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03 この場所で、生き延びることを、心に決めた!!

 昨日と変わらず水面に反射した光が辺りを照らし出している。キラキラと降り注ぐ光の中、香はのっそりと木の実のある石へと近づいた。


 もしかしたら此処の事を聞けるかもしれない!!


 どうして此処に居るのかが解るかも知れない!!


 引き篭もっていた香にとって、一人であることにはなんらマイナスではない。一夜が明けて、それでも昨日と変わらぬ景色が広がっていることに心乱されながらも、自分の状況を理解したいと思う。


 香だって物のわからぬ幼子ではない。

 一人残されたからといって、絶望に染まっていることが良くないのも承知している。

 生前の父や義母の性格からすれば、香の無事を喜びこそすれ恨みに思うことは無い。ましてや香の落ち込みようを知ったなら、あの世から心配して化けて出てくるかもしれない。



 むしろそれを待っていた。



 退院後の引き篭もりは半分は父の身内を避けてのことだが、もう半分は幽霊でもいいから会いたかったからだ。


 自分が日々閉じこもっていれば、いつか様子を見に来てくれるんじゃないかと、子供の我が儘のように足踏みをして待っていた。

 冷静な自分はこれでは悲しませるだけだと知っている。

 しかし感情は泣き叫んで一人はいやだとわめき散らす。


 それでもお腹は空くし、疲れれば眠くなる。トイレにも行くしお風呂にも入る。


 日常がゆっくりと心を癒していく。


 完結した部屋の中だけの生活は心地良かった。時折買い物や通院で外出する以外は部屋に居た。



 でも此処は自分の知っている場所ではない。事故で壊れてからはスマホも持たなくなった。見知らぬ土地に来たことは、「もうあきらめて前を向け」という父からのメッセージに思えた。


後ろだけを向いていたら父にパシン!と叩かれるだろう。実際家に居たときも何かにつけ連れ廻し、発破をかけられてきた。


「人生前向きなのは大事だけれど、それだけじゃあ疲れちゃうだろ!?たまには後ろを向いてもいいけど、後ろだけじゃあ勿体無いよな!だから今は前を向け、後ろは俺と美弥さんに任せろ」


 ニカリ、と笑って頭をくしゃくしゃにされた。


 ふと思い出す父や義母(美弥)にやはり気持ちは沈みこむが、一生懸命に奮い立たせた。

 もしこのまま死んだら二人にあわせる顔が無い。何よりも失望されるようなことはしたくない。もし軽蔑されたら自分が許せなくなるだろう。




 この場所で、生き延びることを、心に決めた!!




 目標が決まれば、行動は早いほうがいい。果実を前にして、再度周囲を見回す。

 この状況を説明してくれる可能性のある者は、これらを集めた人物しか居ない。しかし香が目覚めてから1時間ほどは経っているだろう。一向に戻ってこない人物を当てにするのもどうだろうか。


 もう少し待ってみて、見当たらなければ、周囲を探索することにしよう。


 その前に確かバックの中に板チョコがあったはず…。

 少し前を向いてみれば、空腹に眉をしかめバックの中を探った。


 今持っている物は、板チョコ、ウィンドブレーカー、ハンドタオルにハンカチ、テッシュ。財布の中には診察券とポイントカード、少しの現金。


 チョコをひとくち齧って仕舞い込む。

 ゆっくりと口の中で溶かしながら足をさすった。




 太陽が頭上を過ぎる頃、香は立ち上がり木立へと向かう。人影は見えず、待つことに飽きたのと、用を足すためだった。

 日差しが暖かくてもお尻の下は石である。徐々にお腹が冷えてきたらしい。

 まさか太陽の元、おおっぴらにお尻を出すことは憚られ木陰を目指すことになった。


 ティッシュを取り出し、これが無くなったら木の葉なのかと不安になる。

 虫を気にしながら薄暗い木陰に入り下着を下ろした。


 ………。


「はあぁぁぁ〜?!」


 なぜか窮屈になっていた下着を下げたとたん、ポロン!、っと見慣れない物が目に入った。

 恐る恐る覗き込めば大きさの基準はわからないが、いわゆる男性器である。


 これは触っていいものなのだろうか? 自分の一部なのだから、触っていけないはずは無いと思うのだが、できるならば触りたくない。


 なんというか…、


  可愛くない!


  なまっちろい!!


  キモチワルイ!!!



 慌てて胸に手をやれば、こちらはペチャリとブラのカップが潰れてしまった。

 遠目には男にしか見えないと言われていた香だが、一応慎ましやかな胸があったはず。自分の記憶が間違っているのだろうか?


 胸は無く、股間は有る。


 あまりのショックに尿意はどこかに行ってしまった。第一この状態でどう致したら良いのかわからない。ブツを支えてするということは知っているが、その後はわからない。

 少ないティッシュを使って拭くのだろうか? なくなったら木の葉? 拭くためには思いっきり持ち上げるのか?

 男子トイレにティッシュは無かったような……。だとすれば、自然乾燥? もしかして振り回す?



 どっちも嫌過ぎる……。 



 何とか窮屈ながらも下着に収まっていただいた後、襟元から中を覗き込む。

 見慣れたブラの中身はヤッパリ無かった。

 これではヘンタイさんの仲間入り??

 上も下もなんか男性だよね?

 でもって下着は女性用!!


 生きるための努力をしようとしたら、最初から難問発生とはどうすればいいのだろうか?

 自分の生理現象への対処がわからない……。


「父さん、やっぱりそっちに行っても良い?」


 思わず弱音を吐いてしまったとしても、誰も香を叱れまい。



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