を動かし、暑かったのか掛布を跳ね除ける。涼しくなった事に満足し、大の字になってにやける様子はとても微笑ましく、しかし冷えを心配するユーリックが掛け直せばとんがる口が可愛かった。


 寝ながらも変わる表情に香の無事を実感し、明日からのごたごたも何とか乗り切る活力を貰った。昨晩までは眠る事が躊躇われたが、今夜は瞼を閉じる事に躊躇いはなかった。




 なにやら聞こえる話し声で、ゆっくりと香は意識を目覚めさせていった。ぼんやりと音の羅列を耳にしながら薄目を開けていく。見慣れた部屋の中、ギルベルとユーリック、そして何時かのフォルハがいた。


「ふあ〜っ、おはようございます」


 欠伸をしながらの挨拶にみなが振り返る。その顔に少しの驚きを見て、今の言葉は日本語だったと気がついた。


「香ちゃん!!おはよう、体の具合はどう?変な感じや痛い所とかない?」


 ユーリックが手を取り抱き起こしながら尋ねれば、ギルベルはクッションをバフンッといわせて膨らませ、香の背中にあてがった。ちなみにフォルハは扉脇で待機である。


「香、飯は食えそうか?厨房に言って、腹に優しい物を頼んでこようと思うんだが…どうだ?」


「えっと、だいじょぶ、たべる、ます?」


 自分はどうやってここアウラの言葉を喋っていたのだろう?舌が動かず、まるで初めて会った時のように発音がままならない。

 発音を聞き取ろうとしても、副音声だったはずの言葉は日本語にしか聞こえず香はあせった。そして混乱した。


「あ〜っ、もう!お腹は空いてる気がするけど、食べてみなきゃわかんない!!」


 顔にはてなを浮かべた二人になんと続けて良いのか解らず、香は日本語でまくし立てた。


「そうか、じゃあ頼んでおくとしよう、フォルハそういうことだ、頼んだぞ!!」


「!!了解しました。行ってきます」


 部下とはいえフォルハを顎で使うギルベルに眉を顰める香。それを見たユーリックは香の頭を撫で、額にチュッと小さなキスを落とした。

 顔に面白いと書き、キラキラと目を輝かせながら香を除き見る。ニヤリと意地悪な笑みを浮かべてユーリックは言った。


「香ちゃん、アウラの言葉、普通に喋れてるよ」


「!!!」


「もしかして、私の言ってる事わかる…の?」


「ああ、解るな。きっかけは解らんが」


「多分、魔素の循環と“精霊”が原因だと思いますよ、ギルさん」


 クスクス笑いながらユーリックは続ける。


 元から言葉のわかる香が落ち人として特異だった事。出会った時にはすでに“精霊の子”であった事。“精霊”ならば言葉を操り、人と意思の疎通が可能であるという事。


「本来なら普通に話せていたのかも知れませんね。しかし何らかの要因で、香ちゃんの言葉がわからないという片手落ちになっていたのだと思います。」


「で、魔素の引き出しが上手くいき、循環異常が解消されたから喋れるようになったという事か」



 香は何か難しい話はいまいち理解不能だが、自分の言葉が相手に伝わるらしい事は理解した。香が普通に喋っても大丈夫と言う事は、一応精神女の子のまま喋るとオカマさん(・・・・・)まっしぐらなのではないかと顔が青くなった。

 もともと女の子らしい喋りをしていたわけではないが、男言葉を使っていたわけでもない。だが、多少ぶっきらぼうでも、女言葉の範疇に入っていたのではにだろうか?


 その自分の言葉をそのまま口にすれば違和感満載?


 子供のオカマってどうなんだろう……。



「香、どうした?ユーリ、医務長だ!!」


 バタンッと鳴った音で心配そうなギルベルに気がついた。バタバタと足音がしたと思えば、ユーリックと医務長、そしてフォルハが飛び込んでくる。


「香君、また具合が悪そうなんだって、食事の後と思っていたが、先に診察しようか?」


 どう応えようかと瞳を揺らせばフォルハの持っているトレイに目がいった。深めのスープ皿とナプキンの上のパン。香ばしいパンの香りと食欲をそそるスープの匂いに香は釘付けとなった。


「子供はそうでなくっちゃな、お腹が空いてしょんぼりしてたんだな」


 グリグリと頭を撫でながら医務長は言い、子供を空腹のままにするなんて悪い大人だなと、二人をからかう。今、取りに行かせていたと反論するギルベルに、早くセッティングしろと急かした。

 自分はゆっくりと香を抱き上げ、少し我慢だぞといいながら魔素を流す。不快感に強張り引きつる香をさっと診た。


「異常は見当たらない。良かったな香君。これでもう手足の痛みとはおさらばだな」


 確かに自分は壁をこじ開け壊した覚えがあるが、それで本当に直ったのかは実感できない。

 もともと事故で砕けた骨を人工骨で補っていたのだ。時が経てば自前の骨と融合すると説明されていたが、それは数年単位の事で、まだまだ先のはずだ。痛めた神経や筋は完全には直らないとも言われている。魔素が通ったからといって、その全てか解決するとは思えなかった。

 しかし痛みの頻度や度合いが軽減されるだけでもありがたい。そう思って香はニッコリと医務長に笑いかけた。


「よし、えらいぞ、今度は我慢できたな。前回よりも不快感は少なかったろう?これからだんだん人の魔素への耐性が出来てくる。副師団長から魔素の扱いを学べば、砦の外で遊ぶ事だってできるようになる」


「外!!外にでれる?!」


 サリナ達から外の様子を聞いてはいたが、自分が出ることは遠く先になると思っていた。それが今回の事で前倒しされるのであれば、こんなに嬉しい事はない。

 砦の中も楽しいが、香にとっては探検するにしても、出来るだけみなの邪魔をしないように、気をつけながらだった。動き回れる範囲はそう広くはないし、最近は目新しい発見も無くなっていたのだ。

 声を掛けてくれる団員達には申し訳ないが、喋れる言葉が幼稚園児程度では、たいした返事が出来るわけはなく、思っている事の大半が伝わらず落ち込む事が多かった。 


 医務長は香の言葉におやっと目を開きユーリックを見る。ギルベルとユーリックが頷けばギュッと抱きしめられチュッと頬にキスされた。

 世に言う孫バカおじいちゃんとその孫のように思えて香は面映く感じた。背中に冷気が叩き付けられた気がするが、気のせいだと思うことにする。


 その後医務長の膝の上での朝食が終わり、右手足の様子を見た後、医務長は去っていった。


「あの爺さん、何時かぶん殴っちまいそうだ……」


「同感です」



 香とフォルハは、二人の言葉を聞かなかった事にした。



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