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番外 受難のフォルハ

 入団六年目になるフォルハ・ライトは上等兵として、上と下からの板挟みにあっていた。直属の上司はキスベル・マーニュ小隊長であるが、その上司に当たるギルベル・ザント中隊長が問題だった。


 初年兵を「何事も経験だ」の言葉の元に、夜の町へと連れ出すのだ。近隣から入団してくる初年兵は、入団試験を受け入ってくる騎士・士官候補と違い、せいぜい上等兵に成れれば御の字と思う者達だった。

 だから騎士であり、中隊長でもあるギルベル・ザントに誘われれば、何をおいてもご一緒しないわけにはいかない。そして連れ出された初年兵は酒と白粉のニオイを振りまきながら帰って来るのである。

 それの何が問題かといえば、その初年兵達は翌日、使いものにならないのである。なれない夜の遊びに羽目を外すものが多く、訓練を監督するフォルハ達はギルベルに直訴する事も度々だった。


「ザント中隊長!!これ以上初年兵達に悪い遊びを教えるのは控えてださい。あいつらはまだまだ酒や女に飲まれる年です。自制が効くまで待って下さい」


「待ってたって経験しなきゃダメなまんまだ。フォルハも一緒にどうだ?前はよく行ったじゃないか」


「まだ15、6の子供に何言ってんだ、おまえは!!」


 思わず以前の口調で返したフォルハは、しまったと口をゆがめる。

 にやりと笑うギルベルは目つきの鋭さもあいまって、悪党にしか見えなかった。


「やっぱりフォルハはその口調が合ってるぜ、変に畏まられてもむず痒いだけだからな。お前がそのまんまならお前ん所からは誘わんよ」


 どうする?とばかりに肩を抱き覗き込んでくる。フォルハとしても元同僚であるギルベルは気心の知れた気安い相手なのだが、なんと言っても今は中隊長と上等兵である。自分から団規を乱すようなことはしたくなかった。ギルベルはそんなフォルハの気持ちを知っているからこそ、からかってくる。


 ギルベルは師団員たちの憧れを具現しているとこを承知で奔放に振舞う。自分に許されるであろう範囲を的確に判断し、その中で遊びまくる。

 恵まれた体躯、剣の腕、智謀、魔素に関しては余り伸びなかったらしいが、それでも騎士としての最低限の扱いは出来るのだ。将来はネイスバルト・レイン師団長の後を継ぐかもしれないとまで噂されている。


 自分でさえ気安く絡まれるこの関係が、結構嬉しく感じているのだ。そんな相手と親しく出来るとあっては、初年兵達に誘いを断れというのは無理だった。中にはギルベルのその態度こそが問題とばかりに、彼が近付けば下がる者もいる。そんな相手はしっかりと見切り、手を出さないのもまた人気がある一因だろう。



 そんな一歩下がる新米騎士に一年目休暇の監督官として着いて行くことになったギルベルは、フォルハに自分の不幸をこれでもかと嘆いたのだ。

 しかし、休暇を消化しきらずとんぼ返りしてきた二人の様子は一変していた。硬さの抜けなかったユーリック・アルバはギルベルの軽口にも付き合い、ギルベルは夜の遊びを一切しなくなっていた。


 そんな二人に頭をひねったのはフォルハも同じで……。その原因と見られるのが可愛い子供となれば、二人はいけない趣味に目覚めたのかと驚愕が走り、子供の愛らしさが知れ渡るにつれ団員皆が悶えるに至った。


 香と言うその子供の甘えるしぐさもなんとも言えず、二人の顔は見ていられないほど緩んでいる。たまにすれ違うギルベルに皆が夜の誘いをかけるのだが、全て断っていた。フォルハに対しては、夜、部屋に現れ、香君の可愛さと自分の気持ちへの対処の仕方を相談して行く。

 初年兵への被害はなくなったが、フォルハの寝不足が加わった。



 そんなある日、香君の個人行動が許可されたが、迷子になりギルベル達との約束の時間に遅れるから彼に付いていてくれないかと言う。十歳にも満たない子供が砦の中で迷うなと言う方が無理だろう。

