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26 日々、何事もなく?過ぎて行く。

 ギルベルとユーリックが香から何とか情報を聞き出し、納得する事が出来た時には夕闇が迫っていた。まさか下働きの通路から西棟に行ったとは思わず、二人にとってサリナは要注意人物となった。


 ギルベルとユーリックに説明するため頭をひねり、ときにジェスチャーをまじえた香は、説明が終わった後、気力も体力も根こそぎどこかへ飛んでいってしまっていた。疲れきり肩を落とす香を見ても、原因がわかっているため慌てる事のない二人は、笑いながら香を夕飯に誘った。


 香は両手をそれぞれと繋ぎ、まるで宇宙人の連行写真のようだと思いながら食堂へと向かう。道すがら、何人かの師団員がギルベルに話しかけてきた。

 その内容は今日サリナたちから聞いた情報と照らし合わせて初めて意味を持った。


「ギル、今日行くか?」


「いや、当分行くつもりはない」


「泣いてるぜ」


「かまわん、しばらく任せた」


 初めは何の話かと思っていたが、何のことはない、いわゆる夜のお誘いなのだろう。もしかしたら馴染みの女の人もいるのかもしれない。

 そう思えば何かがチクリとしたが、自分のせいでギルベルに迷惑をかけるのは頂けない。自分は何とかするから大丈夫とはどう伝えればいいのだろう……。


 話しかけられるのはギルベルばかりで、ユーリックはすまして歩いていく。その横顔はお伽噺の王子様のようで香は思わず見とれてしまう。金髪青目の王子様とはいかないが、赤茶の髪に碧の目はとてもおいしそうで綺麗でスッと通った鼻筋や、長いまつ毛、桜色の唇とあいまって王子様度は満点だった。

 視線に気付いたのか香と目を合わせニコリと笑うその顔は、向こうの世界の某アイドル達も顔負けで……、思わず伏せた顔は真っ赤に染まっていた。


 食堂に着いた三人は定位置と化している席に着き、腹を満たしはじめた。ふっくらとしたパンにチキンのソテー、ポテトサラダや白身魚のマリネ。

 食事を口に運びながら、香は少し疑問に思う。いつもならば何かしら話題が上り、楽しげに進む食事なのだが今日は沈黙が支配していた。そういえばギルベルがいつも話題を振っていたのだったかと気付いたのは、皿がほとんど空になってからだった。


 釈然としないながらも部屋に戻り、お風呂の用意をしてまた部屋を出る。当たり前のように待っている二人はこんな子供に時間をかけるより、綺麗なお姉さんの傍の方がいいんじゃないのと香は思う。

 下女さんたち情報では、ギルベルはともかく、ユーリックは優良物件らしいから、人生を謳歌して欲しいと思った。いわゆるハーレムもありな外見だし……。


 香としては、もしこれから先、人生に行き詰ったときの言い訳に自分(香)を使わないで欲しいと思うのだ。しかし、そんな女々しい事はしないと思うくらいには、香は二人を信頼していた。



 日々、何事もなく?過ぎて行く。

 時々避けきれずに下女さんたちの控え室へと連行され、毎日の散歩で体力をつけた。食事には遅れないように気をつけ、太陽の高さでおおよその時間を知る事が出来るようになった。言葉も少しずつ増えていき、今では幼稚園児くらいには話せるだろうか。発音は置いてけぼりだが……。


 お気に入りの場所も出来た。遠くに練兵場がみえる大きな木陰である。中央棟のすぐ傍にあるその木は、大人四人ほどでやっとか抱えられる位の太さがある。

 大きな幹に太い枝が張り、香が幼い頃やってみたかった木登りが容易に出来る。デコボコとした幹は足を引っ掛けやすく、大きく張り出した枝は香のお尻が乗っても余っていた。涼しい風が通る三番目の枝まで登って腰を落ち着け、訓練中の師団員たちを遠くに見ながら少しうとうとするのが、このところの香の日課だった。


 さわさわと揺れる木の葉は、みるものが見れば他の木よりも緑が濃い。香からあふれ出る魔素を受け生命力が零れていた。香お気に入りの枝の葉を毎日お茶にでも浮かべて飲んだなら、その人物は若返りの秘薬を手に入れたとでも噂される事になるかもしれない。




「ひっ!!」


 そろそろお昼だと思い目を開けば、一つ下の枝に蛇がいた。香の手首ほどの太さの蛇は、ガラス球のような目で香を見上げ、先の割れた舌をシュルシュルと出し入れしていた。

 黒と黄色のまだらはいかにも毒蛇のようで香は動く事が出来ない。しかし蛇の横を通らなければ下に降りることは不可能だった。


 何とか追い払う方法はないかと周りを見回しても何も無い。枝の上に小石などあるはずも無い。このままではお昼に遅れ、二人のお説教が待っている。それは回避したいと思うが動けば飛び掛ってきそうで、体は強張ってしまっていた。


 風が吹きザァッと葉擦れの音がする。それに驚いたのか、蛇が香のほうへと移動した。思わず後退った香の手は空をかく。


「ヒッ!!え?!ぅ、うあぁああ〜」


 バキバキッ、ドサッ!!




「!!!!」


 遠くで聞こえた声と音に団員達は目を向け、そして香が落ちるのを見た。


「何か落ちたぞ!!」


「人じゃなかったか?!ともかく治療士、呼んで来い!!」


「おい!香くんだ!!香くんが落ちた!!!」


「何!!ザントさんたちは今外回りだぞ!!他にあの子が慣れているのは誰だ?」 


 皆叫びながら香の元へと急ぐ。着いてみれば香は枝で切ったのであろう多くの擦り傷を負っていた。すばやく呼吸を確認し、声を掛けるが返事は無い。頭部の確認のためにターバンをほどき、初めて多くの者が香の銀髪を目にした。


「誰が落ちたって?!」


 団員に半ば引き摺られるように連れて来られた治療士は、香をみて叫ぶ。


「医務長に連絡!!治療室へ運ぶ、何か戸板はあるか!!」


 指示を出しながら手早く香の状態を診て行く。頭部が無傷な事を確認し、顔の傷を診てガーゼを当て、手足の確認をしていく。届いた板の上にそうっと香を乗せ、上からマントで固定した。


 治療室ではすでに医務長が待機していた。他の治療士もそろっている。意識のない香を前にして、皆が息を呑む。

 ベッドに移された香は長い銀髪を煌めかせ、白い頬と赤い傷が倒錯的な美をかもし出していた。


「今は見惚れるときじゃない!!ファナンは服を脱がせろ!ティーユ、薬と湯!レイギ、手伝え!!団員は邪魔だ、誰か師団長に連絡したのち、解散しろ!!」


 医務長の指示と共に一斉に動き出す。


 まず手足の骨を確認し、背中を見る。擦過傷意外はこれといって目立った怪我はなかった。しかし打ち付けられた背は赤く腫れ始めており、全身が痛む事は避けられそうにない。湯で体を清めた後、湿布薬を布に取り貼り付けて行く。擦過傷にも軟膏を塗り包帯を巻いていった。


 一通りの治療が終わっても香は目覚めない。香の白い顔からは血の気がなくなっていた。



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