僕と厄介モノ
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すいません。
・・・混濁する意識から浮上する。これほどに気持ちの悪いことはない。僕は男―声から察するに―に胸を一突きされて死んでしまったはずなのだ。
これで、死の淵から2度目の復活となる。前述の通り、吐き気のするとても気持ち悪いものだ。
刺された部位を触って確認してみたかったが、生憎と少年の身体は動くようにはできてはいなかった。ただ、指された箇所が心臓に近いことから、自分は死んだのではないか?という推測が立てることができ、男-声から考えるに-の言葉が嘘ではない事がわかった。
”本当だったんだ”
声に出さずとも、そんな感想が湧き上がる。僕は死ねない。そんなことが現実味を帯びたのを確認してしまった。
「やあ、勇者様。目覚めの気分はどうかな?」
”・・・誰だ?”
昨日の声とは違う、僕が勇者で残念で仕方がないという声ではなく、元の世界で毎日のように聞いていた僕のことは侮蔑し嘲笑っているような声だった。
「いやあ~、本当だったんだね!今代の勇者は役立たずだって!勇者が役立たずなのは当たり前のことだけど、これは本当に使えないねっ!はははっ!おい、勇者様!ほとんど動けないんだってな」
その後も声の持ち主は、一頻り僕のことを馬鹿にした後、高笑いを上げながら去って行った。
正直、何の用事があってきたのか分からない。大方、手頃な鬱憤晴らしに僕のところへ来たのだろう。そんなことを考えていると、ドタドタと慌てているような感じでドアを開けた者がいた。
「はあ、おいっ!」
昨日、僕の胸を刺した男の声が慌てながら入ってきた。
「おい、今ここに誰か来なかったか?」
”来たけど、どうしたんですか?”
「今の人は、勇者召喚反対派の貴族なんだ。その中でも力の強いカタリナ公爵の長男、カタリナ=バレルという人なんだ」
”その方はどんな人なんですか?”
「簡単に言えば、親の権威を盾に好き放題をしている奴だ。正直、君の事を疎んじていると言ってもいい」
”何故ですか?僕は勇者と言っても何もしていないですよ?”
「それはそうなのだが、過去の勇者にこの国に多大な損害を与えたものがいてな。その時の尻拭いと、一番の被害をこうむっていたのがカタリナ公爵なのだ。その時の話をバレルも聞いていたのだろう。勇者は碌な物ではないないとな」
”・・・いい迷惑ですね”
「そうだな、君にとってはいい迷惑だな。まあ、今はバレルのことはどうでもよいのだ。今は君のことだ」
”僕ですか?”
「ああ、今の君の状態を少しでも改善したくてね。精霊の力を借りてみることにしたんだ」
”精霊・・・。そんなものまでいるんですね”
「ああ、いるのだ。それぞれ、火、水、土、風、氷、雷、光そして闇の精霊がいる。尤も、闇の精霊は微弱な力しかないがな」
”それは何故ですか?”
「もともと、力の少ない精霊なんだ。それに他の精霊の属性に弱いんだ」
”つまりは使えない精霊ということですか?今の僕にぴったりですね”
「いや、弱いというだけで使えないというわけではない。私たちの生活に密接に関係を持っているのが闇の精霊なんだ」
これには、僕も流石に驚いた。小説であれゲームであれ何であれ、闇とつくものにはいいものがいない。それが、この世界では彼らの生活に深く関っているという。
”・・・それは、何故?”
「闇の精霊は力が弱すぎて、鍛錬した者なら誰でも簡単に扱えるんだ。しかし、他の精霊は力が強すぎるんだ。とても一個人に制御できる存在ではない。しかし、稀にそんな精霊を扱うことのできる人間がいる。それが【精霊術師】と呼ばれる存在だ。そして、今までの勇者は皆が精霊術師の才能があった。だからそれを君に試そうと思う」
”それを僕にする利点はなんですか?こんな身体ではどのみち戦えないでしょう”
「だからこその精霊だ。君の制御を成し得ることが出来るのなら、君は精霊の加護を得ることが出来る」
”加護?”
「ああ、それぞれの精霊と契約をすることによって加護を貰えるんだ。今回、君に試してもらいたいのは水の精霊だ。水の精霊の加護は癒しと言われており、死者以外ならば、たちまちに癒してくれると言われている」
”…言われているって、確証はないのですか?”
「残念ながら。水の精霊との契約がなされているのは随分と昔の事らしくてな、手元に資料が無い。まあ、正直何でもいいと思っている。ダメで元々だからな」
”…はっきり言いますね……”
「当然だ。使えない勇者なら、使える勇者にしないと喚んだ意味が無いじゃないか」
いっそ清々しいまでの勇者を使う宣言。これが甘い甘言なら顔を歪める所だが、ここまで来ると、とても気持ちがいい。僕に期待していないからとりあえず試せ、と言っているのだ。
元の世界でもいたが、やはりこういう分かりやすい人とは接しやすい。
”それで、精霊と契約するにはどのよな手順ですればいいのでしょうか?”
