僕と便利なモノ
できれば、読んでほしいな。
両目と左手足を失って手に入れた精霊に少年は少なからず歓喜していた。炎の精霊の特性のおかげか、周りの位置だけが確認できるようになったのだ。簡単に言うならば、熱源感知。
熱源感知と言っても、熱のない物まで感知している。それはタンスであれ、ベッドであれ、有機物から無機物まで何でもござれだ。
でも、なぜ熱源感知でこんなことになるのかは少年には分からない。精霊に言われてやってみただけなのだ。
そして試しに少年は、手足は出来ないかと尋ねてみた。
「もちろん、できますよ。我が主」
やり方や具現の仕方を精霊から教わり、四苦八苦しながら少年は左手足を焼け爛れた部位から生やすことに成功した。とはいっても、成功しただけなのだ。
その手足で歩けと言われても、少年には歩くことは出来なかった。本来ない物を操っているのだ。それを今までと同じように操れと言われても無理な話である。
それでも少年は頑張ったのだ。
さらに精霊からの恩恵を受けるために炎で作れるからと、残りの右手足を差し出し、文字通り血反吐を吐きながら訓練したのだ。
歩けるようになっても、炎の手足の為、歩くたび触れるたびに自分の部屋を燃やしながら。
周りからは期待のない、侮蔑の視線を向けられても少年は頑張ったのだ。
元の世界のように、誰からも認めてもらえずとも、少年が生きていくために。
生きてこの城から出ていくために。
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幾許かの年月が過ぎ、少年は何時しか青年へと変わっていた。
そこには、希望も何もなく誰からの期待も受けないまま、整備のされた道を歩いている青年の姿があった。
周りは少し焼け焦げたかのような場所である。
「それにしてもよかったの?」
”なにがだい?”
「こんなに燃やして」
青年の周りをふわふわと浮かびながら、青年と契約した小さな精霊―ネイル―は問う。
”別に問題ないよ。どうせ近いうちに無くなる予定だったんだから。それは、精霊の君から見てても分かっただろ?”
「まあね。さすがにあそこまで行くと、馬鹿な私でもわかるわ。ああ、滅びるんだなって」
”だろ?それに、僕たちが恩を受けていた人は実質あの人たちだけだ。それ以外はどうでもいいよ。あの人たちは、無地に逃げれたかなぁ”
「そんなの確認するまでもないでしょ?」
精霊は悪戯っぽく青年に問う。
”まあね、君の力のおかげでね”
「まあ、私の力もあるんでしょうけど、貴方の力でもあるわ」
”それでも、熱源感知は君の力だろ?僕自身の力は何もないよ”
青年は自信なくに項垂れる。
「前にも話したでしょ?貴女から契約代償と貰ったものがあるから、私の力はこれだけあるの。そして、貴方から貰った物は血肉。それは食べた私はもう、貴方の体の一部の様な物だって」
”まあ、一部というより、大半だけどね”
青年は自嘲気味に自分の体を見下ろす。無くなっていた両手足と両目は、炎によって綺麗に作られており、青年の大きさに合わさられている。
綺麗、と言ってもそれは化け物の様な鋭く尖った手足なのだが。時折、ゆらゆらと揺れており形は留まってはいない。
眼に至っては、あるだけだ。存在しているだけで実際に見えているわけではない。
そして、青年が肉として使っている炎だが、実は熱くはない。
元の世界に燃えるだけで実はそんなに熱くはない炎が存在していることを思い出し、熱調整を行い成功したのだ。そのため、歩けるし、触れる。
さらに、炎の色を少し変え、肌色に限りなく近い色にしている。だから、青年の手足は限りなく本物に近いものということがいえる。
ちなみにだが先ほどから使っている、歩いている、ということなのだが、実際には歩いているように見えるが正しい。
熱くはないとはいえ、炎は不定形。形はないのだ。故に、青年は熱を使いほんの少しだけ浮いているのだ。もちろん、これは触るという行為にも当てはまるのだが、手だけは何故かすんなりと成功したのだ。
世界は不思議であふれている、ということは実感した瞬間だった。
炎も自在に操れるようになり、自分自身の生活は出来るようになった青年は文字通り城を飛び出した。
置き土産に色々なものを残しながら。
”さて、それじゃあ、いくとしようか!”
「ああ、行くとしよう!」
青年の旅が始まる。希望に満ち溢れているとは言えないが、何とも清々しい顔をしていた。
そして、城門を出る。青年を見送る者はない。
それは、当たり前の事だった。
見送る人も、居るはずであろう門番も、建物すらなかったのだから。
更新は遅めですが、これからも宜しくお願いします。