 しかし、香君にも一人になりたい時だってあると思うし、自分は自分で任務を放り出すわけには行かないと断れば、マーニュ小隊長には話は通っているらしい。結局はギルベルに振り回されるのかと諦めかけたその時、医務長からの待ったが出て事なきを得た。


 その後、時々遅くなる香君を探す要員にかり出される事があったが、概ね平和な日々を送っていた。昼食を終え、一度部屋に戻り近道として西棟を通れば香君が所在無げに立っていた。

 声をかけ、そういえばギルベルたちはイラついていたと思い出す。香君がいない事には気付かなかったが、今ここにいるということは今日の昼食には行っていないのだろう。


 ゆっくりと歩いて食堂に向かうことも可能だが、ここからは結構距離がある。出来れば抱き上げて行った方がお互いのためだろう。遅くなるほど向こうのイライラは募るだろうし、それをぶつけられるのは間違いなく自分だ。

 だが無理やり抱き上げ泣かれでもすれば、あとは地獄を見るだろう……。少しの脅しもこめて抱き上げる許可をもぎ取り食堂へと急いだ。


 腕の中、体をゆだねる香君は、想像よりも小さく軽い。ターバンを巻いているし、二人が保護して連れ帰ったことを考えると魔素が多いんだろう。そうなれば色々な手が廻る事は誰にでもわかる。二人もそれを知るからこそ、目を離したくないのだろう。


 階段を駆け上り、駆け下りる。通路を早足で通り抜け右へ左へと人を避けて進む。縋るように胸を掴む手がなんとも言えず役得を感じさせて、思わず頬が緩んだとしてもしょうがない。すれ違う団員達の目には羨望を感じた。香君に構いたくて機会をうかがっていたが、最近は迷子になることもなく諦めていた者達だろう。


 食堂の前でギルベルは、仁王立ちで当たりに威圧を与えまくっていた。その隣にはユーリックもいる。フォルハの腕の香君を見つけたとたんに声を上げ、彼を呼ぶ。それに応えるかのように香君が手を伸ばした。


 少しさびしさを感じながらギルベルを見ればすごい形相で睨んでいる。元の目付きが鋭いだけに、睨まれれば魔獣も逃げ出しそうである。ユーリックでさえもそのお綺麗な顔をきつくしてフォルハを見ていた。香君を連れて来た自分が睨まれる覚えはなく、香君を抱いたユーリックが去った後、残ったギルベルからどうやって逃げようかと目を彷徨わせた。


「フォルハ、香に何があった?」


「何も…。私が見つけたときは西棟の通路にいました」


「それであんなに弱るのか?」


「??」


「お前に抱かれた香は、顔は蒼ざめぐったりしていた。何かあったとしか思えない」


「い、いや、西棟から連れて来ただけだし…何もしてないし……」


 探るような鋭い目付きに思わず一歩下がれば、ギルベルは一歩進める。握り拳二つ分ほどフォルハより高い背と、筋肉に覆われた厚い体に威圧されれば、なんら疚しい事のないフォルハでもゴメンナサイと言いたくなる。


「なぜ西棟にいたのかはわからんか?」


 少し落ち着きを取り戻したギルベルが問いかける。フォルハが何もわからないと言えば、では何故弱っていたのかと再度目つき鋭く問いかけられる。

 香が急ぐフォルハの動きに耐えられなかったとは思わず、ギルベルはフォルハを見据えていた。フォルハは何故こんな目にあうのか解らず、今度から香君を見つけても、係わらない方がいいのだろうかと思っていた。


「わかった、お前が香に何かするとは思えんしな…これからも香を頼む」


 いやな汗がフォルハの背中を伝う頃、ギルベルは言った。頼むと言う言葉を知らないと思っていたギルベルから香を頼まれたフォルハは、これでは逃げる事は出来ないなと観念した……。



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