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10 そこで二人は銀色の精霊と会う。

本日三話目

 村の柵門を過ぎ、中心にある村長むらおさの家へ向かう。木の側で馬から飛び降り、手綱を架けたギルベルは振り返り、ユーリックが落馬寸前の状態にあることに驚く。

 慌てて手綱を取りユーリックを抱き下ろした。


 村の手前までは何の異常も無かったはずだ。村長の元へ急ぐ事だけを、父親たちとの合流をいていたはずだった。

 慌てたこちらの気配を感じたのか扉が開き、男が顔を覗かせ、ユーリックを認めたとたん大きく声を上げる。


「父さん、ユーリだ、ユーリが来た!!」


 その声と共に、バラバラと数人の男性が現れる。


「ユーリだと!!此処まで来たのか?!」


 一番年長の男性が声を上げたとき、ギルベルの腕にいるユーリックが小さく「父さん」と呟いた。


「急いでベッドを空けてくれ!!ユーリが倒れた!!!」

「!!!!!」


 ギルベルの叫びに一気に緊張が走り、皆が動き始める。


 家に入り奥の部屋に向かい、ゆっくりとベッドに座らせ靴を脱がせてから横にした。

 いまだ顔色は白く、唇と頬は真っ赤だった。額に触れても熱があるわけでも無く、ただ意識が朦朧としているようだ。


 掛布をかけ、目を閉じたことを確認するとそっと部屋を後にした。扉の前には切羽詰った表情の男が三人と女性が一人。

 この四人がユーリックの、父親と兄、それに長兄の結婚相手なのだろう。


「あの、あちらにお茶の用意をしています。どうぞ、こんな所で話し込んでは病人にも障ってしまいます」


 その言葉に従い、居間へと向った。




「ユーリはどうしたんだ!!」


 席に着くと同時に父親らしき人物から声が上がる。その右隣から「父さん、落ち着いて、まずは挨拶」と小声で訴えているのが、長兄だろう。


「はじめてお会いする、私は第3師団所属、ギルベル・ザント。この度はご子息の休暇付き添いとして同行した。今の、彼の症状には心当たりがある。大丈夫だ」


「!!こちらこそ、声を荒げて申し訳ない。ユーリックの父、セルゲイル・アルバです。それぞれ兄のセイリックとゲイリック。ところで心当たりとは!?」


 ギルベルの「心当たり」と言う言葉に少し落ち着いたのか、セルゲイルは先を促す。


「申し訳ない、それを説明するためには此処の村長に湖の事を聞かなければならない」


「森に入れない事と、ユーリの事が関係あるのか!?」


 驚きの声を上げる、セルゲイル。


「私の予想が当たっていれば、関係ある。それを確かめるために、話を聞きたい」


 男たちは顔を見合わせ、次兄であろう左隣のゲイリックが席を立つ。

 その後、伴われて来たのは白髪交じりの初老の男性だった。


 ジャンキスと名乗った村長の話では、当初村を開拓した初代は、森を切り開き開墾するつもりだったらしい。だが、入ってすぐの場所に湖を見つける。水は澄み冷たく、乾季でも水量は減らなかった。これ幸いと村への水路を引こうとするが、上手く行かない。何度繰り返しても地中の吸い込まれ、村まで届くことは無かった。

 不審に思った初代は、王都の魔術師に調査を依頼する。

 結果は、湖は“魔素溜り”であり、もしかしたら“精霊の泉”かもしれないといわれる。

 “精霊の泉”ならば、それだけで利用価値がある。貴婦人たちの美容水としての需要が大きいからだ。以来、開墾と水路は諦め、湖の周りに咲く花で香水かおりみずを作り始めた。村の名をボーロックとしたのもこの頃らしい。

 三つ月の後、森のある一定の場所より奥には一歩も入れなくなってしまった。何が原因かはわからない。特産品である香水が作れなければ、村は立ち行かなくなってしまうだろう。


 そこまで話すと村長は眉を下げ、困惑気味にギルベルに顔を向けた。


「三つ月の後は、まったく入れないのか?それ以前に入れなくなったことは無かったか?」


「今回だけがまったく入れんです。以前に何度か湖の一部に近寄れないことがあったと聞くが、森の途中で進めなくなるの初めてで……」


「最初の魔術師以外に調査を依頼したことは?」


「無かったと思うです、はい」


 自信がないのか小声で返していく。ギルベルの尋問とも取れるような質問攻めに、村長は徐々に俯いていった。最後には上目遣いにオドオドと答えるまでに至ってしまう。

 一通り聞き終わり退出を促すと、よほど怖かったのだろうか顔を緩ませて席を立った。


「今ので何が解るのです?」


 待ちきれずにセルゲイルが問うと、


「ユーリックは魔素にやられている」


 簡潔な答えに三人が目を見開いた。

 森の湖が“魔素溜り”である事さえ驚いたのだ。ユーリックが魔素にあたるとは思いも寄らない。


 人の生活範囲に“魔素溜り”はめったにない。そこは魔素の塊である精霊か、魔獣の住処になるからだ。何らかの要因によって、大気中に散らばる魔素が凝る場所を“魔素溜り”と呼んでいる。

 大抵は魔獣の住処になるから、人は近寄らない。ごく少数が精霊の住処となり、信仰の対象となってゆく。


 ここの湖には三つ月以後、精霊が住み着いたのだと、ギルベルは言う。

 精霊の住処となれば一時的に大量の魔素が凝縮される。集められ、凝縮しきれなかった魔素は辺りを結界のように覆ってしまうのだという。

 元来持っている魔素の少ない人物は弾かれるだけで済むが、多ければ体内の魔素を処理しきれずやられる事となる。

 今のユーリックの状態がまさにそれだ。


 説明されれば、納得するしかないが、家族にとっての問題は回復するかどうかである。


「ユーリは大丈夫なんですか?」


 こわごわとセイリック(長兄)が問いかけた。


「一晩寝て、ここの魔素量に体が慣れれば回復するだろう。最悪、無理やりにでもここを離れれば回復する」


 安心しろとばかりに口端を持ち上げギルベルは答えた。翌朝、回復したユーリックは兄二人に小突き回される事となる。



 朝食後、二人は森へと入っていった。原因を知ったユーリックは自分でなければ解決できないと父と兄を振り切った。

 実際、魔素の多い者でなければ入る事は出来ないだろう。


 人が持つ魔素の量は運にも等しい。血でもなく、場所でもなく、ただ偶然に任せるしかない。ユーリックはそんな中、大量の魔素を持つ者として生まれてきたのだ。一般的には魔素の多少は重要ではない。しかし荒事を生業にする者達にとっては貴重だ。魔素を操る事で探知が利き、魔素の濃淡を知る事で、逸早く魔獣を見つける事が出来る。生き残る確立が上がるのだ。


 ユーリックの魔素量は師団でもトップクラスだが、操作はまだまだ苦手だった。それでも何とか結界の薄い場所を突き止め、ギルベルと共に湖畔へと急いだ。


 そこで二人は煌めく“精霊の子”と出会う。



次回更新17:00です

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