表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/113

01 ほうっ、と息を吐きゆっくりと腰を下ろした。

ムーンにて先行掲載しています。

R18までなかなか届かず、ならばこちらにもと思い投稿しました。


処女作品となります。温かい目で見てください。

自分はやっと死んだのかな?


 ゆっくりと辺りを見回して、(こう)は思った。


 目の前には、幅3メートルほどの小川が流れている。キラキラときらめく水面(みなも)は、話に聞く三途の川とは違って見える。自分は死んだら地獄行きだと思っていた香にとって、目の前の光景は予想外でしかなかった。


 「人殺し」と罵られアパートに閉じこもっていた香は、経過治療のためにしぶしぶ外出し、交差点で白い光に包まれた。


 「目を開けば、また病室なのだろうか?」と思いながら周りを見れば、見慣れない自然の中に居たのだ。テレビやパソコンの画面越しにはよく見た風景だが、自分がその中に立った事はないはずだった。

 広葉樹の茂った木立の中、少し開けて清水が流れ、重なり合う葉の隙間から光が零れ落ちている。水面に落ちた光は、乱反射して薄暗いはずの木立の中が幻想的に浮かび上る。


 ほうっ、と息を吐きゆっくりと腰を下ろした。


 自分は死んだのだと思うが、行き先は地獄のはずで決してこんな天国のような場所ではないはずと混乱しながら考えた。



 中学に入った香は身体的コンプレックスを揶揄され不登校になった。熱心な担任のおかげで何とか卒業でき、ぎりぎりの成績で高校に滑り込んだ。だが進学先でもイジメにあい高校2年の春、退学した。

 その後は引きこもりのニート一直線である。

 それではいけないと近くのコンビニでバイトを始め、試用期間が過ぎ本採用となった最初の給与で家族をファミレスに誘った。そして、香が会計を済ます間に先に歩道に出た父と義母へトラックが突っ込んだ。合流しようと駆け寄った香の目の前で二人は弾き飛ばされ、なお突っ込んできたトラックに右半身を強打した。


 目覚めたら病室で、父方の祖父を名乗る人と父の弟だという人が居た。

 父の身内には一度も会ったことがない。初めて会った祖父と叔父は、香に侮蔑の眼差しをむけた。


 曰く「駆け落ちをして、自分の種でもない子供を押し付けられた」

 曰く「継子が居るから再婚しなかった」、「再婚したら、継子に殺された」


 「継子に殺された」


 今までの感謝を込めて食事に誘った。そのことが、凶事の始まりだったのだろうか?

 それとも母と出会い香を育てたことこそが、命を縮めたのか?


 父と自分に血の繋がりがない事はうすうす感じていた。典型的な日本人顔、黄味の強い肌、がっしりとした体格の父に対し、堀の深い細面の顔、まったく黄味の無い雪白の肌、細身の体。顔のパーツひとつ、体の一部さえ似通ったところは無かった。

 幼い頃の集合写真では香一人だけが異様に白く、また華奢だった。同じ年頃の男女ともに香よりがっしりとして骨太だった。

 実際ブランコからの飛び降りでバランスを崩し手を着いたら、腕の骨にひびが入ったのだ。

 家庭での食生活は大丈夫かと家庭訪問となり、父がしきりに頭を下げたことを覚えている。


 そんな父と祖父、叔父は色濃く血の繋がりを感じさせる。


 自分が異質だったのだ。自分が入り込んだから父が不幸になってしまった。義母の御腹には赤ちゃんが居たのに…。


 自分さえ居なければ…。


 気鬱のせいなのか体質なのか、病院スタッフを慌てさせるほど傷の治りは遅く、右手右足に後遺症を残して退院できたのは事故後半年を過ぎてからだった。


 その後、通院帰りに光に飲み込まれたのだ。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