「なに心配するな。この本を持ってくれるだけでいい。そうすれば自ずと分かる」
そうして、ポンッとお腹の上に長方形の物体X、ではなくその本が置かれた。
置かれたものの、今の少年にはそれを持つことはできない。その事を忘れていたのだろう。お腹の上に置いた本を取り、男は本を少年の手に持たせた。
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『これが今回の勇者か?』
『どうやらそうらしいね。なんだか弱そうな身体をしているよ』
『身体だけじゃないよ。精神も弱そうだよ』
『いやいや、お前ら何言ってるんだよ、弱そうじゃないだろ。弱いんだよ』
『闇のと一緒か?』
『それはあいつに失礼だな。あいつはあれで凡庸性があるし、便利だから人間に好かれている』
『じゃあ、こいつは?』
『全然だめだな。力もないし、肉体も弱い。それに加えて精神までも弱いときた。こんな奴に俺たちが力を貸したら崩壊か、自滅するだけだろ』
『でもそれじゃあどうする?契約は無し?』
『いや、それだと人間との友好的な関係が作れない。今まで勇者には精霊の契約をしてきたんだ。なら、この脆弱な人間にも契約せねば』
『誰と契約させる?』
『俺たちである必要はない。こんな奴に俺たち元素の精霊が力を貸す必要もない。あいつでいいだろう』
『あいつって、あいつ?』
『そうだ。おい、誰か炎の精霊を読んで来い!こいつと契約をさせる』
『やっぱり炎か。でも大丈夫なのか?炎の奴は今まで何人もの契約者を破滅へと導いたんだぞ?』
『だからこそだ。この勇者に魔王が倒されるとも思えん。かといって契約をしなければ人間にとっての勇者は精霊に好かれる、という根底が覆ってしまう。それはいけない』
『だから炎、で?』
『そういうことだ。力の暴走でも起こして炭にでもなればいいだろう』
『呼んで参りました!』
『うむ、ご苦労。で、炎よ、貴様を読んで理由は分かっているか?』
『は、ハイッ!私なんかと望んで契約をして下さる破格の人間がいるとかなんとか!ぜひやらせて下さいっ!今度こそは大丈夫です!』
『そうだな。今度は頑張るんだぞ』
『ありがとうございます!不肖、ネイル=ネース、行って参ります!』
『おう!頑張ってこい!今度はすぐに戻ってくるんじゃないぞ』
『ハイッ!分かっております!』
……………………………………………
『行ったか』
『全く、力が強いくせにその力を自覚をせず、さらには制御できないなんて何と愚かな精霊か』
『願わくば、あの人間もろとも存在そのものが消えてなくなればいいのだが…』
『まあ、それも時間の問題でしょう。あの者に他の契約者はいない。力の提供者がいないのであれば精霊とて存在が危ぶまれますからな』
『そうだな』
『ところでさあ、勇者って死なないんじゃねぇの?』
『お前はまたそんな馬鹿な事を…。これで何度目だ?』
『いいじゃねぇかよ!どうでもいい事はすぐに忘れちまうんだからよ!』
『胸を威張りながら言う事か!まあいい。基本的に勇者は死なない。人間はそう理解している。しかし、現実は違う。当然ながら例外が存在し、その例外こそが、力の暴走による消滅だ』
『力の暴走?』
『ああ、自分自身の力の暴走により自分に呑まれるのだ。勇者の力の暴走はこの世界の誓約に反しているからな。神によって選ばれているが、神の誓約によって勇者は死ぬ』
『なるほど』
――――――――――――――――――――――――――――――――――
『・・・げ・・・な・・・・・・・い』
『人間よ、起きなさい』
”な、何だ?”
『人間、我との契約に、汝何を差し出すか?』
”意味が分からない?何のことだ?”
『人間、我との契約に、汝何を差し出すか?』
もしかしてこれが、精霊との契約なのだろうか?何かを出せって言っているし何を出せばいいのだろう?
”何を出したらいいのでしょうか?”
『汝が持つ物を』
僕が持っているものって言っても、何も持っていない。
”すいません。今僕には差し出すべきものがありません”
『あるではないか。汝にはその身体が』
”ああ、なるほど!”
契約条件に代償がいるのは知らなかった。けど、分かったのなら出さばいい。ちょうど今の僕には必要のないものが少しならある。
”なら、僕の両目と左手足を差し上げます”
『・・・・・・・!それでよいのか?』
”構いません。今の僕には必要のないものですから”
『了解した。それにより、今ここに我と汝の契約は果たされる』
すると、僕の意識は再び遠のき・・・・・・・・・・・・・・・、
掛けた所で、激痛に見舞われた。それは肌に直接焼印を押し付けるようなものだった。恐らくだが、そんな柔なものでもない。
僕の両目と左手足はまるで溶かされているのかとでもいうのかの如く激痛と熱さに遠のきかけた意識は一瞬で吹き飛び、僕の意識は強制的に沈んでいった。
彼女は驚きを通り越し、吃驚を超え驚愕していた。
本来精霊と人間との契約に差し出すものは、自身の魔力の何割かなのだ。精霊は人間よりも強いが魔力消費が高い。
魔力そのもので構成されている彼ら彼女らは、存在しているだけで自身の魔力を消費する。
しかし、精霊にとって人間の魔力はまた格段に違うものでもあるのだ。
例えば、人間が10の魔力を精霊に渡すとしよう。しかし、その10の魔力は精霊にとって1000もの近い数字になる。
そして、人間の身体には当然ながら魔力が流れている。それは老若男女関係なしにだ。精霊と契約できる人間ならば通常の人間よりも多く流れている。
形のない魔力よりも形のある魔力の方が当然ながら多い。そして、眼は人間にとって多くの魔力が流れている部分でもある。視線で相手を操るものまでいるのだ。
そんな眼を、しかも両目を代償に貰えるというのだから、ネイルの驚きは当然ともいえる。
ネイルは今回の契約者に一人歓喜した。
現在の彼の状態
・左手足存在せず
・両目存在せず
・炎の精霊と契約




