犯罪者呼ばわりは突然に
目を覚またら目の前に美少女の顔が! というのは男なら誰でも憧れる展開だと思う。だが、もし視界いっぱいにオッサンの顔が広がっていたらどうだろうか。
今の僕はまさしくその状況に置かれている。それもただのオッサンではない。ピンク色の肌、尖った耳、大きな鼻、まるで豚のような顔だ。……というか豚だ。
「うわぁ! 豚男!」
そういうとオッサンのピンク肌が真っ赤に染まった。
「誇り高いオーク族をなんと心得るか! 侵入者めが」
え、オーク? 今この人オークって言った?
そんなことを考えている間に、豚男(オーク?)が振りかぶった拳が僕の腹に突き刺さる。そのまま後ろに吹っ飛ばされてしまった。痛いなんてもんじゃない。
「人間風情が思い上がるな! 魔王城に侵入した罪の重さを知れ!」
いやいや、人間風情ってあんた。この世の中で日本語が話せるのは人間だけですよ?
というか魔王城ってあのRPGとかに出てくる魔王城か?
いろいろ言い返してやりたいが、激痛のせいで喋ることもままならない。
「今はまだ会議の最中だ。その後で貴様らの処遇を決める。それまではここでおとなしくしていろ」
言いたいことだけ言って豚男は部屋から出ていく。鉄格子のしまる音がしたということは、この部屋は牢獄のようだ。このご時世に牢獄って。
「よう柏木、いきなり災難だったな」
いきなり部屋の奥の方から声がかかった。
びっくりしてそっちを見ると、そこにいたのは見知った顔だった。
「……飯田先輩? 一体ここは」
なんなんですか、と言おうとすると先輩がさらに言う。
「まあ落ち着け。無理に話そうとしなくてもいい。俺も状況がぜんぶわかってるわけじゃないが、お前が気絶している間に起こったことは話してやるよ」
先輩の話はこうだ。
先輩が僕と酒を飲んでいたところ、突然携帯に妙なメールを受信したらしい。無視して削除すればよかったのだが、二人とも酒が入っていたこともあり、適当なことを返信してしまったらしいのだ。僕は全く覚えていないが。
「まあ、お前は俺以上に飲んでて既に酔ってたからな。問題はここからだ」
返信してしばらくすると、突然携帯の画面が眩い光を放ち始めたらしい。二人ともあまりの眩しさに目を閉じてしまった。そうして次に先輩が目を開けると、ファンタジー世界の魔物みたいな生物の視線に晒されていたらしい。
「あれよあれよという間にここに放り込まれたのでそれ以上のことはわからんがな。まあ、とりあえず会議とやらが終わるまでのんびりしてようぜ」
そういうと先輩はごろんと床に寝そべった。そのマイペースさが今はうらやましい。
あの豚男は『処遇を決める』と言っていた。もしかしたら処刑なんてこともあり得るかもしれないのだ。何かできることはないだろうか。殴られた痛みを抱えながら、僕は大きなため息をついた。