僕と冷たいヘヤ
気が向いたので投稿します。
兵士たちに連れて入れている僕は、わけもわからず小さな部屋のような場所に連れてこられていた。そこには、特にこれといった特徴と呼べるものは存在しておらず、何もない空間だった。
なぜこんな場所につれてこられたのか分からない。青年は取り合えず精霊に聞いてみることにした。
”ネイル、ここが何か分かる?”
「私が分かる筈がないじゃない?人間のことは詳しくないんだから」
”それもそうだね”
分からなければ聞けばいい。それは青年が元の世界でもやってきていたことだ。
”あの、ここで何をするんですか?”
近くにいた兵士に聞くも、答えは返ってこずただ無言で青年たちが入ってきた鉄製のドアを閉めようとしていた。これには、さすがの青年も焦り、ドアを掴んで止めようとする。
”っ!?”
突然青年の体が、ビクンッ!と痙攣したかと思うとそのままぐったりと倒れてしまった。
「えっ!?ちょ、ちょっとどうしたの!?返事しなさいよ!」
何もできない精霊はただただ、青年の周りをくるくると回る。青年の意識があったのならば精霊の実体化もできただろうが、その前に気絶させられてしまった為、それがかなう事はなかった。
次に青年が目を覚ましたのは、それからしばらくしてだった。
「あっ!」
青年の周りを飽きもせずにくるくると回っていた精霊が青年が目を覚ましたことに気がつき、その顔を緩める。
「よかったぁ。ちっとも起きないから、このまま目を覚まさないかと思ったじゃない。で、結局何をされたの?」
青年は意識を取り戻したばかりの動かない頭で必死に考える。あの時に何をされたかをだ。
あの時青年がした事といえば、ドアノブを握っただけだ。
”…!確かあの時に!”
そこで青年は思い出す。ドアノブを握った際に流れたものを思い出したのだ。
”闇精霊か…!”
あの時に自分に流れたのは、微弱ながらも闇精霊だった。
闇精霊-それは、誰にも扱える小さな精霊-それも、短い時間身体麻痺を起こす類のものだろう。
恐らくあのドアノブには、何がしかの起動キーがトリガーとなって、発動するものだったのだろう。
予めアクセスキーを設定してしまえば、微弱な闇精霊だとしてもそれなりの力を発揮する。
青年はそれに見事なまでに掛かってしまったというわけだ。
「それで、この状況をどうする?」
とりあえず思考を放棄し、自分の置かれている状況を確認する。
壁に押し当てられ、両腕は身体が無防備になるほど上に上げられ、そこからさらに鎖で繋がれてる。足は少しは動くようだが、こちらも鎖でつながれていた。
服に至っては脱がされており、上半身裸という間抜けな姿になっている。ここが太陽の当たらぬ場所のせいか少し肌寒く感じる。
天井が低く作られているのか、その天井から吊るされている小さな裸電球一つで、この部屋全体を仄暗く包んでいた。
何かしらの理由で、青年を捕まえたのだろう。だが、しかし彼らの目には青年が普通の人間に見えたのだろう。それだけ精巧に作っていたという訳でもないのだが、これに懲りてもう少し精巧に作ろうと青年は心に決める。
何をか、と言われればもちろん青年の体を構成している炎をだ。青年の身体はなく炎による擬似的なものでしかない。つまりはそれを解除すればいとも簡単に逃げられるのだが、青年はそれをしようと思わなかった。
自分を捕らえた兵士たちの目的が知りたいからだ。それまでは、精霊にも我慢してもらってこの茶番劇に応じようと言うのだ。
捕まえていると考えている兵士たちと、文字通り捕まっているふりをしている青年と力を抑えられている精霊。
勝者はもちろん、決まっている。
青年を普通の人間と同じ方法で捉えることは不可能です。